五十肩のストレッチは痛いところを攻めるべし!
しかし、注意点もたくさんあり!
五十肩はカタくならないように体操・ストレッチ・リハビリテーションをやりましょうというのはよく言われることです。体操といっても、いろんな情報が入り交じっている昨今、どういう体操が肩にとっていいのかどうか迷ってしまうかもしれません。
特にストレッチは痛いところの直前までと一般的に言われますが、五十肩では実はそれでは意味がないということもお伝えします。
ここで紹介するすべてのストレッチや体操をやらないといけないわけではありません。それぞれ特徴があって、その特徴を捉えて、ご自身に合うモノを継続してもらうのがいいと思います。
そのためにもまず五十肩、もしくは、カタくなってしまった凍結肩という状態についての基本的な知識を頭に入れていただければと思います。徹底解説します!
五十肩(四十肩)・・聞いたことがないという人は少ないであろう、聞き慣れた言葉です。もちろん、四十というのは年齢を表しているわけですが、五十肩(四十肩)とは何なのか?ということに対してどれだけの人が明確に答えられるかというと、かなり限られるのではないかと思います。
ということで、まずは五十肩(四十肩)とは?ということで解説したいのですが、肩とはなんぞや?という部分から個人的な見解まで、ちょっとクセのある解説をしてみたいと思います。
こんにちは、肩を専門とするスポーツ整形外科医の歌島です。
本日も記事をご覧いただきありがとうございます。
それではいきましょう!
肩とはなんぞや?
まず肩とは?というところから入りたいと思います。
肩とは何でしょうか?
腕の付け根・・・ですよね。
哺乳類の進化前でいえば、前脚の付け根でもあります。
進化の過程で二足歩行になって、この前脚は腕となり、体重を支える役割からモノを扱う役割に変化しました。
そのなかで付け根、つまりベースである肩の役割も大きく変わりました。
シンプルに言えば、強さより柔らかさが必要になったということですね。
下のモノや上のモノなどに手を伸ばして、掴んだり、モノを投げたり、何かを叩いたり、引っ張ったり、多様な腕の動きを肩を中心に行うことが必要になっていったんですね。
肩は最も大きく動くゆえに不安定
そして、肩はすべての関節の中で最も幅広く、多方向に動く関節となりました。それを達成するために形をどんどん変えていき、肩の受け皿側の骨、軟骨の形は非常に浅いお皿になりました。
それが肩甲骨関節窩という部分です。
浅いお皿(肩甲骨関節窩)に丸いボール(上腕骨頭)が乗っているような形状なので、非常に幅広く動かせる代わりに、非常に不安定で、ボールがお皿から落ちれば、要は脱臼です。
つまり、大きく動かせる代わりに脱臼しやすい関節になってしまったわけです。
大きな動きを損なわず安定させる役割を担うのが?
そんな中で、他の関節に比べれば遥かに脱臼しやすい関節なのは事実ですが、それでもほとんどの人は脱臼しませんよね。
それは、外れないように頑張ってくれている軟部組織(柔らかい組織)があるからなんですね。
それが腱板(けんばん)というインナーマッスルと関節包(かんせつほう)という膜になります。
腱板(インナーマッスル)
腱板というのは肩の深いところにあるインナーマッスルの総称です。この筋肉がしっかり働くことで、肩関節のボールを受け皿に引きつけるようにして安定化しています。
関節包(かんせつほう)
関節包というのは関節を包む膜で、所々分厚くなって関節包靱帯(かんせつほうじんたい)という名前で関節が外れないように支えてくれています。
この腱板と関節包(関節包靱帯)が骨のような硬い組織じゃなくて、軟部組織だからこそ、柔軟な幅広い動きを損なわずに脱臼しないようになっているんですね。
でも、それゆえ、その腱板や関節包は生まれてからずっと涙ぐましい苦労をしていると言えます。
どんな関節にも寿命がある
人に寿命があるように、関節にも寿命があります。
膝は軟骨が先に限界になる
例えば、膝であれば日々の体重を支える負荷に対して限界がくると軟骨がすり減ってきます。そして最終的には人工関節の手術が必要になることがあります。
肩の場合はそれが腱板であることが多い
