肩鎖関節脱臼と肩鎖関節炎の原因と治療を徹底解説

  1. 肩の痛み
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この記事をお読みいただけば肩鎖関節のトラブルについては、基本網羅できます!

 

肩鎖関節(けんさかんせつ)という部分を押すと痛い

ここまでわかっている人はかなり上級者ですが、多くの人は

肩の上の方を押すと痛いなとか、鎖骨の先っぽが痛いなとか、鎖骨のくぼみを押すと痛いとか、
そういった認識になると思います。

 

この肩鎖関節を押すと痛い、すなわち肩鎖関節に圧痛があるという状態のときに
肩鎖関節に何が起こっているのか?

痛みの原因というものについて、基本から解説し、
そして、それぞれの原因に対して、どのような治療、対処法があるのか?
ということまで徹底解説します。

 

こんにちは、肩を専門とする整形外科医の歌島です。本日も記事をお読みいただき誠にありがとうございます。

それではいきましょう。

肩鎖関節(けんさかんせつ)とは鎖骨のくぼみ?

まず肩鎖関節とは?という基本中の基本ですが、その名の通り、肩と鎖骨の関節・・・もっと正確に言うと、肩甲骨の肩峰(けんぽう)という部位と鎖骨の外側の端っこからなる関節です。そんなところに関節なんてあるの!?と、あまり関節として認識されたことはないかもしれませんね。

ご自身の鎖骨を真ん中くらいから外側になでるように触っていくと、少し盛り上がって、またすぐ凹んで(これはわかりにくいかも)・・・でも、骨は触る。という部位があると思います。その盛り上がったところが鎖骨の端っこ(鎖骨遠位端)で、くぼんだところが肩鎖関節そのもので、またその外側に骨が触れる部分は肩甲骨の肩峰の上面です。

ですから、鎖骨の先っぽが痛いとか、鎖骨のくぼみが痛いとか、肩の上が痛い、というのが肩鎖関節の痛みを表している可能性は十分にあるということですね。

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

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肩を動かすときにはかなり肩甲骨も連動して動くわけですが、その肩甲骨が動くとき、支点の1つになっているのが肩鎖関節です。

押すと痛い=圧痛 が表すもの

また、押すと痛い、つまり、圧痛があるということが表すものを解説します。

シンプルに圧痛があるということは、そこに炎症があると捉えていいと思います。

 

炎症というのは様々な原因で起こりますが、
身体の治そうとする生体反応の1つです。

例えば、肩鎖関節を捻挫してしまった、など外傷後の炎症だったり、
肩鎖関節の軟骨がすり減ってしまった変形性肩鎖関節症の結果として起こる炎症だったり、
ベンチプレスなどの負担が強いトレーニングやスポーツなどのオーバーユースで起こる炎症だったり、

