肩という関節の治療を専門としている整形外科医は日本にどのくらいいると思いますか?
実は、整形外科医というのは日本全国に内科、外科に次いで多いんです。 意外かもしれませんね。
内科や外科なんていうのは、消化器内科や循環器外科と細分化されていますから、そういった細分化した中で言えば、整形外科が一番多い科とすら言えます。
しかし、整形外科も実は細分化されます。 膝や背骨(脊椎)を専門にする整形外科医が多いですが、さらに手の外科、股関節の外科、足の外科、腫瘍の外科、そして肩の外科などに分かれます。
これらの中で圧倒的に少ないのが、足と腫瘍と肩です。
肩っていうのは、五十肩や腱板断裂というような、多くの患者さんが患ってしまう状態が含まれるので、本来はニーズが高い分野でもあるんですね。
そんなニーズが高い分野ですが、現状は専門外の整形外科医が診療していることがほとんどです。肩の専門家が少ないわけですから、仕方ないですね。
その場合の私の個人的な印象は
- 手術がベストな状態でもその選択肢が提示されることは少ないか遅れる
- とりあえず経過観察になりやすい
- 精密検査も診断や治療に自信がないからか、あまりやられない傾向がある
- 診断があいまいだから治療もなんとなく(注射も同じ場所にしかやらない)
など。。。
失礼な話ですし、あくまでも個人的な印象です。
でも実際のところ、そんな状態が今の整形外科の世界かなと思いますが、そんな中でどうやって肩の名医に出会うべきか?というものは難しい問題かもしれません。
今回は私が考える肩を専門とする整形外科の名医とは?どういう医師のことなんだろうか?というものがなんとなく見えてきたのでご紹介したいのと、
名医をどうやって探せばいいのか? ということ、
また、名医のなり方についても経験論を交えてお伝えしてみたいと思います。特に最後の名医のなり方は医師でなくても参考になる考え方だと思います。ぜひ、ご覧ください。
肩を専門とする整形外科の名医が見ている景色
雑誌や書籍、テレビなどでよくある「○○の名医に密着!」みたいなもので特集される医師が本当に名医かどうか・・・
それは賛否両論で、私からは何とも言えません。
ですが、やはり「名医」というのは周囲からの評価であることには違いないと思います。
「私は肩の名医です!」
って怪しいですよね 笑
もちろん、ですから、私自身 「肩の名医をご存じですか?」と聞かれて、 「私です」 と言うことはありません。当然。
知る限りで信頼できる、すばらしい先生方をご紹介しています。
でも、やるからには誰からも名医と言われるような実力や実績や人間性がある医師に到達したいと思っていますし、
そんな過程にある今、なんとなくですが、 名医と呼ばれる医師たちはこういった景色が見えているんじゃないかな?
こんな意識で日々、やってこられているんじゃないか?
というものが見えてきたので、まとめてみたいと思います。
多くの方の手術を任される責任と欲
数年前から私の外来には多くの肩関節の悩みを持つ患者さんが集まって、ご相談に来てくださいます。それはこのような情報発信をご覧いただいた方や、周囲の整形外科の先生方からのご紹介や、口コミで評判を聞いて来てくださった方などですが、
そういった多くの患者さんを診察して、治療していく。特に手術をするとなると、その責任の大きさというものがまずやってきます。
もちろん、たくさん手術をしても、お一人だけの手術をしても、責任の重さに違いはありません。たくさん手術をするといっても、お一人ずつ手術をするわけで、平行してやることもありません。当たり前ですが。
ただ、やはり遠方から来ていただいたり、ご紹介していただいたり、私の外来受診を希望していただいて来ていただいている方が増えれば増えるほど、身が引き締まる思いが強まります。
結局はしっかり準備して、全力で手術をすることに変わりはないんですけどね。
同じ手術をしても個人差はある
しかし、同じようにしっかり準備して、全力で手術をしても、その結果は個人差がつきものです。 人の身体ですから当然なんですが、スムーズにすぐに良くなってしまうという人もいれば、明かな理由がない中でも症状が全然良くならない人もいます。
