大結節骨折の手術とリハビリテーションを中心に肩の骨折を徹底解説

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上腕骨大結節骨折(じょうわんこつだいけっせつこっせつ)とは?

ということから解説いたします。聞き慣れないと少し複雑な名前ですが、骨にも細かくいろんな部位があり、部位によって治療法が違いますから、肩の骨折、手首の骨折・・・のような大雑把な表現は病院ではほとんどされず、このように「どの骨のどこが折れたのか?」ということを表す診断名が使われます。

今回の上腕骨大結節骨折は少しのズレも肩の機能、はたらきに影響を及ぼしやすいというのがポイントです。

それはなぜなのか?では、どういう治療・リハビリがあるのか?ということを解説していきます。

特に私の場合は肩関節鏡を専門にしており、
骨折をアンカーという糸付きのネジを使って固定する方法をよくやりますので、詳しく解説します。

 

こんにちは、肩を専門とするスポーツ整形外科医の歌島です。
本日も記事をご覧いただきありがとうございます。

それではいきましょう!

上腕骨大結節とは肩の外側の出っ張り

上腕骨大結節(じょうわんこつだいけっせつ)というのは、上腕骨という腕の骨の肩よりで一番外側の出っ張りです。

画像引用元:肩関節外科の要点と盲点 (整形外科Knack & Pitfalls)第1版 文光堂

すぐ近くに肩甲骨の外側の出っ張りである肩峰(けんぽう)がありますので、外側からは注意深く触れないと間違えてしまいます。

上腕骨大結節に腱板が3つ付着している

この上腕骨大結節には腱板(けんばん)と呼ばれるインナーマッスルが3本くっついています。これが大結節の存在意義と言ってもいいと思います。

肩を安定化させるためには肩の周りで上腕骨側にも筋肉の付着する部位が必要ですが、上腕骨頭というボール状の軟骨には筋肉は付着できません。

そのため、関節からは離れた側に出っ張りをつくって、大事な腱板筋群を付着させたのだろうと思います。

上腕骨大結節骨折は腱板に引っ張られてズレる

そして、この上腕骨大結節が折れてしまうと、大きな上腕骨のメインの骨と欠けてしまった上腕骨大結節骨片(こっぺん)に分かれます。

そして、この大結節骨片には腱板という筋肉が付いてします。筋肉はもともと縮む作用を持っていますから、この骨片を引っ張って、結果として大結節骨片はズレます。

画像引用元:上肢の骨折・脱臼 手技のコツ&トラブルシューティング (OS NOW Instruction)第一版 メジカルビュー社

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骨折の程度によって、ズレ方は異なります。ヒビ程度で骨膜という骨の周りの膜が残っていたりすればズレはほとんどないことになりますし、最初っから派手にズレちゃっているモノもあります。

上に5mm以上ずれるとインピンジメントの原因になり得る

このズレの程度ですが、1つの境界線が5mmと考えられています。

特に腱板のうちでも棘上筋に引っ張られて上方に5mm以上ズレると、肩甲骨の肩峰(けんぽう)との距離が縮まり、肩峰下インピンジメント症候群の原因となり得ます。

そうなってしまうと、骨がくっついても、肩を動かしたときの痛みが残るか、肩を挙げられなくなってしまうという状況が考えられます。

その可能性が高いと判断すれば、5mm程度のズレでも手術をします。

上腕骨大結節骨折の手術は少し悩ましい

上腕骨大結節骨折の手術は少し悩ましい問題があります。

大結節は弱い、脆い骨

まず大結節は弱く、脆い骨の部位になります。われわれ、手術をやっていると実感することがありますが、骨を固定するために金属のネジや針金を打ち込む際に、この大結節が割れてしまうことが時々あります。

強い骨であれば、こういう金属を打ち込むと、骨折部位のすごくいい固定になるんですが、脆い骨の場合は、なんとか割れずに固定できても、術後、リハビリの過程でズレてきてしまうなんことも起こりえます。

腱板という筋肉に常に引っ張られている骨

もう一つ悩ましいのは腱板という筋肉が常に引っ張っている骨と言うことですね。

これは骨折を元の位置に持っていくのにも、時に筋肉の引っ張る力が強くて、カタくなってしまっているために苦労することもありますし、術後にだんだんズレてしまう原因にもなります。