というように原因は様々ですが、

肩鎖関節に圧痛があるということは、すなわち、肩鎖関節炎があると考えていいと思います。

肩鎖関節炎の原因と症状

肩鎖関節という部位についておさらいしていただきましたが、この肩鎖関節に炎症が起こってしまう状態が肩鎖関節炎です。

この肩鎖関節炎が起こってしまう原因というのは大きく分けて3種類あると考えてください。

  1. 外傷・ケガ
  2. 繰り返しの負荷・オーバーユース
  3. 加齢性の変化・軟骨のすり減り :変形性肩鎖関節症

この3つが原因になり得るわけです。大抵の関節の炎症はみなこの3つ のどれかに当てはまることが多いです。

1.外傷・ケガによる肩鎖関節炎

これは転倒して肩から床、地面に打ち付けてしまったケースなどに多いです。

これが重症になると鎖骨遠位端骨折や肩鎖関節脱臼という状態になりますが、そこに至らなくても肩鎖関節の炎症の原因になるというわけですね。

ちなみに鎖骨遠位端骨折、肩鎖関節脱臼についてはこちらもご参照ください。

2.繰り返しの負荷・オーバーユースによる肩鎖関節炎

使いすぎによる障害をオーバーユースシンドロームと呼びますが、肩鎖関節炎になるオーバーユースというと、肩関節を酷使するスポーツによるものがあります。

例えば、柔道やラグビー、アメリカンフットボールなどコンタクトもするし、投げる動作もあるというようなスポーツや、

American football players

また、肉体労働で重いものを持ち上げるような動作が多い仕事を長い間やってきた人に肩鎖関節炎が起きやすいという印象があります。

3.加齢性の変化・軟骨のすり減り:肩鎖関節症

最後の原因は加齢性の変化です。

どうしても長い間生きていれば肩鎖関節にも少しずつ経年変化が起こってきます。その変化の大きさはかなり個人差が大きく、1番、2番のような外傷やオーバーユースがないにも関わらず、ご年齢ともに軟骨がすり減ってしまう方もいらっしゃいます。

Elderly woman suffering from pain in shoulder at home

また、1番や2番の要素があった上で、ご年齢が増してくると、いよいよ軟骨がすり減ってきてしまうというケースも多いです。

肩鎖関節炎の症状

肩鎖関節炎の典型的な症状を2つ紹介します。これを知らないと、なんとなくい「肩が痛い」というものの1つに括られて、肩に注射されたり、肩のリハビリをしながら経過を見たりと、ピンぼけの治療になってしまいがちです。

肩鎖関節の圧痛

ひとつめが今回のテーマである肩鎖関節を押せば痛いということです。

これも炎症の度合いによって、圧痛がわかりにくいこともあります。ポイントは肩鎖関節を正確に押せることは大前提ですが、さらに肩鎖関節の前から上から、後からと、ある程度幅広い肩鎖関節における圧痛をていねいに探ることです。

水平内転での肩鎖関節の痛み

また手で胸の前を横切って、逆の肩の後を触れるようにする動き水平内転と言いますが、この水平内転で肩鎖関節の圧が高まることで痛みが増すことが多いです。

肩鎖関節炎の治療

では、この肩鎖関節炎があるということがわかったら、
次は治療ですよね。

治療としてはストレッチなどのリハビリだったり、消炎鎮痛剤の飲み薬、注射、時には手術を行うこともあります。

肩鎖関節炎の治し方:コンセプト

肩鎖関節炎の治し方のコンセプトですが、手術をしない保存治療においては

  • 痛みの原因となる炎症を抑える
  • 炎症を起こしにくくする(負担を減らす)

ということになります。

炎症を抑えるということでいえば、一般的な消炎鎮痛剤の内服、湿布などの外用剤から始まり、結構効果が高いのが肩鎖関節の中にステロイドと局所麻酔薬を注入する関節内注射療法です。

Young doctor women give an injection

そして、さらに炎症の原因となる肩鎖関節炎への負担を減らすためにリハビリ、ストレッチなどが行われます。

肩鎖関節炎の治し方:ストレッチ

肩鎖関節という関節は鎖骨と肩甲骨からなる関節ですが、僧帽筋という首から鎖骨に走る筋肉がカタまっていると、常に鎖骨を上に引き上げようという力が加わってしまいます。

肩鎖関節脱臼や鎖骨骨折でズレが生じる原因はこの僧帽筋の作用です。

画像引用元:肩関節外科の要点と盲点 (整形外科Knack & Pitfalls)第1版 文光堂

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脱臼や骨折がなくても僧帽筋がカタいと常に負荷がかかっていると考えた方がいいので、僧帽筋の緊張を下げるストレッチをやってみていただくといいかと思います。

肩鎖関節炎の治し方:リハビリ

さきほどのストレッチもリハビリテーションの一環として行うものですが、さらに理学療法士や作業療法士がついて、病院などで行う場合にはより専門的に徒手的に肩甲骨の動きの誘導をしたり、リラクセーション目的にマッサージを加えたりしながら行っていきます。

また、肩鎖関節に負担がかかる姿勢として、猫背気味の人がいます。

肩鎖関節は肩の水平内転で圧力が高まり痛みが出ますが、

猫背の人はベースで肩甲骨が前に出ているので、常に多少なりとも圧が高まっていると考えています。

 