満足度100%に近づけたい欲
そんな中でもたくさんの患者さんに来ていただき、治療をしている中で、
責任と同時に欲がでてきます。
それは100%の人が100%満足する状態に近づけたいという欲です。
100% x 100%なんていうのは医学の世界ではあり得ない話ですが、近づける欲はあっていいと思います。どうしても、日々の診療に忙殺されると、100%なんて無理なんだから、最低でも60%の出来をキープしたいというような気持ちになってしまうことがあるんですが、
今はそういう気持ちにはまったくならなくなっています。
手術したの?っていうくらいの手術を
そういった満足度100%を目指す中で、肩の関節鏡手術をメインにやっていると、
肩の関節鏡手術はまだまだ進化の過程だなということです。
肩の関節は関節鏡手術でできることが多い関節ですが、関節鏡でやる一番のメリットは「低侵襲」です。 キズが小さいこともそうなんですが、その奥の筋肉を大きく裂くことも必要ないですし、また、処置も内視鏡で拡大した映像を見ながら丁寧な処置ができます。
デメリットは手術手技の難しさ、煩雑さです。まだまだ慣れが足りない執刀医であれば関節鏡手術はかなり時間がかかる手術になっています。 しかし、私たちののスキルの向上や器具の進歩によってどんどん改善してきていますので、
結果として、手術時間的にも手術侵襲的にも「手術したの?」 と思わせるくらいの手術で治療ができれば一番いいなと思っています。
手術の仕上がりは何より重要
関節鏡であろうが、直視下で大きく開けてやる手術だろうが、手術の仕上がり、出来上がりに差が出てはいけません。差があるなら、出来上がりがいい手術法を選択すべきです。
そういう意味では差がなくなっているからこそ、関節鏡手術が肩において主流になってきているわけですが、
それは、今後、私が目指す
「手術したの?」 と思わせるくらいの手術
でも当然、最低限の基準です。
仕上がりがしっかりとした中で手術時間が早くなったり、低侵襲であったりすれば、それは満足度100%に近づくのではないか?と考えています。
手術時間がすべてではないが
手術時間というのは同じ仕上がりなら、短ければ短いほどいいと考えています。
それは急いで雑に手術をやるということとは別の話で、 余計な処置、無駄な処置をせずに、スムーズに手術が滞りなく進む手術の結果、手術時間が短くなっていく状態を目指しています。
手術時間が長いのは肩の関節鏡手術であれば、
- 内視鏡カメラの視野の確保に手間取っている
- 必要ない部位までお掃除(滑膜切除など)をしている
- 出血のコントロールに手間取っている
- 一つ一つの手技がスムーズでない
- 手技のやり直しが頻回にある
- シンプルに効率が悪い
などの原因があります。
その結果として、手術侵襲(=手術における身体が受けるダメージ)が大きくなり、術後の関節の腫れや痛みが増えたり、回復が遅れたりしてしまいます。
ですから、同じ仕上がり・・・ どころか、仕上がりも向上させながら手術時間を短縮していくことを常にイメージしながら手術をしてきました。
結果として、肩の関節鏡手術において一番多い 腱板損傷の手術の手術時間がどんどん短縮しています。
患者さんの家族にも「もう終わったんですか?」と言われたり、 麻酔をかけてくださる先生やサポートしてくださる看護師さん、手術器具メーカーの担当者さんにも「とても早いですね。」と驚いていただくことが多いです。
それは術後の患者さんの回復の早さや満足度にも反映しているような印象があります。(実際にところ、きちんと数値化したデータを持っているわけではありませんので、印象でしかありません。)
名医のエフィカシー
そのように名医と呼ばれるような医師を目指して、責任と欲の中で進んできたわけですが、最近は自分の中のメンタリティーの変化が出てきています。
それをエフィカシーというコーチング用語で表現できます。要は、 手術の執刀医としてのエフィカシーがどんどん高まってきているようです。
エフィカシーとは?
