肩の突然の痛み 20代でも起こりうる原因と治療を専門医解説

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肩の痛みに突然襲われたら、誰もが「何が起こった!?」と軽いパニックになると思います。それがもし20代の通常、周りの友達は痛みで困ったなんて経験がない人だったら尚更です。

肩は頭に近く、心臓より高い位置にある珍しい関節で、手や足のように直接目に入ることも少ないので、より気持ち悪かったり、不安になったりするんですよね。

そんな肩の痛みで受診される患者さんを専門的に診察している経験や知識から、肩の痛みの原因について、さらにその治療についても、この記事をご覧いただければ十分!と言える内容をそれもできるだけわかりやすく、読みやすく、作成しました。

ぜひ、お付き合いください。

20代でも、五十肩だって、なんだって起こりうる

この記事にある肩の痛みに関する知識、原因や治療などは誰にでも起こりうる、全年齢、男女とも関係した内容です。

それは若い、20代の人だって同じです。
極端な話、20代でも五十肩になったりします。五十肩っていうのは後述しますが、50代くらいの人に多いからというだけで、50歳代じゃないと五十肩と言ってはいけないわけではないんですね。

それ以外にもスマートフォンやPC(パソコン)の普及で 首から肩にかけての筋肉が凝り固まる人が20代どころか10代から出てきています。より、現代病の側面が強くなってきたのが肩の痛みと言えるかもしれません。

肩関節の構造

まずは肩の基本的な構造のお話から入りますが、細かい解剖学的な名前を頑張って覚えたりする必要はないので気軽に読んでみてください。

肩と言っても実は幅広い

肩って言っても、 肩甲骨あたりを指して肩という人もいれば、腕の外側を指して肩と言う人もいます。どちらも間違いではありません。
それだけ肩という言葉が指す領域が幅広いということが言えます。

肩甲骨は浮かんでいる骨

肩が幅広い理由の一つに肩甲骨があります。
肩甲骨=肩ではありませんが、肩の主役の一つの骨ではあります。

この肩甲骨は相当複雑な形をしていて、肩甲骨の中でも体部、肩甲棘、肩峰、烏口突起、関節窩など様々な部位に分かれていて、それぞれ働きが異なります。

肩甲骨の構造

せっかくなんで、ざっくりとそれぞれの役割をお伝えしておくと、

体部は肩甲骨の大部分を占める、薄く幅広い場所でインナーマッスルがくっついていたり、肋骨の後ろ側で滑る面の役割をしていたりします。

肩甲棘はインナーマッスルの中でも棘下筋と棘上筋を分ける境目としての役割があります。

肩峰は肩の屋根の部分で、インナーマッスルを上から守ったり、三角筋という肩のメインエンジンとなる筋肉がくっついています。

烏口突起はいろいろなスジが集まっている中継地点としての働きで、腕に向かう上腕二頭筋短頭腱とか鎖骨を安定化させる烏口鎖骨靭帯とか、様々なスジがくっついています。

関節窩は後述する肩関節のど真ん中、肩甲上腕関節の半分ですね。受け皿側の役割をしています。

こんな様々な大事な役割を持つ部位がある肩甲骨ですが、そのものは背中に浮いている構造をしているのが特徴です。
体幹部分としっかりとした関節を形成しているのは鎖骨だけで、あとは幅広くなんとなく肋骨の後ろに近接しながら浮いているというのが特徴です。

首の骨と肩甲骨を繋ぐ筋肉たち

この肩甲骨が浮いているという特徴は、その周囲の筋肉たちの負担増に関係しています。

というのも、浮いている肩甲骨を固定したり、動かしたりするのは肩甲骨の周囲の筋肉たちだからですね。浮いているから筋肉は常に働いていないといけないので休まる時がないわけです。