そこで肩甲骨を背骨側に寄せる筋肉のトレーニングを行うということもオススメです。

これは特にインナーマッスルを意識して行うと良くて、
この場合のインナーマッスルは菱形筋(りょうけいきん)という筋肉です。

菱形筋のトレーニング

画像引用元:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器 第一版 医学書院

菱形筋はは肩甲骨を背骨側、つまり内側に引き寄せて、猫背改善の1つのカギになる筋肉です。

この菱形筋のトレーニングはうつぶせ(腹臥位)になって、「肩甲骨だけ」を背骨側に引き寄せるように動かします。それもゆっくり、できるだけ大きく動かすということ意識してください。

肩鎖関節炎・肩鎖関節症で行う手術 鎖骨遠位端切除術

肩鎖関節炎に対して、ここまで解説したような保存的な治療を行ったところで改善しない場合や改善するも繰り返してしまう場合には手術が検討されます。

実際は肩鎖関節炎と言っても、

  • 軟骨がすり減っている変形性肩鎖関節症
  • 鎖骨の先端が溶けてくる鎖骨遠位端融解症
  • レントゲン上は特に異常がない肩鎖関節炎

という主に3つの状態があります。

軟骨がすり減り、一部骨が肥大、一部びらん(溶ける)状態 画像引用元:肩関節外科の要点と盲点 (整形外科Knack & Pitfalls)第1版 文光堂

ただ、どの状態においても行われる手術は鎖骨遠位端切除術という、鎖骨の先端を削り取ってしまう手術です。

鎖骨や関節円板を取ってしまって大丈夫?

通常、関節の炎症や軟骨のすり減りが強いときに行われるのは人工関節手術なのですが、肩鎖関節には人工関節はありません。

それは技術的な問題もありますが、メリットがほとんどないからです。

逆に膝なんかは人工関節がなかったらどうしようもありません。
膝の一部の脛骨を削り取ったら歩けなくなっちゃいますからね。

でも、鎖骨の先端を削ってしまって、肩鎖関節という軟骨と軟骨が向かい合って、間にクッションである関節円板がある構造がなくなってしまっても、肩は全然動かせるし力も入るんです。

軟骨と関節円板はなくなっても、靭帯は一部残り、特に大切な烏口鎖骨靱帯(うこうさこつじんたい)という靭帯をほぼ完全に残せるので鎖骨が不安定にグラグラしてしまうこともなく、さらに僧帽筋や三角筋などの筋肉も残るので力も入ります。

最近は関節鏡で削ることも多いので、余計にデメリットは少ないと言えるでしょう。

arthroscope surgery

リスクや副作用(合併症)は?

リスクが少ないと言っても「ゼロ」ではありません。

もともとの生まれながらの構造を変えてしまうことには違いないので、ケースバイケースで起こりうる合併症があります。

例えば、肩鎖靭帯という肩鎖関節をつなぐ靭帯も切る(関節鏡では一部残します)ので肩鎖関節が前後方向に不安定になる可能性とか、切ったあとの部分で強い痛みは引いても、軽い痛みや違和感が残ってしまう可能性などがあり得ます。

さらにはどんな手術にも共通するようなリスクは当然、同様に抱えての手術になりますので、やはり、保存治療をまずやって改善しないかを試すことは大切と言えるでしょう。

 

次に肩鎖関節の脱臼、肩鎖関節脱臼についてのお話です。
これも肩鎖関節部を押すと痛い代表ですね。

肩鎖関節脱臼とは?典型的な症状は?

肩鎖関節が外れてしまうというのが肩鎖関節脱臼です。
その脱臼する方向は鎖骨が肩峰より上(頭側)に上がってしまうのがほとんどです。

典型的な症状としては盛り上がった鎖骨遠位端が外観上も出っ張って見えます。
この出っ張りを上から押すと凹みますが、離せば再び盛り上がります。
この現象をpiano key sign:ピアノキーサインといいます。

また、脱臼という大ケガですから肩鎖関節部の痛みが伴います。しかし、その炎症が落ち着いてしまえば、外れたままでも意外と痛みが落ち着いてしまうこともあります。また、もともとの「肩関節」は異常ないことが多いので、肩の可動域はあまり制限されません。

どういったときに起こりやすい?受傷機転は?