そもそもエフィカシーというのは 有効性とか効能という直訳になるんですが、
スポーツ選手を中心に行っているコーチング(むしろ、世間的にはビジネスマンや経営者の方々が中心的に取り入れておられます)においては
「自分のゴール達成能力の自己評価」
と定義しています。
要は自信のことですね・・・みたいに思われがちですが、
「自分のゴール達成能力の自己評価」
このように明確に定義していることに意味があります。
まず自分のゴールというものがあり、 そのゴールを達成できる能力というものがあり、 それが十分に高いかどうかを自己評価しているものであるということです。
すべて自分で完結しているところも大きなポイントで、 他人に植え付けられたゴールも関係ないですし、 他者評価もまったく関係ないというのが大切です。
このエフィカシーが高ければ高いほど、 そのゴール達成の確率が高まることは当然のことながら、 それに向けたパフォーマンスもどんどん高まります。
脳の情報処理のメカニズムからして当たり前のこととも言えます。
自らの実力を誇示したい?
このエフィカシーが高まってきているとお話ししましたが、
そうすると、肩関節鏡手術のパフォーマンスも上がってきますし、 もっと効率がいい方法や、もっといい仕上がりになる方法が見えてきます。
そこで訪れる心境は・・・
「私はこんなにうまいんだぞ!」と自慢したい気持ち・・・
とはちょっと違います。
そういう思いにならないのは、
世の中の名医や名医を目指す整形外科医の先生方も
それぞれの思いの中で
自然とエフィカシーを高めて進化しているところだろうという想像ができるからです。
この手術が日本中で行われたらいいのに
そういった想像ができるので、
むしろ、
私に見えた方法、上がってきたパフォーマンスでの手術が 日本中でスタンダードに基準となるレベルになれば、
多くの肩で悩んでいる患者さんは救われるんじゃないか。
だからこそ、達人にしかできないような手術ではなく、もっと再現性のある方法として短時間、低侵襲、でも仕上がりバッチリという手術を確立して、広めていきたいと、そういう心境が強まっています。
これは名医と呼ばれる先生方に共通するエフィカシー、想いなんじゃないかなと感じています。
肩の名医の見つけ方
ここまで肩、名医という言葉から、私自身のエピソードや心境についてお伝えしてきましたが、もう少し実際に役立つお話をさせていただきます。
それはあなたの住む地域の中にいらっしゃる肩の名医の見つけ方というものです。
冒頭でも述べたとおり肩を専門とする整形外科医が少ないのが現状で、ある程度大きな総合病院でも肩の専門はいないことが多いです。
そこで、どのように肩を専門とする治療をしている整形外科医を見つけるか? もっと言うと、名医と呼ばれる医師を見つけるか?
ということについて解説します。
肩の専門医という資格はない
まず前提ですが、整形外科の専門医というのは整形外科学会の認定する専門医制度があり、しっかりとした資格ですが、
肩関節の専門医という制度上の資格はありません。
ですから、私もそうですが、「肩を専門とする」というのは単なる自称です。
病院ホームページ情報
単なる自称「肩を専門とする」医師と言ってしまいましたが、 公の資格がないだけで、
専門と自称するにはそれだけの理由があります。 できもしないのに肩を専門と自称することは・・・ないと信じたいところです。
それだけ肩の治療というのは専門性が高く、 こと、関節鏡に至っては、専門外の医師がやると、相当苦労することになります。
例えば、大学病院の医局に属してスキルを磨いてきた医師であれば、整形外科の中でも細分化したグループがあり、そこで「肩」を専門とするグループに属してきたことが専門を自称する大きな根拠です。
また、医局に属していなくても、肩を専門とする医師の指導を長年受け、そして、自らも肩の悩みを持つ患者さんを多く診察した結果、自信を持って肩専門と自称するようになります。
ですから、自称でも基本的には信頼いただいていいと思うので、まずシンプルに 「先生のご専門は?」 とか、 「この病院には肩を専門とする先生はおられますか?」 とか、聞いてみるのはいいと思います。
また、病院のホームページでも得意とする治療、専門分野を記載していることが多いのでチェックしてみていただくといいでしょう。
もう一つチェックする項目としては所属学会です。
日本肩関節学会という肩を専門とする整形外科医が中心となる学会がありますので、最低限、そこには所属しているケースがほとんどだと思います(所属していないとダメというわけではありませんが・・・)。
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もう1つは書籍です。