大結節骨片がかなり小さいことがある

大結節骨片が欠け方によって、かなり小さいこともあります。そうすると骨片同士を金属で固定するにも太いネジや針金は、先ほども言ったとおり、入れた瞬間に骨片が割れてしまうということになります。

強い糸(アンカー併用)や柔らかめの針金で腱板ごと固定しちゃう

このように悩ましい上腕骨大結節骨折ですが、それを解決するための1つは、腱板そのものに糸や細い針金を通して、それを使って、大結節骨片を固定してしまおうということです。

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実際、大結節よりもそれに付着する腱板の方が強いというのは良くあることで、これがスタンダードな方法といえます。
それに加えて、骨片同士も可能であれば金属(ネジやカタい針金、時にプレート)で固定するということになります。

おそらくスクリューだけでなく強い糸などを腱板にかけてスクリューと固定しているはずです。 画像引用元:上肢の骨折・脱臼 手技のコツ&トラブルシューティング (OS NOW Instruction)第一版 メジカルビュー社

関節鏡手術でアンカーを使って治すこともできる

このように腱板が付着するという悩ましい問題を逆手にとって、腱板ごと固定するということは、腱板断裂の手術と少し似ている部分があります。

そうなると関節鏡も選択肢に入ります。

arthroscope surgery

僕の場合は骨片の大きさなどによりますが、関節鏡だけを使ったり、関節鏡を補助的に使ったりして、できるだけ低侵襲(皮膚の傷や周りの筋肉などの組織を傷めない)な手術を心がけています。

こちらは手術前のレントゲン写真で大結節骨片が上に上がってずれているのがわかります。1cm以上上がっていますので、これは手術した方がいいと判断して、関節鏡での手術を行いました。

それがこちらです。

ほぼほぼもとの位置に整復固定されています。ピーク素材という医療用プラスチックでできたアンカーとそこから出ている糸で固定しているのでレントゲンには何もインプラントが写りません。

 

この動画は僕のよく行う手術と同じような方法です。関節鏡を使って骨折部分をキレイにして、新鮮化(血流を良くしてくっつきやすくする)し、そして、骨の中にアンカーというネジを用いて糸を埋め込んで、ブリッジング法という方法で骨片を腱板ごと固定してしまうという方法です。

大結節骨折は他にも、上腕骨頚部骨折や小結節骨折、肩甲骨骨折などと一緒に(合併)起こることもあります。
ここで肩の骨折全般の基本知識をまとめておきます。

上腕骨骨折の大分類

まずは上腕骨骨折の大きな分類を解説します。長い骨ですから、折れる部位によっても治療やリハビリポイントが違います。

上腕骨近位端骨折=肩ちかくの骨折

まず肩に近いところですね。これを上腕骨近位端と言います。近位というのは身体の中枢に「近い位置」ということですね。

この部位には上腕骨骨頭(こっとう)、解剖頚(かいぼうけい)、外科頚(げかけい)、大結節(だいけっせつ)、小結節(しょうけっせつ)など複雑な形状をしているのが特徴です。

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上腕骨骨幹部骨折=上腕の真ん中辺りの骨折

次に真ん中あたりの骨折ですが、これは骨の幹(みき)ということで骨幹部(こっかんぶ)という名前が付いています。

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この骨幹部は特に複雑な肩ではなく、棒状、円筒状です。シンプルでいいんですが、近位端、遠位端に比べれば細いので、ズレやすい、不安定になりやすいというデメリットがあります。

上腕骨遠位端骨折=肘ちかくの骨折

肘近くは、上腕骨の中で中枢から「遠い位置」ですので、上腕骨遠位端と言います。

こちらは肘関節を構成するので、肩関節を構成する近位端同様、複雑な形をしています。

上腕骨近位端骨折の基本を解説した動画

上腕骨近位端骨折の基本をこちらの動画でおさらいしましょう。

https://youtu.be/FzA3_RzyLZw

肩甲骨の役割を部位毎に解説

次に肩甲骨という骨の役割を解説いたしますが、肩甲骨というのは非常に複雑な形をした骨で、その複雑な形にはそれぞれ意味があります。

その代表的な部位と役割を解説いたします。

肩甲骨関節窩 関節の受け皿 と そこに連なる頚部

まず肩甲骨の関節窩(かんせつか)という場所です。これは肩関節を構成する半分です。肩はボール&ソケットと呼ばれ、球状の上腕骨頭とやや凹んだ平らに近い受け皿側の肩甲骨関節窩から成る関節です。