肩の場合はその限界の1つが腱板であることが多いんですね。限界というと言い過ぎですが、腱板が耐えられずに切れてしまうという腱板断裂は想像以上に多くの人に起こっています。
軟骨は物言わぬ、腱板は物言う 血流の違い
軟骨は血の巡りの悪い蒼白の組織です。
それに対して腱板は白いスジですが、周囲は血流豊富な滑膜に覆われていて、軟骨に比べれば血の巡りがいいと言えるでしょう。
その違いは、危険サインの出し方に出ます。
軟骨は血の巡りが悪いので、傷んできていても、危険サインの典型である炎症や痛みが出るのが遅れます。膝がいたくなった頃にはすでに軟骨はだいぶすり減っていたということはよくあります。
それに対して、腱板は切れてしまうだいぶ前の変性(ちょっと脆くなったり、みずみずしさを失った状態)で炎症を起こして、痛みを引き起こします。腱板炎という状態です。
そういう意味で
「軟骨は物言わぬ、腱板は物言う」
ということです。
四十肩・五十肩の意味は?(個人的見解)
ここからは僕の見解ですが、物言う腱板(もしくは関節包)が、物言うのが大抵40-50歳代なんじゃないかなということです。
つまり、これ以上無理させると腱板断裂を起こしちゃいますよ!っていうサインを早めに出しているんじゃないかなということです。
実際、腱板断裂はそれより遅れて70,80歳代に多いです。随分と先の心配をしている気もしますが、四十肩、五十肩の反応で関節包を少しずつカタくして(それが重症になったのが凍結肩という状態ですが)、肩の動きを意図的に減らして、将来的な腱板断裂を防ごうとしているのかなと勝手に推測しています。
[st-card id=46 label=”” name=”” bgcolor=”” color=”” readmore=”on”]
では、実際に痛みがどこから来ているのか?という原因と
実際に中で何が起こっているのか理解した上で、じゃあ、これはなぜ起こってしまうのかという本当の意味での原因について考察を交えて解説していきます。
五十肩とは?
肩関節周囲炎から凍結肩という一連
この五十肩・・・
実際に肩では何が起こっているのか?
なんで痛いのか?
というと、大雑把に2つの現象が一連の流れで起こっていると考えています。
そのうちの1つが肩関節周囲炎(かたかんせつしゅういえん)です。
その名の通り、肩関節の周りに炎症が起こるという状態です。
そして、次に起こるのが凍結肩(とうけつかた)という肩が凍結したかのようにカタまってしまう状態です。
肩関節周囲炎と言ってもいくつかある
肩関節周囲炎、つまり肩の周りが炎症を起こしている状態ですが、周りというのは、これまたアバウトな表現です。それには複数の病態が含まれます。
肩峰下インピンジメント症候群
多いのは肩峰下インピンジメント症候群と言って、肩峰という肩甲骨の骨とその下の腱板というインナーマッスルの間のスペースに摩擦による炎症が起こる状態です。
こちらで詳しく解説しております。
[st-card id=49 label=”” name=”” bgcolor=”” color=”” readmore=”on”]腱板疎部損傷
ちょっとマニアックですが、肩の前方の腱板と腱板の間に腱板疎部というやや薄い場所があります。この腱板疎部の損傷や炎症も痛みの原因になります。
上腕二頭筋長頭腱炎
また、肩の前方の痛みの原因として、多いのが上腕二頭筋長頭腱炎です。これは力こぶの筋肉が肩の関節の中に入るところで炎症が起こります。
[st-card id=121 label=”” name=”” bgcolor=”” color=”” readmore=”on”]凍結肩≒肩関節包肥厚
凍結肩というのは、主に肩の関節包(かたかんせつほう)という関節を包む膜が分厚くなって(肥厚)、カタくなっているため、肩が上がらない、肩が回らないという、可動域制限がメインの症状になってきます。
肩に限らず関節は閉鎖空間になっていて、きれいな関節液で満たされていて、スムーズな関節運動を助けています。
その閉鎖空間の隔壁が関節包というわけです。
特に肩においては、脱臼しやすい形状にもかかわらず、最も幅広く動く関節であるため、常に関節包は伸ばされる刺激、負担を強いられています。
そんな中で、先ほども述べたような肩関節周囲炎が起こると、身体の防御反応として、肩を守ろうとします。