その中心が頸椎や胸椎と呼ばれる背骨とつないでいる筋肉たちです。

覚える必要はありませんが、それは僧帽筋や菱形筋、肩甲挙筋などで、これらの筋肉が肩こりの主な要因だと言われています。

画像引用元:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器 第一版 医学書院

画像引用元:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器 第一版 医学書院

鎖骨と肩甲骨からなる肩鎖関節

さらに先程、さらっと述べましたが、唯一、肩甲骨がしっかりと体幹と関節をつくって繋がっているのが鎖骨です。肩甲骨と鎖骨の関節なので肩鎖関節と言います。

これも細い鎖骨の先端と繋がっている、結構小さな、ピンポイントの関節なので脱臼することが少なくありません。

狭い意味で肩は肩甲上腕関節を指す

幅広い肩ですが、狭い意味での肩関節は肩甲上腕関節と言って、肩甲骨(関節窩)と上腕骨(骨頭)から構成される関節です。

非常に外れやすい構造をした関節

この肩甲上腕関節は受け皿がわの肩甲骨関節窩が平らなお皿のような構造で、その横に球体の上腕骨頭が乗っかっているような感じなので、まあ、外れやすいわけです。

ですから、脱臼することが一番多いのは肩関節です。

肩甲骨の構造

外れずに、でも大きく動かせる肩を実現するチーム

そして、外れやすいにも関わらず、圧倒的に大きな範囲に動いてくれるのも肩関節です。「肩が回る」って表現しますよね?
でも、膝が回るとか、手首が回るって表現しないと思います。
それだけ肩っていろんな方向に幅広く動くんです。それも通常は脱臼せずに。

この外れずに、でも大きく動かせるという奇跡のような状態を実現するのが主に腱板というインナーマッスルと、関節唇などの構造です。

腱板(インナーマッスル)

腱板(けんばん)は肩に特有のインナーマッスルが集まってくるスジです。
この腱板(正確には腱板筋群)は肩関節のすぐ近く、深いところを走っていて、
なかなか表層から触れにくい場所にあります。

腱板は総称で、具体的には棘上筋と肩甲下筋と棘下筋と小円筋という4つの筋肉が集まった腱です。

深い場所を走っているからインナーマッスルというわけですが、
その役割は関節の安定化、求心化です。

アウターマッスルである三角筋や大胸筋などの働きだけだと、肩関節を動かすときに、
肩関節のボール側である上腕骨頭は大きな力で直線的に動かされようとします。
直線的な動きはどの方向であろうが、脱臼する方向であり、
ボールが受け皿に乗っかっている特性上、ボールが転がるような動きをしないといけません。

それを求心性と言っていますが、腱板がしっかり働くことで、
アウターマッスルの直線的な力をボールの回旋に変えることで、上手いこと肩が上がって、回って、という状態が作り出せることになります。

とても大切な働きです。

関節唇・関節包・靭帯

また肩が脱臼しないような働きとしては関節唇(かんせつしん)・関節包(かんせつほう)・靭帯(じんたい)の複合体が大切な働きをしています。

複合体というのはそれぞれが連続して、くっついているからなんですね。

肩甲骨の関節窩を縁取るように軟骨成分の関節唇がくっついていて、その関節唇にくっつくように関節包と靭帯が走っていて、上腕骨と連結されています。
これが脱臼してしまうと、多くの場合、関節唇が関節窩から剥がれてしまって、この複合体がゆるゆるになって、脱臼を繰り返す状態が作られてしまう。これが脱臼が癖になった状態です。

画像引用元:OSnow_instruction_11_肩・肘のスポーツ障害 メジカルビュー社

このように大事なものであるからか、関節包が過剰反応して肩の痛みやカタさに厄介な症状をもたらします。
そもそもは柔軟性に富んだ組織である関節包が、不安定な肩関節を守ろうとしてか、徐々に分厚くなってしまって、肩が上がらない、回らないという状態になってしまうのが五十肩です。

肩の症状の種類

さて、それでは肩の痛みを含む、代表的な症状についてまとめてみます。
該当する症状の項目を参照してみてください。

首から肩甲骨にかけての重苦しい痛み

これは肩こりに典型的な症状で、先程解説したように浮いている肩甲骨を支え、動かすために常に頑張っている肩甲骨周囲筋たちが悲鳴を上げているような状態です。

首筋が痛い場合もありますし、首から肩にかけて全体的に痛いことも、あれば、背中よりが痛いこともあります。僧帽筋そのものが幅広く走っているので、いろいろなところが痛くなります。
多くの場合は肩は常に痛くて、肩を動かしたときに痛みが増すというよりは、首を動かした時の方が痛いことが多いのも特徴です。

肩の前や外側の痛み

肩の前や外側の痛みは先ほどの首から肩にかけての痛みとは場所が異なります。この部分の痛みはまさに肩関節(肩甲上腕関節)が痛みの原因になっていることが多い痛みです。

特徴としては夜間痛と動かした時の動作時痛です。肩関節は動かしたときに痛みが出やすいです。また、最初はある限られた動きだけで痛いというケースも多々あります。

夜に急に増す痛み(夜間痛)