そのため、肩甲骨関節窩は肩関節の1/2を占める非常に大切な部位と言えます。

画像引用元:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器 第一版 医学書院

ここが折れてしまえば、関節の形はおかしくなり、軟骨に段差ができてしまえば、スムーズな関節運動はできなくなり、軟骨はどんどんすり減り、痛みは残り・・・

なんていうことになりかねません。

また、この関節窩と肩甲骨体部の間に薄細い部分が有り、これを肩甲骨頚部(けいぶ)と言います。肩甲骨の首にあたる部位ですね。

画像引用元:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器 第一版 医学書院

ここの骨折は角度がズレると、関節窩の角度が変わることになるので、肩関節の角度が変わることになります。
つまり、ダイレクトに肩に関わる骨折と言えるでしょう。

肩峰 三角筋付着部・肩鎖関節

肩峰(けんぽう)は肩甲骨で一番外側に張り出した部位です。肩というと、この骨を触る人が多いと思います。

画像引用元:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器 第一版 医学書院

この役割としては

  • 三角筋の付着部
  • 肩鎖関節を形成する

という二つがあります。

三角筋というのは腕を前から横から後ろから挙げる筋肉として非常に重要なわけですが、この筋肉の始点という役割があります。

また、肩鎖関節という肩甲骨と鎖骨から成る関節も、実際は肩峰と鎖骨から成る関節と言えます。

肩甲棘 三角筋、僧帽筋付着部

次に肩甲棘(けんこうきょく)ですが、これは肩甲骨の後ろに長く出っ張る部位です。先ほどの肩峰や次に烏口突起などもそうですが、骨の出っ張りはほとんどが筋肉の付着部になっています。

画像引用元:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器 第一版 医学書院

肩甲棘で言えば、先ほどの三角筋とさらに肩甲骨と背骨をつなぐ僧帽筋の付着部になっています。

烏口突起 腱・靱帯の付着部

烏口突起(うこうとっき)肩甲骨の関節窩に次いで重要と言えるかもしれません。

画像引用元:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器 第一版 医学書院

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

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それは、多数の筋と靱帯が付着しているからです。

筋肉で言えば

  • 小胸筋(しょうきょうきん)
  • 烏口腕筋(うこうわんきん)
  • 上腕二頭筋短頭(じょうわんにとうきんたんとう)

がくっついていますし、

靱帯で言えば、

  • 烏口鎖骨靱帯(うこうさこつじんたい)
  • 烏口肩峰靱帯(うこうけんぽうじんたい)
  • 烏口上腕靱帯(うこうじょうわんじんたい)

という靱帯がくっついています。

特に烏口鎖骨靱帯は肩鎖関節の安定性に重要で、これが切れてしまうと肩鎖関節脱臼が重症化します。

肩甲骨体部 インナーマッスル付着部

肩甲骨体部(たいぶ)は肩甲骨の一番大きな部分で、多数の出っ張り「以外」と言ってもいいかもしれません。

画像引用元:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器 第一版 医学書院

これは比較的折れやすい部位ですが、幅広くインナーマッスルが付着している部位なので、血流のいい筋肉に覆われているという要素が大きく、むしろ骨のくっつきもいいですし、ズレが肩の機能に直接大きく関わるわけでもないので、手術になることは少ないです。

 

 

次に肩の骨折手術がどういうものなのか?どんなインプラント、金属を使うのか?というようなことについて解説いたします。

骨折の手術の基本

肩に限らず骨折の手術の基本を解説いたします。骨折の手術は観血的整復固定術(かんけつてきせいふくこていじゅつ)という名称がつきますが、それは「観血的」=手術で、整復して、固定するということです。この言葉に骨折の基本が含まれます。

ズレをできるだけ元に戻す

まずズレをできるだけ元に戻すということです。これを整復と言います。当然、骨折の治療の一つの目標は元の形で骨をくっつけることですから、ズレを戻さないといけません。

元に戻した状態で金属などでしっかり固定する

そして、元に戻した状態で固定、キープしないと、また、手術後にズレたら何の意味もありません。これを固定と言って、ギプスなどで固定するのを外固定手術などでの固定を内固定と区別したりします。

つまり、金属などを使って、手術で固定することは内固定ですね。

肩の骨折の固定に使う金属・道具

では、この骨折の固定に使うインプラントの解説です。特に肩の手術では多彩な金属が使われ、時には強い糸なんかも使います。

髄内釘(ずいないてい)