その結果、隔壁である関節包は分厚く、カタくなり、「安静にしろ!」というサインのつもりなのか、肩の可動域を狭めていくことになります。
なんでこういったこことが起こるのか?(本当の原因)
なぜこのようなことが、それも年齢にして40歳、50歳にして起こりやすいのか?ということですが、
真相はまだ不明です。
ただ、考えてみると、シンプルに加齢性の変化であれば、もっとご高齢の方に肩の痛みが増えていくことになると思います。
実際に整形外科診療をしていると、高齢の方と40–50歳くらいの方と、肩の痛みで受診される患者さんは、同じくらい多くいらっしゃいます。
しかし、その原因は調べてみると、かなり異なります。
ご高齢の方はレントゲン、MRIを見てみると、腱板が切れてしまっている腱板断裂や軟骨がすり減っている変形性関節症が多くなっています。それに対して、40–50歳くらいの方はそういった明らかな画像上の変化は少ないです。これがいわゆる五十肩ということになるわけですが。
そういう意味では五十肩の原因は、加齢性に関節が脆くなってきている中で肩関節は相変わらず酷使されているという状況に対する危険サインとして炎症を起こし、カタくしているという推測をしています。
要はこれ以上無理して使うと腱板が切れるよ!とか、軟骨がすり減ってくるよ!というサインを発して、少しは肩のことも考えていたわってあげてね!ってことかもしれない
そのように個人的には考えています。
ですから、四十肩、五十肩だから仕方ないで済ませずに、一度、診察を受けて「肩のいたわり方」を一緒に相談してみるのもいいかもしれませんね。
五十肩に対する整体治療の危険性
ここまでマニアックな解説にお付き合いいただいてありがとうございます。
五十肩というのが見えてきたと思います。
そんな五十肩で肩が痛い、肩が上がらない、回らない
という人が時々おっしゃるのが、
「整体を受けたら余計に痛くなってしまった!!」
ということです。
実際に五十肩の人に整体治療をしたらどうなるかを考えてみましょう。
整体というのはwikipediaによると
整体(せいたい)とは、日本語では主に手技を用いた民間療法、代替医療を指す。日本語としては、大正時代に用いられるようになった用語で、アメリカで誕生したカイロプラクティック・オステオパシー・スポンディロセラピーなどと日本古来の手技療法と組み合わせたものを、「整体」や「指圧」と名付けたのが始まりのようである[1]。現在、俗に用いられる意味では、カイロプラクティック(脊椎指圧療法[2])に似た骨格の矯正(主に脊椎)を目的とした手技療法を指して使われることが多い[3]。脊椎・骨盤・肩甲骨・四肢(上肢・下肢)など、からだ全体の骨格や関節の歪み・ズレの矯正、骨格筋の調整などを、手足を使った手技と補助道具で行う技術およびその行為[要出典]を指しているという意見もある。
ということで、相変わらずわかりにくいわけですが、
要は骨格の矯正を目的にした手技療法ということだろうと思います。
ですから、典型的には首をコキッとして、矯正するような手技がイメージされますね。
実際に整形外科医が整体師と関わることは少ないので、
このイメージ通りの整体手技がどれほど行われているのか?は不明です。
ただ、ここまで五十肩について学ばれた人であれば、
骨格の矯正という目的そのものが五十肩とは合っていない、
メカニズムとして改善するとは思えないということは、おわかりと思います。
さらに、整形外科医としては
あの首をポキッとやる手技も、頚椎を危険にさらすデメリットを越えるメリットはないと思うので、やめていただきたいと思っています。
肩関節を徒手療法で動かしていくとすれば、
やり方によっては炎症を強めてしまいます。
肩を守ろうと関節包などを炎症させているのが五十肩とすれば、
そこで無理に肩が動かされたときに、余計に炎症を強めてしまうわけですね。
また、炎症が弱まった時期で、凍結肩という硬くなっている時期であれば、
肩を徒手的にも動かしていくリハビリテーションを行うわけですが、
それも整体師、柔道整復師という職業の人は専門外です。
専門は理学療法士と作業療法士ですから、危険と言わざるを得ません。
五十肩の治し方:唯一、有効と考えられるマッサージ
では整体治療ではなく、マッサージだったらどうか?