日中は動かした時だけの痛みなのに、夜になると寝返りを打つだけで痛いとか、痛くて起きてしまう、眠れないなんていう症状をおっしゃる人が少なくありません。

通常、ほかの部位の痛みであれば夜間痛というのは何かしら重症な病態が隠れているサインの可能性があり、僕らも心配になる症状なのですが、肩に関してはかなり一般的で、五十肩でも腱板損傷でも、なんでも夜間痛になってしまうことが多いという厄介な関節です。

だからと言って、夜間痛を放置していいわけではなく、眠れなければ生活の質に大きく関わりますし、体調を崩しかねませんから、重要視して対処している症状の一つです。

肩から腕へのしびれ

次にしびれです。しびれというのは、経験のない人はどれがしびれかもわからない状態かもしれません。

わかりやすいのは肘をぶつけたときに指先に電気が走る感じとか、銭湯の電気風呂に入った時の感じ(もう、そんな時代じゃないでしょうか?)、もしくは接骨院や病院で電気治療を受けたり、EMS機器でトレーニングしているときの感覚が近いです。

このしびれが肩から腕に走っている場合には二つの原因を考えます。一つは神経が障害されている場合。これはのちに述べる頸椎椎間板ヘルニアその他の神経障害を疑います。もう一つは、神経障害とは別の原因のしびれ「感」で、それは筋肉のこわばりや、血の巡りの悪さからくることだったりします。肩こりも重症化すればしびれが出たりすることは少なくありません。

肩が上がらない、回らない

肩の可動域制限と言いますが、カタくなってしまうことですね。それは上がらないとか、回らないとか、届かないとか、そういった表現になります。

肩はもともと幅広く動く関節なだけでに、この可動域制限で受診される人が多いですし、大切な改善すべき症状です。

受診の目安

それでは症状の中でも、急いで病院に駆け込むべき症状と、時間を見つけて、近いうちに行けばいい症状との判別ポイントを紹介します。

急いで救急外来でも受診すべきケース

大急ぎで夜間だろうが休日だろうが、救急外来をやっている病院を受診すべきケースです。
それだけ緊急性が高いケースですが、それは肩の痛みにプラスして体調が明らかに悪いケースです。これは内臓の病気が肩の痛みとして出ている可能性を否定できません。一番怖くて、よく聞くのが、心筋梗塞の最初の症状が肩の痛みであることが稀にあるということです。体調不良というのは漠然としていますが、「冷や汗」「だるさ」「食欲不振」「痛みで体全体が動けない」など、客観的にみて、肩が痛いだけでは説明がつかないだろうという症状です。

また、肩やその先の肘、手首、指が動かないという麻痺のケースも緊急性が高いです。何かしらで神経が損傷して、回復までタイムリミットがあるケースの可能性があります。

翌日以降の通常外来に早めに受診すべきケース

救急外来までは必要ないけれども、早めに受診するといいケースは、シンプルに痛みが強かったり、突然始まった肩の症状の場合です。これらは症状が強いと思うので、迷うまでもなく早めに受診されることが多いかと思います。

ただ、急いで救急外来でも受診するケースを読んでいただくとわかるように、肩の症状では痛みが強くても、翌日以降で大丈夫なことが多いというのも事実です。救急外来は診察も医師が専門性に乏しかったり、検査もできることが限られたり、薬もごく少量を少ない選択肢から出さざるを得なかったりと、満足いく医療には程遠いものになることが多いので、そこは十分考えてほしいところです。(迷ったら、とりあえず近隣の救急外来をやっている病院や救急相談センターに電話してみましょう)

都合を見ながら受診すべきケース

それ以外の肩の痛みや症状であっても、やはり一度は整形外科にかかってほしいなという思いがあります。それは肩を専門として診療をやっていると、患者さんの自己判断だったり、接骨院など病院以外の治療場所にかかって、本来やるべき治療の開始が遅れてしまうケースを経験するからなんですね。