まず髄内釘という金属です。

髄内というのは骨髄(こつずい)の中という意味です。骨の構造は外側の硬い殻のような皮質骨とその中の比較的柔らかい骨髄に分かれます。

そして、髄内釘はこの骨髄の中を骨折部をまたいで、ズブズブズブっと釘を入れることで、骨折部を固定してしまおうというものです。

釘といっても、太ければ太いほど固定性は上がるので、比較的太い棒のようなモノが入ります。

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メリットは骨の中をズブズブズブっと入れるので、その入れる入り口さえしっかり開ければ、それ以上に傷を大きくあける必要がないという点です。つまり、低侵襲と言えます。

デメリットは関節近くや、関節内骨折のような骨の端っこの骨折は固定は難しいことや、固定が多少アバウトになってしまうことです。

プレート

次にプレートです。プレートとはその名の通り、板状の金属のことですが、板に穴があいていて、その穴からネジを入れることができる仕組みなんですね。

なので、骨に沿ってこのプレートをピタッと当てて、そのプレート越しにスクリューを骨に入れる。プレートを介して、骨折部を固定するということになります。

画像引用元:肩関節外科の要点と盲点 (整形外科Knack & Pitfalls)第1版 文光堂

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これはメリット、デメリットが髄内釘の逆のようなイメージです。

骨に沿って当てるということは、そのプレートのサイズ分の傷の大きさが必要と言うことで傷が大きくなってしまいます。(低侵襲手術として、骨の表面を滑らせるようにプレートを挿入して固定する方法もあるにはあります)

しかし、しっかりと骨折部をみながら、プレートを当てることで、ピタッと骨折部を整復することがやりやすくなります。

つまり、低侵襲だけどアバウトな髄内釘に対して、高侵襲だけど厳密な整復固定ができるプレートというようなイメージが基本的なとらえ方でいいです。

スクリュー

スクリュー、つまりネジですね。

これは先ほどの髄内釘でもプレートでも、結局使います。髄内釘にも穴があいていますし、プレートにも穴があいています。この穴越しにスクリューを入れて、髄内釘と骨、プレートと骨を固定するということが基本なので、スクリューは基本中の基本のインプラントと言えます。

しかし、骨折部によってはスクリューのみで固定しちゃうこともあります。多くは骨折した骨の片方が小さいときで、プレートを使うほどでもないというときが多いですね。

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ワイヤー

ワイヤーです。キルシュナー鋼線という名前が付いていて、略してK-wireと呼ばれますが、要は針金です。

スクリューのように太いものを入れると割れちゃうような小さい骨でも、ワイヤーなら数本入れて、固定することもできます。

柔らかいワイヤーと強い糸

また、締結法(ていけつほう)といって、柔らかい針金や強い糸を使って、骨折部位とワイヤー、または骨と腱板、骨と骨など様々なものを結んじゃうような方法もあります。

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手術の基本について一通り解説いたしました。

次はリハビリテーションについてお伝えしていきます。手術するときによく患者さんにお伝えするのが、
「手術半分、リハビリ半分」ということです。つまり、手術がうまくいってもまだ半分ということです。

それだけリハビリが大切ということですね。

上腕骨大結節骨折のリハビリテーション

肩はカタくなりやすい

一番は肩の関節はカタくなりやすいということです。拘縮(こうしゅく)と言います。

この拘縮予防が上腕骨大結節骨折においてまず考えたいものです。

それにはできるだけ早くから肩をどんどん動かせばいいわけですが、それをすれば、骨折がズレてしまう可能性があります。

そのため、ある程度、骨折がズレないと言えるくらいにくっつくまで、もしくは手術で骨折部を固定するまでは動かせません

骨折がズレず、しかし、拘縮しないようにできるだけ早く動かす

という、絶妙なバランスが必要になります。

肩は完全な固定が難しい

他の関節と違って、肩はギプスのようなものでのしっかりした固定ができません。巻こうと思えば巻けなくはないですが、身体ごと巻かないと固定できないので現実的ではありません。

そのため、三角巾などで固定というか、安静というか・・・という状態が基本です。

それにバストバンドという胸用コルセットみたいなものを腕ごと巻いたり、ストッキネット・ベルポー固定と呼ばれるような方法が、もう少し固定性を高めた方法としてあります。