医師も書籍で学びます。手術の方法も書籍で学び、先輩から学び、できるようになっていきます。
その書籍、特に手術方法を解説した書籍の著者となる先生方は当然、手術のスキルが高い、経験が豊富だからこそ著者になられています。
ですから、著者の先生は経験が豊富な医師と言えますから、そのお名前から検索して、どちらの病院で診療をされているかを調べてみるといいですね。
私も参考にさせていただいている書籍の一部をご紹介します。
名医になる方法
さて、私自身が名医を目指す道半ばの身でありながら、名医になる方法なんて項目を解説することの是非は置いておいていただき、
道半ばであろうと、方法の1つ、それもど真ん中の最重要なんじゃないか?と思うことが見えてきたことは事実なのでお伝えさせてください。
現状の外のゴール設定の力
それはゴール設定にあります。 コーチングにおいては目標ではなくゴールと表現します。
アメリカで起こった(語源的には英国のようですが)コーチングだからこそのゴールという表現かもしれませんが、目標以上にゴールというのは必ず到達するものというニュアンスがあるのも大きいでしょう。
このゴール設定の原則が、ゴールは現状の外にしないといけないということです。
現状の中、延長線上の、「ちょっと頑張れば達成できそうな目標」などはゴールではないという立場です。
それが現状の外に飛び出す = 飛躍するエネルギーを生み出すと考えられているわけですが、ホメオスタシスという現状維持のメカニズムが働きがちな人体や脳においては、必須の原則と言えます。
教科書に書かれていることは現状の中
そこで僕は仕上がりもそうですが、まずは低侵襲、短時間という手術のゴールとして、
どうしたらそんな短時間でできるんだろう!?と思われるくらいの手術時間をゴールに設定しました。
現状の外と言えるゴールですから、設定した時点での私もどうしたら達成できるのか、その方法すら見えていませんでした。
それは教科書にも載っていません。
設定したゴールは私が今まで学んできた名医と呼ばれる、達人と呼ばれる先生方でも達成していないゴールだったから当然です。
患者さんは1人たりとも実験体ではない
もちろん、そんなことは頭に浮かびもしませんが、
雑にしたり、ただただ急いだり、何か必要な処置をすっ飛ばしたりすれば、その手術時間に近づけるかもしれませんし、
何か突拍子もないチャレンジングな方法を取れば、いつかはたどり着くかもしれません。
でも、その過程の手術を受けてくださった患者さんは実験ですか!?
ということになります。
当然、違います。そんなわけがありません。
その都度、現時点でのベストの手術をするというのが最低限の責任ですから、その中で、かつてないほどの「いい手術」(私が勝手にイメージして、目指しているものですが)というゴールにたどり着くというのは、
まさに現状の外のゴールです。
そのゴール設定をした結果、日々、突拍子もない方法も含めて、手術の実験はひたすらに頭の中のイメージトレーニングを何千、何万と繰り返しました。
その結果、むしろ当然やっているベストな処置だと思えるものを実際の手術で取り入れて、日々進化してきた結果、 一部の手術では、ゴール設定当時、どうやって達成していいかわからないレベルのゴールである
「短時間で、しっかりと仕上げる手術」
ができるようになりました。
名医になるということに限らないゴール設定の重要性
今回は私の経験から、現状の外というゴール設定の大原則について解説しました。
これは別に医師が名医になるための原則ではありません。
人生におけるあらゆる側面における大原則です。
現状維持でいいということであれば、必要のない原則かもしれませんが、
何か達成したいことがある、夢がある、願望がある、
そんな人にとっては必須の考え方だと思います。
多くの著名な名医とは違う道かもしれない
ここまで私自身の経験や知識から、同業の医師や患者さん、様々な人に少しずつでも参考になるようなお話を心がけて、「肩 名医」というテーマのお話をいたしました。
多くの名医は
発表をたくさんして、 論文をバンバン書いて、 学会の中で存在感を高めていって、 分厚い書籍を書いて、 時にはテレビに特集されて・・・
という道を辿っておられるのかなと思うんですが、
私はちょっと事情もあって、そのメインストリームとはちょっと外れた道を歩んでいるかもしれません。
しかし、結局は頼ってきてくださる患者さん1人1人に向き合い、現状のスキルや能力、知識で満足することなく、現状の外にゴールをどんどん描いてやってきていることには誇りを持っています。
少しでも参考になりましたら幸いです。
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