肩鎖関節脱臼は典型的な受傷機転、つまり傷めてしまった原因メカニズムですが、それは肩を直接強打した場合です。

アメリカンフットボールやラグビーなどコリジョンスポーツと呼ばれるものでの選手間の衝突や転倒時、また、柔道など武道で投げられて肩から落ちたときなどが多いです。

脱臼だから緊急で整復しないといけない・・・わけではない。

関節の脱臼だからと言って、この肩鎖関節脱臼の場合は大急ぎで整復しないといけないというわけではありません。

piano key signのごとく、上に外れ、盛り上がった鎖骨を上から押さえ込んでも、また上に上がってしまいます。
つまり、整復状態(関節が入った状態)の保持が非常に難しいというのが他の関節脱臼との違いです。

そのため、しっかりと整復を維持するためにも手術が必要なことがあります。

手術をしないで整復状態をできるだけ維持するためには肩甲骨から腕までを少し持ち上げた状態をキープすることがポイントです。専用の装具やきっちり長さを調節した三角巾などを使います。

肩鎖関節脱臼の重症度分類 Rockwood分類

この肩鎖関節脱臼には重症度分類というものがあり、結構重要視しています。その重症度によってオススメの治療法が変わってくるからなんですね。重症になればなるほど手術を検討することになります。

その重症度分類でよく使われるのが、Tossy分類(トッシー分類)とRockwood分類(ロックウッド分類)ですが、Tossy分類はザックリ分類なので、個人的にはRockwood分類の方を好みます。

ということでRockwood分類についてお伝えしますと、

  • type1:肩鎖関節の捻挫レベル。脱臼ではない。
  • type2:肩鎖関節「亜」脱臼
  • type3:肩鎖関節脱臼 鎖骨が上方に脱臼
  • type4:肩鎖関節脱臼 鎖骨が後方に脱臼(稀)
  • type5:肩鎖関節脱臼 鎖骨が元の2倍以上、上方に脱臼
  • type6:肩鎖関節脱臼 鎖骨が下方に脱臼(稀)

こんな感じです。

画像引用元:肩関節外科の要点と盲点 (整形外科Knack & Pitfalls)第1版 文光堂

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もう少しシンプルに押さえるために、
ほとんどの肩鎖関節脱臼は「上(頭側)」に外れていきますので、

  • type1:捻挫
  • type2:亜脱臼
  • type3:脱臼
  • type5:重症脱臼

というような順で重症になります。
さらに稀な脱臼方向として、後方がtype4、下方がtype6という分類になっているというとらえ方がわかりやすいです。

肩鎖関節脱臼の治療:手術をしない場合のリハビリ

まず手術をしない場合のリハビリのポイントについて解説します。

これには主に2つのコースがあると考えています。

1つめはアスリートなどで試合が近いなどの理由で早期復帰を目指すケース。

もう1つは、早期復帰よりできるだけ後遺症を残さないことを目指すケースです。

早期復帰を目指すケース

この場合は三角巾などの固定は安静のときだけで、早めに肩を積極的に動かすことで筋力低下を防ぎ、肩がカタくならないようにします。

そうすると、肩鎖関節脱臼で傷んでしまった靱帯の修復には少し不利で、完全脱臼の場合は「脱臼しっぱなし」で早めに動かすという作戦です。

肩鎖関節の場合は脱臼していても、肩を動かせるということから選択できる方法と言えます。

 

そうは言っても、将来的に肩鎖関節部分の痛みや、不安定性(グラグラ感)、軟骨のすり減りなどのリスクが多少高まるというデメリットが考えられます。

早期復帰を目指さないケース

急ぐ必要がないケースでは靱帯の修復が期待できる1から2ヶ月くらいは腕の三角巾や装具などでつり上げて、できるだけ肩鎖関節が整復位に近い状態をキープします。

ただ、そのままでは確実に肩はカタくなっていきますので、カタくならない程度に動かすリハビリをします。

このときも腕全体の重さが肩鎖関節にかからないように、仰向けに寝た状態で肩を動かす訓練がオススメです。

https://youtu.be/WpysDay4-kY

肩鎖関節脱臼:手術後のリハビリ

次に手術をした場合ですが、手術をした場合は肩鎖関節が整復位を何かしら(糸や金属、人工靱帯など)でキープできているので、三角巾や装具の必要性は減ります。(それでも手術後は念のため、三角巾をすることが多いです。)