ぜひ、この記事を読むくらいのお悩みがあれば、一度、整形外科(それもできれば肩の専門とする医師)の外来を受診してみてください。

肩の痛みの原因

それでは、肩の痛みの原因となりうる病名、疾患、怪我の名前から、それぞれを解説してまいります。

原因不明で突然痛みが出る

まずはこれといったきっかけもなく、でも突然痛くなった!という怖い状態の原因ですね。

四十肩・五十肩の炎症期

まず20代だってあり得る、四十肩、五十肩です。これは主に慢性的な痛みで有名ですが、炎症期という関節の炎症が強いときは急に強い痛みに襲われることもあります。
この場合は痛みによっては上がらない、回らないという状態になることもありますし、夜間痛が強いことも多いです。

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石灰沈着性腱炎

突然の強い痛みで、ときに耐えきれずに夜間の救急外来にもいらっしゃることがあるのが石灰沈着性腱炎という腱板の中にカルシウムを中心とした石灰が沈着して、その周囲に強い炎症が起こる病態です。

石灰が沈着する原因ははっきりしていません。これも20代で起こる人もいますが、多くは四十肩、五十肩と似通った年齢層の方に突然起こります。

これはレントゲンでたいていわかります(ときに分かりにくい場所に石灰ができることもありますが)。

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寝違え

これは首の痛みの典型的なものですが、肩甲骨周りにも起こることがあります。
寝ている姿勢に問題があって、首から肩甲骨にかけての筋肉がこわばって、痛みが出る病態ですね。

朝起きたときに痛ければ、典型的ですが、それ以外にも仕事で無理な姿勢や同じ姿勢が続いた時などに首から肩甲骨周りに痛みが走っていると、結局は寝違えと同様に筋肉がこわばっているための痛みだったりします。

内臓の病気の初発症状

急いで救急外来を受診すべき症状として体調不良を伴うケースなどをお伝えしましたが、その場合に考えないといけないのが内臓です。心筋梗塞で左肩の痛みが初発症状というものの他にも、背中寄りの痛みであれば、いくらでも起こり得ます。膵臓だったり、大動脈だったり・・・というような大事な臓器もあります。

外傷や力が急に入ったなど原因ありの突然の痛み

腱板断裂

肩の痛みの中で五十肩についで多いのではないかと思うくらいに頻度が高いのが腱板断裂(けんばんだんれつ)です。

肩の構造のところで腱板について説明しましたが、グラグラしがちな肩関節をさらに乱暴に振り回しかねないアウターマッスル(三角筋など)の力を陰で制御しているのが腱板筋群ですから、苦労も絶えないわけです。
そんな腱板は60歳以上になってくると(すなわち五十肩の好発年齢を超えたあたり)、自然と腱板が断裂してしまうケースが増えてきます。自然とというのは本当に自然となのかは別にしても、明らかな怪我ではないという意味ですね。

ただ、20代でも大きな外力が加わったり、転んだり、捻ったり・・・でも、レントゲンは異常なし・・・なんてときに、MRIを撮ってみたら腱板が切れているということも稀にはあります。

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肩関節亜脱臼・脱臼

原因、誘因がある突然の痛みで、とくに激しく痛いのが脱臼です。
とくに肩は外れやすいので、意外とあるんですよね。

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脱臼、亜脱臼の特徴は外れたとき、外れているときは、もう痛くて痛くて、気持ち悪い感じで、もうどうにかしてくれ!!って感じになっていると思います。僕も外れたことが何度もあるのでわかります。

でも、入っちゃえば、まあ楽になります。

肩の骨折

それに対して、入っちゃうということはないのが、骨折です。
脱臼と同様に激しく痛いのは間違いないわけですが、さらに、脱臼のように瞬間的に元に戻すことはできないので、整復して楽になることはないです。とは言え、ズレが大きい骨折を元の形に近づけて固定することを整復固定と言いますが、それがうまくいくと比較的楽にはなります。

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肩鎖関節脱臼

肩の脱臼と言っても、先ほどのは肩甲上腕関節でしたが、こちらは肩鎖関節です。
肩甲骨と鎖骨の関節でしたね。

これはこれでピンポイントで狭い範囲で向き合うだけの関節なので比較的脱臼しやすいです。
肩鎖関節が脱臼すると鎖骨が上に上がってしまいます。体表から見ても、鎖骨の先端が出っ張っているのがわかります。