ストッキネットによるベルポー固定
画像引用元:肩関節外科の要点と盲点 (整形外科Knack & Pitfalls)第1版 文光堂

上腕骨大結節骨折後のリハビリは積極的に動かしていく

骨折がズレず、しかし、拘縮しないようにできるだけ早く動かす

という絶妙なバランスでリハビリをしていかなくてはいけないということを解説しましたが、そういう意味では、大丈夫と判断すれば肩は積極的に動かしていくことが必要になります。

振子運動訓練

基本は振子運動訓練と呼ばれるリハビリです。当サイトでも何度も紹介していますが、重力や慣性力を使って、力を抜くことができるのが一番のメリットです。

また、上腕骨の長軸方向に牽引力、つまり引っ張る力が加わるので骨折がズレにくいという作用も期待できます。そのため、上腕骨大結節骨折では骨がくっつく前の早期から行うことが多いリハビリテーション項目です

そのほか、肩の骨折後のリハビリテーション全般について、もう少し解説を加えます。

肩の骨折全般に大切なリハビリポイント

自動可動域訓練と他動可動域訓練の使い分け

肩の周囲の骨は肩甲骨、鎖骨、上腕骨大結節、小結節と筋肉の重要な付着部が目白押しです。

そのため、自分の筋力を使って肩を動かそうとすると、その筋肉の付着部を引っ張ることになり、場合によっては、骨折がズレてしまう原因になります。

そういう意味で、肩の場合はまず他動可動域訓練からはじめることが多いです。

可動域訓練(かどういきくんれん)とはそのままの意味で、動かせる(可動)範囲(域)を広げるように訓練するということで、

「他動」可動域訓練とは「他動」つまり、他の人、もしくは他の手(自分の逆の手)などで動かしてあげる・・・つまり、関節が「動かされる」状態での可動域訓練です。

その逆が「自動」可動域訓練です。自分の力、筋力で関節を「動かす」可動域訓練ですね。最終的には自分で動かせないと困りますから、この自動可動域訓練も重要です。

肩関節の動きは上げるだけではなく、幅広く動く

肩関節は最初はやはり上がるかどうかがリハビリテーションの進み具合のわかりやすいポイントですが、なかなか上がりが悪いということは良くあります。

それは肩という関節が単に上げて、下ろして、というシンプルな関節ではないということも関係しています。

 

どういうことかと言うと、

肩関節の動きには

  • 挙上(屈曲):前から上げる
  • 伸展:後に上げる
  • 外転:外から上げる
  • 内転:内に閉じる
  • 外旋:「小さく前ならえ」から手を外に持っていく
  • 内旋:「小さく前ならえ」から手を内に持っていく、背中を触る

 

と基本的な動きだけでも6種類あります。

 

他動挙上訓練ということでいうと、このように誰かに上げてもらうということが楽ですが、

自宅で1人でやる場合は逆に手で持って上げていくことになります。

外旋は小さく前ならえから手を外に開いていく動きと述べましたが、この動画のように少し脇を開いた状態から開くと腱板(インナーマッスル)が少し緩むので動かしやすくなります。

 

内旋はこのように棒を使うとやりやすいです。

これは下の手(右手)のストレッチなんですね。手を背骨に沿って上に上げていくときに肩は内旋していっています。この内旋がカタいと背中に手が回せなくて困ってしまうわけです。

肩甲骨骨折のリハビリポイント

次に肩甲骨の骨折におけるリハビリの基本的なポイントを2点お伝えします。

肩甲骨骨折のリハビリは拘縮にならないように早めに動かしていく

肩甲骨自体は筋肉に覆われていて、さらに、細長い上腕骨などのような長管骨とは形状からして異なり、その形状はズレにくく、骨もくっつきやすいというメリットをもらたしています。

また、肩周囲の骨折の特徴として肩関節が容易にカタくなってしまうというリスクがあります。

そのため、手術をした場合もしない場合も、できるだけ早めに肩関節を動かして、肩関節がカタくならないようにしていく必要があります。

基本は筋肉の付着部なので他動可動域訓練

多くの部位の共通するポイントとして、筋肉の付着部であるということですね。そのため、その筋肉を使うようなリハビリは骨折のズレを助長する可能性があるので、場所によっては特定の筋肉を使う動きについては、「動かされる」タイプの「他動可動域訓練」というものから開始します。