直接肩鎖関節を固定した場合は90°以上は持ち上げない

よくやる方法ですが、肩鎖関節を針金やプレートという金属などで直接固定してしまっている場合は、その金属を抜くまでは、90°は肩を挙げないというのが基本になります。

90°以上になると肩鎖関節の動きが大きくなって、固定しているのに肩鎖関節は動こうとするという矛盾しているかのようなリハビリになってしまいます。

その結果、針金が曲がってしまったり、肩鎖関節自体が傷んでしまったりしますので、注意が必要です。

直接肩鎖関節を固定していない場合は痛みに応じて積極的に動かす

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手術の方法によっては肩鎖関節を直接固定しないことがあります。針金を肩鎖関節を貫かないように入れたり、針金やプレートによる固定をせずに、烏口突起と鎖骨の間の糸や人工靱帯だけで整復位をキープする方法であれば、肩は90°以上挙げても大丈夫です。

そのため、術後、痛みが落ち着いてきた段階で、積極的に角度制限なしで肩を動かすリハビリを開始していきます。

肩鎖関節が脱臼した状態だと何が悪い?

まず治療について考えるときに、極論ですが、「放っておくとどうなるの?」ということ、専門的には自然歴と言いますが、これを知っておく必要があります。

つまり、肩鎖関節が脱臼したままではどうなってしまうのか?

ということですね。

これは、他の脱臼、例えば、肘や肩関節の脱臼のように、
脱臼したままでは痛すぎて全く動かせない・・・
それどころか、周りの神経などにも悪影響が出かねない大変な状態・・・

というのとは、

肩鎖関節脱臼はちょっと違います。

もちろん、脱臼した直後は痛いですが、徐々に痛みがひいてきて、脱臼したままでも肩を痛みなく動かせることはよくあることです。

そんな中で肩鎖関節脱臼がそのままのときにどういう症状が残ってしまうことがあるのか?ということですが、

肩を動かすときに不安定で痛みの原因になり得る

痛みなく動かせることが多いと言いましたが、それでも脱臼の程度によっては肩を動かすときに肩鎖関節部分で鎖骨の先端が不安定に動いて痛みの原因になったり、肩甲骨の動きの異常が出てしまい、痛みの原因になったりします。

これは非常に重要なポイントなんですが、先ほどおさらいした重症度分類が大事になります。

軽症なものであれば、痛みが残りにくいと思われますし、重症であれば手術しないと痛みが残りやすい・・・

そして、軽症と重症の間(type3)が悩ましいということになります。

肩の筋力が落ちる

肩が麻痺したように挙げられない・・・のような、強い筋力低下はほとんどありませんが、アスリートレベルでは気になる筋力低下は起こりえます。

それは理屈で考えれば、筋肉の付着部になっている鎖骨の先端や肩峰の安定性が損なわれるわけですから、脱臼の程度によっては当然考えられる症状です。

見た目が気になる・・・

まず肩鎖関節脱臼のときは、脱臼した鎖骨の先端が飛び出してしまっています。

これは肩を出すようなファッションの時は目立つかもしれません。

そういった美容上の問題も人によっては軽視できませんよね。

保存治療(手術以外の治療)の方法

手術をしない場合はどうするのか?ということですが、できるだけ肩鎖関節脱臼が元の位置に近い状態をキープするということをめざします。

肩鎖関節脱臼の多くのケースは

鎖骨が上
肩甲骨が下

という外れ方をしています。

 

これは肩甲骨から腕全体の重みで肩甲骨が下がってしまっていることを表しています。脱臼していないときは靱帯が支えてくれているわけですが、肩鎖関節脱臼では靱帯が切れているために、このような外れ方をするわけですね。

この下に落ちた肩甲骨を上に上げるためにやることは、三角巾や装具などで腕全体を少しつり上げた状態をキープすることです。

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またはテーピングという方法は肩鎖関節炎でも使われます。

肩鎖関節炎・脱臼の治療でテーピングを行う意味

肩鎖関節炎や肩鎖関節脱臼の治療でテーピングを行う意味を深掘りしてみます。

この肩鎖関節炎や肩鎖関節脱臼のテーピングの基本的な意味は、

肩鎖関節にかかる負担を減らすこと

これが自然治癒力を高めて、痛みを減らしたり、炎症を鎮静化させてくれると考えています。

 

その肩鎖関節にかかる負担を減らすという目的のためにテーピングはどう使えるか?