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頸椎捻挫・外傷性頸部症候群

肩の痛みと言うよりは、首の痛みが多いですが、頸椎捻挫という病名はかなり多いものです。ざっくり言えば、むち打ちですね。首が急に変な方向に動かされてしまった場合に起こります。運転中の交通事故が典型的です。

首の痛みだけならまだしも、首には大事な腕にいく神経が走っていますから、腕や手がしびれてしまったり、力が入らないなんて神経症状が出てしまうこともあります。それを外傷性頸部症候群と言っています。こうなると念のためMRIなどを撮ることも多いです。

慢性の痛み

慢性的な痛みとなると、細かく言い出せばキリがないくらいたくさんの原因がありますが、代表的な二つをお示しします。

頸肩腕症候群・肩こり

一つ目は肩こりです。病名としては頸肩腕症候群と言って、首から肩、腕と痛みや時にしびれが走る病態です

その多くの原因は肩甲骨周囲筋のこわばりとか、血流が悪い状態とか、疲労とか、そういったレントゲンやMRIなどの画像では表に出てこない病態です。

四十肩・五十肩の慢性期

四十肩・五十肩も時には年単位でかかってしまう慢性的な肩の痛み、可動域制限の原因です。

でも、やはり「時間がかかるってことは何かがある!?」という視点も必要で、MRIを撮ってみたら腱板が断裂してました、関節唇が剥がれていた・・・なんてことは少なくありません。

しびれや麻痺がある場合

しびれや麻痺(力が入らない、動かせない)がある場合はもちろん、神経に問題があることをまず疑います。
先ほど述べた頸肩腕症候群だって、筋肉のこわばりや血流不良が強ければ痺れがでることも少なくないですが、ここでは神経に問題がある場合の原因を考えてみます。

頸椎椎間板ヘルニア

一つは椎間板ヘルニアです。多いのは腰の椎間板ヘルニアで、腰痛や脚の痛みの原因になるわけですが、腕の痛みや痺れに関しては首のヘルニア、頸椎椎間板ヘルニアが原因になります。
これは腰ほど上に乗っかる重みがないせいか、頻度は多くないですが、でも、20代でも起こりうる病態です。

首は7個の骨があって、その一つ一つの間にクッションとなる椎間板があるわけですが、そのどこの椎間板が出っ張って神経を圧迫するかで、痛みやしびれが出る場所も変われば、麻痺する筋肉も変わります。

自然とヘルニアになってしまうこともあれば、外傷性頸部症候群のように外傷が契機になることもあります。

その他、種々の神経障害

首のヘルニア以外にも、様々な原因で肩や腕にいく神経が障害されることがあります。首の骨や靭帯が変形してくることによる、頸椎症性神経婚症、頸椎症性脊髄症という病態もあれば、首の靭帯が骨化する難病である後縦靭帯骨化症もあります。また、鎖骨の下や脇の下には腕神経叢という神経の集合体があります。この腕神経叢がやられるのが外傷性の腕神経叢損傷と、慢性病の胸郭出口症候群です。

セルフチェックリスト

いっぱい原因が挙げられていて、自分はいったいどれなんだろう?と迷わせてしまったかもしれません。

そんなときは以下のチェックリストで自分の症状をチェックしてみてください。

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□逆の腕で持ち上げれば上がるけど、自分の力では上がらない
これはカタくはなってないけれども、筋肉が使えてない状態ですから、腱板損傷や腱板炎を疑います。

□逆の腕で持ち上げようとしても上がらない
これはカタくなっているわけですから、五十肩の慢性期である凍結肩である可能性があります。

□とにかく動かさなくても肩が痛い
これは肩の炎症が強い状態の可能性が高いので、石灰沈着性腱板炎や五十肩の急性期を疑います。

□痛いのは腕か首からと言われれば、首や背中より
これは肩こりや頸肩腕症候群の可能性が高いです。ただ、もともと肩が悪いなかで二次的に首回りの痛みが出ることもあるので、肩の動きはチェックしてみてください。

□肩は上がるには上がるけど、横や後ろにもっていきにくい、痛い
幅広い肩の動きの中で一部に障害が出ています。五十肩でも起こり得ますし、腱板損傷などでも起こり得ます。

□外傷後に徐々に痛みが良くなっていったが、その良くなり具合が止まった・・・
通常の打撲や捻挫程度なら、痛みがだんだん引いて、ゼロに近づいていくわけですが、それがゼロに近付かずに、どこかで止まってしまう・・・プラトーに達してしまう・・・
とすれば、何かが痛んでいる(それは腱板なのか、関節唇なのか、軟骨なのか)可能性があります。肩の専門医に相談してみましょう。