例えば烏口突起骨折であれば、烏口腕筋、上腕二頭筋などを使うような肩の前方挙上、肘の屈曲については「他動」から開始するというような考え方ですね。

関節窩骨折の多くは手術でしっかり固定後、可動域訓練を慎重に

重要な関節窩骨折の場合は少しのズレで肩関節の機能が大きく損なわれかねませんので、手術をすることが多いです。

画像引用元:OSnow_instruction_11_肩・肘のスポーツ障害 メジカルビュー社

関節窩というのはまさに関節軟骨の一部ですから、この部分の骨折は「関節内骨折」という分類になります。

この「関節内骨折」の手術適応は一般的には2mm以上の転位と言われています。

手術で固定したあとも、肩を動かすときにどうしても力が加わってしまいますし、関節内骨折は血の巡りが悪いので、骨のくっつきに時間がかかります。

そのため、術後のリハビリも慎重にやることになります。

脱臼のときに関節窩が欠ける骨折は骨性バンカート病変と呼ばれる

ただ、関節窩骨折はよく脱臼の時に前側が欠けるような骨性バンカート病変と呼ばれる状態があります。

この場合は骨片がすごく小さければ、一般的な関節内骨折というよりは脱臼の後遺症としての考え方が必要です。
つまり、脱臼がクセになるかどうか?という視点です。

そして、クセになるようだったら手術を検討します。

上腕骨近位端骨折のリハビリポイント

上腕骨近位端骨折に限らず、共通する大原則として、

  • 手術をしてない場合は骨がくっつくまでは関節を動かさない
  • 手術をして十分に骨折部が固定できた場合は早めに関節を動かす

ということです。

当然、関節を動かさないと関節はカタくなります。特に骨折後は出血もしていますし、関節や周りの癒着が起こりやすいので、カタくなりやすいです。

ですから、手術でしっかりと骨折部がズレないように固定できれば、多少痛くても早くから関節を動かすリハビリを開始します。

画像引用元:上肢の骨折・脱臼 手技のコツ&トラブルシューティング (OS NOW Instruction)第一版 メジカルビュー社

しかし、手術をしてない場合は、関節を動かせば骨折部がズレてしまうリスクが大きいので、骨がある程度くっつくまでは動かせません。

それを多くの関節はギプスのようなもので固定するわけですが、肩においては三角巾のようのなものや、装具のようなものを使わざるをえず、完全な固定とはいかないのが難しいところです。

Portrait Of Young Man With Arm In Sling

大結節・小結節は腱板がくっついている

この上腕骨大結節骨折の特有とも言えるポイントとして、大結節と小結節に腱板というインナーマッスルが付いていて、常に肩を動かす時に、骨を引っ張るということです。

ですから、肩を動かしていく「可動域訓練」のときも、自分の力で、つまり、自分の筋肉を使って動かしていく「自動可動域訓練」と、リハビリを担当する療法士や、自分の逆側の手を使って、自分の筋肉は脱力したままで動かす(=動かされる)「他動可動域訓練」を区別して行います。

最初はインナーマッスルによって引っ張られてズレてこないように、「他動可動域訓練」からはじめるのが肩のリハビリの基本です。

骨がくっつく前から振り子運動リハビリを推奨する先生も

また、肩のリハビリでよく行われるのが振り子運動というもので、頭を下げて、腕の力を抜いた状態で、腕を前後左右、円状に振る運動です。

これは、まず上手に力を抜ければ、いい他動可動域訓練になりますし、また重力や慣性力で骨折部は牽引される力が緩く加わります。骨折の整復(元の形に戻す)の基本は牽引ですから、この牽引力は多くの場合はプラスに働きます。

そのため、骨折した当初から、この振子運動リハビリだけはしっかりご指導した上で、やってもらうこともあります。

上手にできれば、骨折がズレずに、肩がカタくなるのも防げますからオススメですが、当然のことながら振子運動でも痛みがありますから、動きがぎこちなく、力が入ってしまったりすれば、骨折部がずれてしまうこともありますので、ケースバイケースと言えます。

まとめ

今回は肩の骨折の中でも上腕骨大結節骨折についての基本から治療、リハビリについて解説しました。この大結節は腱板という肩の大事なインナーマッスル群の付着部であったり、ズレがインピンジメント症候群という痛みの原因になったりと、注意が必要な骨折であることを解説いたしました。さらに肩の骨折全般の手術やリハビリの基本もおさらいしていただける内容にしていますので、ご参照ください。

少しでも参考になりましたら幸いです。

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