と言うと、

 

テープの伸び縮みする特徴をうまく使います。

テープは伸ばせば、縮もうと力が生まれます。ですから、テープを関節をまたいで貼ることで、一方向の動きを制限する、抑制することができたり、その逆方向の動きは筋肉をサポートすることができたりします。

この特徴を使って、肩鎖関節にかかる負担を減らす方向にサポートしましょうというのがテーピングの意味になります。

テーピングのデメリット・注意点

テーピングのデメリットとしてよく挙げられるのが、

  • 面倒くさい
  • 費用がかかる

という点です。これは確かにそうですね。それがイヤだから、何となく数日貼りっぱなしにしてしまうなんて人もいると思いますが、粘着力が減って、テープのサポート力が落ちたら意味がありません。
このデメリットを小さくするにはメリハリを持って使うということでしょうか。

試合とか負担がかかる作業とか、そういったタイミングであらたにテープを貼り直すというような感じで使うといいでしょう。

 

また、注意点として、皮膚のかぶれがあります。

長く貼っていたり、強く引っ張って貼ったりすると、皮膚に負担がかかってかぶれてしまいます。

皮膚かぶれというのは甘く見てはいけなくて、
時には皮膚が大きくただれて、潰瘍になってしまったり、
菌が入ってしまって化膿してしまったり

なんてことも起こりえますから、注意したい点です。

 

 

それでは、具体的な方法に移ります。

肩鎖関節炎・脱臼で使うテーピング

肩鎖関節の負荷として、考えなくてはいけないのが「水平内転」という動きです。

これは逆側の肩の後ろを触れようとするときの動きで、腕が胸の前を横切ります。

このときに肩鎖関節は圧迫力も加わりながら動くので、痛みの原因になりやすいと考えられています。

そこで水平内転を制限するようなテーピングがオススメです。
つまり、胸を張るような方向にサポートするテーピングですね。

肩鎖関節捻挫・脱臼に対するテーピング

肩鎖関節は結構な頻度で捻挫や脱臼を起こします。

この場合に鎖骨の先端は上(頭方向)にズレる力が加わることがほとんどです。

それは腕の重みが下にかかることと、
鎖骨には僧帽筋という首からの筋肉が上に引っ張ること

が要因です。

 

ということで言うと、テーピングで鎖骨を下に押しつけるようなテーピングも
肩鎖関節の安静に対しては効果的だと考えられます。

そのテーピングもさきほどの動画で赤いテープで貼られていますのでご参照ください。

肩鎖関節炎では筋トレに注意

このように肩鎖関節の負荷として注意したい水平内転ですが、これは特に筋力トレーニングが典型的です。

王道的トレーニングであるベンチプレスですね。

 

ベンチプレスも上げていく過程で水平内転の動きが加わります。

そこにさらにウエイトが加わるわけですから、その負荷は少なくないですよね。

水平内転を抑えるためには両手の幅を拡げるワイドグリップでのトレーニングがオススメです。

手術をしないと肩鎖関節の完全脱臼はほぼ整復できない

ただ、四六時中、その状態をキープすることは困難ですし、ただ、腕全体を持ち上げただけでは完全に整復することは困難です。

さらに整復位置をよくするために、鎖骨を上から押さえるバンドもついた特殊な装具を使うこともありますが、それでもやはり元に戻す効果は限定的です。

そういった意味で、手術に勝る整復と整復維持方法はないと言えます。

 

結局、手術した方がいいの?しない方がいいの?

ここまで手術をするかしないか?という一番大切な判断に必要な情報をご提示してきました。

そこで、シンプルに言えば、

  • Rockwood分類のtype4以上は手術を積極的に考える
  •  type3は迷う。個人個人でオススメが異なる。
  • 個人個人の違いで考慮するポイントは肩をどれだけ使うか?と美容上の問題を気にするか?