ということですが、
まず、炎症を起こしている肩関節周囲をもみほぐす、
それも強く揉んだりするのは、それも炎症を強める逆効果になりますので、
やめたほうがいいですね。
しかし、五十肩のように肩関節に炎症があり、硬くなっている人は、
たいてい、肩甲骨自体の動きがよくありません。
肩甲骨が硬くこわばっているようなイメージですね。
ですから、肩甲骨回りの筋肉・・・
それはつまり、肩こりする部位と言ってもいいですが、その肩甲骨周囲筋を中心にマッサージして、それらの筋肉が柔らかくなって、
さらにその筋肉を上手に使えるようなエクササイズも組み合わせれば、
肩関節の動きも改善していって、
自然と炎症も落ち着いていく。
なんていう好循環に入る可能性があります。
つまり、唯一有効なマッサージというのは実は肩こりのマッサージと同じ・・・
と極論言えてしまうわけですね。
ちなみに組み合わせるべき肩甲骨周囲筋のエクササイズの代表例として
CATと呼ばれるエクササイズの動画をご紹介しておきます。
五十肩の治療の中でもストレッチ・リハビリは重要だが時期を注意
と、ここまで解説したとおり、
五十肩というのは肩関節周囲炎の結果、だんだんと肩がカタくなって、上がらなくなる、回らなくなるという状態に陥ってしまうケースが多いんですね。
最終的にはそれを凍結肩と言うわけですが、
そうならないためにも炎症、つまり痛みがある程度落ち着いてからは、リハビリテーション(ストレッチや体操)を重点的に行いましょう。
しかし、痛みが強い時期にストレッチで肩をいじめてしまうと炎症がもっと強まってしまうので、痛みが強い時期(特に安静時痛・夜間痛)はやめておくか、安静時痛・夜間痛が非常に軽く、痛みが強まらない範囲でやるということを徹底します。
ラジオ体操は肩の動きのバリエーションが豊富
まずラジオ体操です。はるか昔からあって、誰もがやったことがある体操かもしれませんが、近年、その効果が注目されてきています。
思い出してみると、いろんな動きがありましたよね。ラジオ体操も第1、第2と通してやれば、かなり大変で、かなり多くの動きを使います。
このバリエーションが豊富である点がいいんですね。
肩関節というのは3次元的にあらゆる方向に、回旋運動も含めて動く関節ですから、実際のところは1つや2つの動きだけでは十分動かしたとは言えないんですね。
動きのバリエーションは豊富なら豊富なほど、肩の動きに対しては効果が期待できます。
また、全身の運動というのも、いいポイントです。どんな動きでも他の関節と連鎖して(運動連鎖)して、協力し合って動きます。そのため、肩だけ動かすというよりも全身運動の中で肩を動かすというのはいいことなんですね。
ラジオ体操は痛みや時間でできなければ この4つ
ただ、ここまで解説したメリットに対して、デメリットは
- 全身運動のため、他の関節の痛みがあったり、体力的な問題でラジオ体操が十分にできないことがある
- 肩の痛みやカタさが軽度のときでないと十分な体操はできない
- 時間がかかり、肩以外の運動もあり非効率的
ということでしょう。
そういう意味では、以下の4つが自分の課題に合っていれば、効率的にできると思います。
自分の課題とは、カタくなっている動きの方向です。
振子運動体操であれば、外から上げる外転運動や、前から上げる挙上運動がカタい場合にオススメですし、
スリーパーズストレッチであれば、背中側に腕を持っていく内旋という動きがカタい場合にオススメです。
仰向けバンザイストレッチであれば、肩をバンザイに持っていく、挙上運動がカタい場合にオススメです。
柱つかまりストレッチであれば、腕を開く運動(外旋運動)がカタい場合です。
振子運動体操
挙上・外転がカタいという人にお勧めの体操は振子運動体操です。
これはできるだけお辞儀して(ここで転ばないようにテーブルを掴むんど安全対策が重要です)、腕をだらんと下ろした状態で、腕をリラックスした状態をキープしながら振子のように腕を前後に振ったり、回したりする動作です。
これは重力や慣性の力を使って腕を挙上できるので、「力まない」で済むんですね。これは可動域を拡げていく上で非常に重要なポイントです。どうしても痛かったり、カタかったりすると筋肉に力が入って、力んで余計にカタくなってしまうことがありますので、脱力してできるということが一番のオススメポイントです。
「動画のようには痛くて振れないよ!」という場合には頭を下げれるだけ下げて、ただ、重力に従って力を抜くだけというのもオススメです。