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病院で行う検査

病院を受診された際に行う検査について軽く解説を加えます。検査は主に画像検査が多くて、肩の中がどうなっているか?を目で見えないレベルで見にいくわけですが、その画像検査結果が全てではありません。
症状や日常での困り具合、求めるパフォーマンスとのギャップ、そして、診察結果(診断テストや可動域など)などを総合的に判断して治療法を提案していきます。

とは言え、見慣れない画像を提示されて、「はい、ここ!」って言われても困るケースが少なくないはずですので、それぞれの画像の意味や見方のポイントを解説いたします。

レントゲン(単純X線検査)

レントゲンは短時間で撮れて、多くのデータの蓄積もあるので、まず最初にされることが多い検査だと思います。

レントゲンは主にが写ります。
うっすらと脂肪や皮膚なども写るわけですが、主には骨を見ます。

肩で言えば、関節が脱臼してないか、軟骨がすりへって関節の骨と骨の間が狭くなってないか、正常じゃない骨のとんがり、出っ張りがないか、異常な石灰(白く写る)はないか?などをチェックしています。

脱臼はここまで解説したとおり、肩甲上腕関節という関節の脱臼と肩鎖関節脱臼があって、肩甲上腕関節の脱臼を主に肩関節脱臼と言って、上腕骨の骨頭というまあるい部分がちゃんと肩甲骨の受け皿の隣にいるかどうかがチェックポイントです。

また、肩鎖関節脱臼は鎖骨の先端と肩甲骨の肩峰のラインが同じ高さにあるかどうかがチェックポイントで脱臼していると鎖骨が上に上がって見えます。

骨折はレントゲンでは黒く見えます。患者さんの中には白く写ると勘違いしていて、たくさん白い線があって混乱されることがありますが、骨折部分は黒い線として見えます。もちろん、大きくズレていたら骨折線を探すまでもないわけですが。

超音波・エコー検査

超音波、エコーというのが最近、画像検査として台頭して、主流になりつつあります。
このエコーは内臓の検査では昔から使われていましたが、実は筋肉や腱、骨の表面の細かいところまで見えるようになってきていて、かなり有用です。

レントゲンやCTではわからない腱板断裂も判別できますし、骨折だって見つけることができます。

しかし、弱点は瞬間的には一部分しか見えない。全体像が把握できないということと、見えない部分も存在するということです。

ですから、エコーだけで診察する先生もたまにはいらっしゃいますが、僕はレントゲンやMRIなどの検査がエコーに取って代われるというところまではいかないと思っています。

CT

CTはレントゲンをもっと多方向から輪切りの画像として見ることができる検査です。

基本はレントゲン同様、骨を中心に見たいときに使う検査ですが、レントゲンよりもはるかに細かいところまで見ることができます。

肩の場合は骨折のずれ具合を見たり、骨折しているかしていないかをレントゲンだけで判定できないときに検査したりします。

MRI

MRIが一番、いろいろなものが見える検査だろうと思います。僕は肩の痛みで受診される患者さんをものすごくたくさん拝見していますが、その多くの患者さんにMRIをご提案しています。

肩の構造でも述べたとおり、肩は複雑な関節なので、とりあえずレントゲンで骨だけが見えていればいいというわけでもなく、また、エコーで一部の腱板だけが見えていればいいわけでもなく、深いところの関節唇という軟骨が見たい場合もあれば、腱板断裂も全体的にどのくらい切れているかをみたい場合もあれば、五十肩だってMRIで関節包が分厚くなっているのがわかりますので、有益です。

MRIの見方はいろいろな条件での撮影法があるので難しいのですが、基本、損傷している部分は白く写ります。これは炎症や切れているところに入り込む水を表しています。
もちろん、関節液など正常で白い場所は多々あるので、「もともとは白くない場所なのに白い場所」を探すようにMRIを見ています。