ということになると思います。

ここまで肩鎖関節脱臼で影響することとして、肩鎖関節の不安定性による肩の痛み肩まわりの筋力低下(ある程度高いレベルでの筋力で、日常生活には影響ないことが多い)を解説いたしました。これらを考慮すると、肩をよく使い、負担がかかる肉体労働者、アスリートなどは手術をより積極的に考えるということになります。

肩鎖関節脱臼の手術法はたくさんある

肩鎖関節脱臼の手術法は非常にたくさんあります。開発者の先生の名前がついた手術法が多いです。僕が知る限りでも10種類以上ありますし、おそらくいままで発表された手術法で言えば、細かい違いを入れれば100種類を越えるんじゃないかと思うくらいです。

そんな中で一つ一つを覚える必要はありません。

まず、手術で何を達成しようとしているのか?というコンセプトを理解することが必要です。

肩鎖関節脱臼の手術のコンセプトは「靱帯を治す!」

そのコンセプトと言えば、

靱帯(じんたい)を治す

ということです。

肩鎖関節が普段脱臼しないのは、肩甲骨と鎖骨を繋いでいる靱帯が支えているからなんですね。

しかし、肩鎖関節脱臼の時はこの靱帯が切れてしまっています。

特に重要な靱帯が

烏口鎖骨靱帯(うこうさこつじんたい)

という靱帯で、烏口突起(うこうとっき)という肩甲骨の一部と、鎖骨を繋いでいる靱帯です。

画像引用元:肩関節外科の要点と盲点 (整形外科Knack & Pitfalls)第1版 文光堂

これが完全に切れてしまうと、鎖骨と肩甲骨は離れて脱臼状態になってしまいます。

この烏口鎖骨靱帯を治すということがあらゆる肩鎖関節脱臼の基本コンセプトになります。

鎖骨が脱臼してから2–3週以内は手遅れでない

まず手遅れ、手遅れでないということについてわけながら手術のコンセプトを解説していきます。

肩鎖関節脱臼における靭帯の重要性、自己治癒力

鎖骨が脱臼しないように頑張ってくれているのが靭帯になりますが、肩鎖靱帯(けんさじんたい)という肩甲骨の「肩峰」という部分と鎖骨をつなぐ靭帯がまず損傷し、次に肩甲骨の「烏口突起(うこうとっき)」と鎖骨を繋ぐ烏口鎖骨靱帯(うこうさこつじんたい)が断裂してしまいます。

この烏口鎖骨靱帯までが完全に切れてしまうと、肩鎖関節脱臼はより不安定となり、一般的には手術が検討されます。

この烏口鎖骨靭帯も断裂したあと、みずから修復しようという自己治癒力が働きます。

しかし、肩鎖関節が脱臼している状態だと、靭帯の走行していた烏口突起と鎖骨の距離が開いているので、それはかないません。

手術をして肩鎖関節を安定化させる

そこで手術を行うということになります。 その方法はいくつかあります。

烏口鎖骨靱帯を直接、糸で縫合する方法(なかなか縫えないことが多いですが)や烏口突起と鎖骨の間に強い糸を通して関節を安定化させる方法金属(プレートやワイヤー、スクリュー)を使って肩鎖関節を安定化させる方法、それらの組み合わせなどがあります。

これらの手術法の違いによる成績は大きく変わらず、現状としては術者の慣れている方法や術者が一番いいと考えている方法を選ぶことが多いと思います。

 

私の場合は様々な方法を経験してまいりましたが、いまは関節鏡を使って烏口突起と肩鎖関節の間に強い糸を通して固定する方法をとっています。

ケガをしてからだいたい2–3週以内であれば問題なく自己治癒力がはたらき烏口鎖骨靱帯が修復され、肩鎖関節が安定します。

 

他の方法として、具体的に

肩鎖関節をキルシュナー鋼線という針金で仮固定する

肩鎖関節を固定するためにプレートという金属を使う

画像引用元:肩関節の手術 (整形外科手術イラストレイテッド(dvd付))初版 中山書店

というようなことを行います。

鎖骨が脱臼してから1ヶ月以降は手遅れ・・・?