肩の治療法

最後に肩の治療法についてもまとめておきます。

治療法は病院で行われる治療法の解説と、病院外で自分でできるケアや肩の痛みの予防法、悪化防止法について解説を加えていきます。

病院での治療法

まずは病院での治療法です。

病院に行って提案されるのは主にこの4つだと思うので、それぞれの意味と注意点について頭に入れておいてください。

飲み薬・湿布

薬 サプリメント 内服薬

まずは飲み薬や湿布です。これは主に消炎鎮痛剤だろうと思います。ロキソニンやセレコックスという商品名の薬が多く出されています。要は痛み止めですね。肩の腱板損傷や五十肩など、肩の深いところの炎症を抑えるのに表面的な湿布はあまり効果的じゃないと考えて、あまり僕は処方していませんが、逆に肩こりや頸肩腕症候群などは表面の筋肉に問題があることが多いので、湿布も検討していいと思います。

他には筋弛緩薬という薬も時々出されます。これはザックリ言うと「こりをほぐす薬」です。メカニズムからも想像つくと思いますが、肩こり、頸肩腕症候群などには効果的な場合があります。

 

これらの薬で注意してほしいのは、

消炎鎮痛剤なら胃の調子が悪くなってしまうこと、喘息をお持ちの人は発作を誘発することがあること、腎臓の働きを落としてしまうことがあることなどですし、

湿布なら、シンプルにかぶれです。湿布かぶれを甘く見ていると、治りが異常に悪い皮膚炎担ってしまうこともありますので、僕は原則、湿布かぶれがある人は塗り薬にするか、外用剤は使わないということを提案しています。

筋弛緩薬の副作用で注意してほしいのは眠気です。特に運転などをする人は寝る前だけ飲むようにしてもらっています。

注射

注射も比較的よく行う治療です。

肩こり、頸肩腕症候群にはその原因となる筋肉の押して痛い部分(圧痛部分、トリガーポイントと言ったりします)に局所麻酔の薬を注射するブロック注射が行われたりしますし、

肩関節やその周囲の炎症をピンポイントに抑えるためにステロイドの注射を打つこともあります。ステロイドは前述した痛み止めのロキソニンなどよりもはるかに炎症を抑える力が強い反面、飲み薬などで全身に作用させてしまうと様々な副作用が懸念されます。

しかし、ピンポイントの注射であれば全身に回る量は微々たるものですから、副作用をほとんど心配せずに投与することができます。

注射の注意点としては、そうは言っても、針を刺すという医療行為ですから、想定外にストレスがかかって痛みが増したり、関係なさそうなところに痛みが出たりなんてことや、最悪、注射したところから細菌が侵入して化膿するなんてリスクもあります。相当低いリスクではありますが。

また、ステロイドの注射はピンポイントなので副作用を抑えられると言いましたが、そのピンポイントの注射部位の副作用は注意が必要です。期間を空けて2−3回打つ程度なら問題になることはほとんどありませんが、打ち過ぎると、その注射部位が壊死したり、腱や筋が切れてしまったりなんて重篤な副作用がでることがあります。そのため、僕はステロイド注射は同じ部位には3回までと決めています。

3回目以降も希望される患者さんに対しては効果が落ちますが、ヒアルロン酸の注射に切り替えてします。

リハビリテーション

リハビリテーションはいくつか種類があって、特に大きく分けると物理療法と運動療法に分けられます。

物理療法というのは、イメージとしては「電気を当てる」「マッサージをしてもらう」「牽引する」というような外からなんらかの刺激を加えるような治療です。
どれも主な役割は筋肉のリラックスと血の巡りの改善になります。その意味で肩こり、頸肩腕症候群において、特に根本的な治療にもなり得ると説明しています。

運動療法というのは、関節を動かし、筋肉を使っていく治療です。例えば、五十肩であれば関節がカタくなっていますから、動かせる範囲が狭いわけです(可動域制限)。これは動かすことによって拡大していることが直接的で、根本的ですから、メインが運動療法になります。

また腱板断裂や石灰沈着性腱炎も要は筋肉のトラブルですから、筋肉を動かすリハビリは重要な役割を示します。

特に肩は手術後のリハビリがとても大切です。しっかりとリハビリができないと、どんなに手術がうまくいっても、半分も満足度が得られないという状況になりかねません。

手術

最後に手術です。

arthroscope surgery

基本的には手術は最終手段と考えられています。薬でも注射でもリハビリでも改善しなかった(これを保存療法抵抗性と言います)場合に考えるモノということです。

ただ、骨折でズレが大きければ手術以外には治す方法がないことも多いですし、腱板断裂としてしっかり腱板に穴が空いていれば、自然修復は相当期待できないので、手術を早期から検討することも少なくありません。

そういった意味では手術までできる肩関節専門の整形外科医の診察を受けるということは後悔しない治療法を選択する上で一つポイントと言えるかもしれません。

日常生活でできるセルフケアと予防法

日常生活でできるセルフケアや肩の痛みの予防法、悪化防止法について考えてみます。

寝具の調整・寝る姿勢の調整

まずは睡眠習慣です。肩の痛みにおいては睡眠週間がとっても大切です。

肩こり、頸肩腕症候群の人は枕やマットレスのカタさなどが自分にフィットしているかのチェックが必要です。首や背中の姿勢、寝返りのしやすいさによって、寝ているときの首から肩甲骨周りの筋肉にかかる負担が大きく変わります。寝具を調整したら、肩こりが改善したなんて例はたくさん聞きますよね。
これは基本的にはオーダーメイドで体型を測定しながら提案してくれるお店で相談するのがいいでしょう。

また、肩関節の痛みとして五十肩だろうが腱板損傷だろうが石灰沈着性腱炎だろうが、「夜間痛」が強いのが特徴です。これをどう防いでいくか?ということですが、まずは夕食後や寝る前の鎮痛剤の内服です。これは基本になると思います。

さらに、腕の姿勢として、腕が背中側に位置すると痛みが出やすいという傾向があります。ためしに肘を背中側に引いてみて、肩の前方を触ってみてください。前が張ったり、出っ張ったのを感じたのではないでしょうか。

腕が背中側に入ると、肩関節の上腕骨頭はやや前方に偏ります。脱臼まではしませんが、この姿勢では肩の前が張っている状態ですから、このまま寝てしまうと、肩が痛いとなりやすいわけです。

肩にとって休まる姿勢とは、一般的には若干お腹寄りに腕がある状態です。仰向けで寝るなら肘から上腕の下にタオルなどを敷いて、肘の位置をお腹より少し高いくらいにキープするといいでしょう。

肩甲骨体操

頸肩腕症候群、肩こりのセルフケアとしてはもちろん、五十肩や腱板損傷など肩関節の問題があるときにも、その根本となる肩甲骨を動かす体操、エクササイズは効果的です。

劇的な変化までは示さないかもしれませんが、逆に悪い効果もほとんどないはずなので、ベースとなるセルフケアとして取り入れてもらうといいと思います。

肩甲骨は上下に動かす方向と、両肩甲骨を寄せるのと拡げるという方向でのエクササイズが基本になります。それぞれ肩甲骨が大きく、安定的に動くようなイメージでエクササイズに取り組んでみてください。

動画でご紹介します。

肩周りが凝り固まる生活習慣の改善

最後に予防法としては肩周りが凝り固まる生活習慣を見直していくことが大切です。

現代人の習慣としてスマートフォンを長時間操作したり、PCを長時間操作することがありますが、その時の姿勢に気を配ってみてください。

スマホをのぞき込むように首から背中が前屈みになってしまっていませんか?
ずーっと同じ姿勢でPCやスマホを操作してしまっていませんか?

スマホは顔の前に持ち上げて使う。しかし腕も疲れてくるので長時間使うのではなく、姿勢をちょくちょく変えながら使う。
PC作業中などは定期的に席を離れて歩いたり、椅子に座りながらでも肩周りのストレッチや先ほどの肩甲骨体操などをやるという習慣もいいですね。

また、重い荷物を必ずどっちかの肩に引っかけたり、どっちかの腕でばかり持ってませんか?
左右均等に使うという意識や持ち替えるという習慣に変えることをオススメします。

まとめ

ここまで肩の痛みの原因について、肩という特殊構造をした関節の特徴を捉えていただきながら解説してきました。

かなり複雑な肩というものが、イメージできるようになってきたのではないでしょうか。

いろいろとご説明しても、結局、結論としては「肩を専門とする整形外科医の診察を受けましょう」となりますが、ここまでイメージできていて、診察を受けるのと、「肩って・・・この辺りのことだよね?」という段階で診察を受けるのとでは、だいぶ得られる情報が違うはずです。何度か読み返しながら、受診も検討してもらえればと思います。

また、肩の治療のもっと根本的、かつ、実践的な考え方については「Shoulder Rule」という電子書籍で解説しておりますので、ぜひ、一度お読みください。

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