しかし、ケガをして、鎖骨が脱臼してから1ヶ月以上経過していると、特に大切な烏口鎖骨靱帯の自己治癒力が著しく落ちてしまうことになります。

そうなると、ここまで述べたような肩鎖関節を安定化させるような治療では自己治癒力が落ちているので、結果、治らないということになり得ます。

それは例えば、肩鎖関節を安定化させた金属を抜去したり、固定していた糸が切れたりすればまた脱臼してしまうということになります。

一般的にはキズを大きく開けて靭帯を移植する

そうならないようにするには、一般的には少し手術創(キズ)は大きくなりますが、まだ生きている靭帯を烏口突起と鎖骨の間に移植する方法がとられます。

まだ生きている靭帯とは

烏口突起と「肩峰(けんぽう)」という、どちらも肩甲骨の突起をつないでいる烏口肩峰靱帯(うこうけんぽうじんたい)であったり、

鵞足という膝の内側にくっつく腱の一部であったりします。

これはなかなかチャレンジングな手術であり、身体に対する負担も小さくないですね。

関節鏡を中心に使った靭帯移植する手術

肩は関節鏡手術でできる範囲が大きいので、この靭帯の移植の中で烏口肩峰靱帯を移植するのは(正確には移行と言いますが)、関節鏡でやっている先生もいらっしゃいます。

関節鏡を使うことで不十分な治療になるべきではない

ただ、なんでもかんでも関節鏡でやるのは批判が多いのも事実です。

キズの小ささより、しっかりとした手術をして欲しいと思う人はかなり多いと思います。

特にこの靭帯移植の手術の場合に関節鏡を使ってやったという報告を見ると、靭帯への糸のかけ方が強度的に不十分だったり、靭帯の骨への固定性も不安が残る方法だったりします。

工夫次第では低侵襲で十分な手術が出来る

と批判しながらも、私も関節鏡で靭帯を移植(移行)する手術をやっています。

もちろん、先ほど述べたように「関節鏡でやるから不十分になってしまう」ということは避けないといけませんので、そこは独自の工夫をしています。

しっかりと移植靭帯を固定できるのであれば、関節鏡でやる方がスマートで三角筋という大事な筋肉への負担も少なく手術ができます。

肩鎖関節に出っ張りがあり、かつ痛くない時にはどう考える?

最後に肩鎖関節部分が出っ張っていて気になるんだけど、痛くはないんだよなぁという人がいます。

これは何が考えられるのか?ということも解説を加えておきます。

 

肩鎖関節部分が出っ張る場合に多いのは3つです。

  • 肩鎖関節脱臼
  • 変形性肩鎖関節症
  • 肩鎖関節炎

肩鎖関節が脱臼していれば鎖骨が上に上がって、出っ張りますし、変形性肩鎖関節症という軟骨のすり減りがあれば、逆に回りの骨が増殖して骨棘(こつきょく)というものを形成しますので出っ張ります。また肩鎖関節炎でも水が溜まって出っ張ることがあります。

これらの中で痛みがない場合は、他の症状も確認してみましょう。

肩を動かしても、水平内転しても・・・何しても痛くもないし、動きも十分に動かせる。

というような場合は特に治療は必要ないでしょう。
(見た目として出っ張っているのは困るという美容上の理由も治療の理由にはなります。)

 

また、稀に出っ張りが腫瘍(しゅよう)であるということもあります。
その場合は痛みがなくてもおかしくないのですが、
腫瘍も大きくなってくるとか、すでにある程度大きい(2-3cm以上)なんて場合は、万が一の悪性も視野に
しっかりと精密検査をするために整形外科を受診することをお勧めします。

まとめ

今回は肩鎖関節を押すと痛い・・・というような症状について解説いたしました。

それは肩鎖関節炎というものが起こっていて、それは様々な原因から起こり、特徴的な症状があるということをお伝えいたしましたし、

さらに肩鎖関節脱臼という治療が悩ましいケガについても解説いたしました。

 

肩鎖関節脱臼の手術について、した方がいいのか、しなくてもいいのか?

これは僕ら専門医でも「絶対!」という答えは出せないのが現状です。
だからこそ、できるだけ必要な情報を患者さんと医師で共有しながら、
治療方針を決定するのが大切だと考えています。

この記事がその助けになれば幸いです。

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