内旋がカタい→スリーパーズストレッチ
内旋がカタいという人にはスリーパーズストレッチという寝ながらできちゃうストレッチがオススメです。
これも楽ちんということが1つのオススメポイントですが、実際に効果も高いです。内旋するときにどうしても肩甲骨が逃げてしまうわけですが、肩甲骨が寝た状態で固定されているので、肩甲骨は逃げずに肩の内旋を加えていくことができます。
ただ、四十肩の人でかなりカタい人は肘を前に持って来れないかもしれないので、その場合はできるところまででいいと思います。
ストレッチは激痛に耐えてやるものではないので、気持ちいいと痛いの間くらいを目安にやっていきましょう。
仰向けバンザイストレッチ
まず挙上運動のストレッチです。
仰向けで寝て上げていくことで、腕が上がっていくにつれて重力がかからないようになり、90°をすぎると重力が逆にサポートしてくれるので力を抜けます。
手を持って挙げていくと、肘がだんだん曲がるだけで、肩は動いていないという状態になりやすいので、この動画のように肘を持って上げていくといいですね。
柱つかまりストレッチ
次に外旋運動のストレッチです。外旋運動というのは先ほどの内旋の逆になりますが、わかりやすいのは肘を身体にくっつけた状態で、肘を90°に曲げて、手を外側に持っていくような動きです。
これを柱を掴んで、逆に身体を回していくことによって外旋のストレッチをしようというのが柱つかまりストレッチです。
注意点は肘が身体から離れないようにすることですね。
次に全体像として、肩関節周囲炎のリハビリ療法の流れについて解説いたします。
そして、炎症の程度、段階によってやるべきリハビリが変わってきますので、その流れを掴めるような解説をいたします。
肩関節周囲炎のリハビリの流れ
肩関節周囲炎の一般的な経過としては、まず炎症が強い、つまり痛みが強い時期から、だんだんと痛みが落ち着いてきて、逆に肩がカタくなってしまう(可動域制限)という流れです。
その中でやるべきリハビリも変わってきますので、その流れを解説いたします。
初期は炎症が強い:肩甲骨を動かす
まず初期は炎症が強いので、痛みが強いのを我慢して、肩をたくさん動かしてしまうと、炎症は逆に強まる一方です。これは肩のリハビリと言うよりは「いじめ」に近いです。
そのため、この時期は「肩関節」、つまり肩甲骨と上腕骨からなる関節はあまり動かさずに、「肩甲骨」自体をよく動かすということで、肩甲骨の動きをよくすることに集中します。
それによって炎症が起こっている部分は安静にできますし、痛みがひいて肩を動かせるようになってきたときにも肩甲骨の動きがいいと、スムーズに肩関節が動かせるようになるメリットがあります。
肩甲骨運動の基本種目は、肩すくめやCATなどがあります。
炎症が鎮静化:カタい部位をほぐしていく
次に痛みがひいてくると、それは炎症が治まってきたことを意味しますので、少しずつ「肩関節」を動かしていきます。
このときには肩まわりの筋肉が力んだ状態で肩を動かしてしまうと、せっかくおさまった炎症にもよくないので、リラックスして動かすということが大切です。
そういう意味では、さきほどお伝えした振子運動体操がオススメのリハビリと言えます。
完全にカタく:地道に痛みを我慢しながら動かす
最後に、もし完全にカタまってしまい、凍結肩と呼ばれる状態になってしまったとしても、基本は地道にリハビリとしてストレッチや病院での可動域訓練をしていくことになります。
こちらで紹介したラジオ体操やストレッチもこの段階で積極的にやっていくものになります。
「五十肩のストレッチは痛いところまでやらないと意味がない」の真意
ここまでの解説で、まず大切なのは
五十肩も段階によって必要な治療やストレッチも違ってくるということでした。
そして、最初に言ったような「痛いところまでのストレッチ」というのを、
安静時痛や夜間痛が強い炎症期に行ってしまうと、
間違いなく逆効果になるということは最初に押さえておきたい点です。
しかし、それ以降の関節の可動域を拡げていくためのストレッチであれば、
肩を守ろうとカタくなっている関節包をジワジワと伸ばして、拡大していくわけですから、痛みがあって当然とも言えます。
ですから、痛みよりもカタさが強まってくる段階では「痛い」ところまでストレッチするということを心がけてみてください。ただ、本当に効果を出す「痛み」と間違ったやり方のせいで起こっている「痛み」の区別はなかなかつかないと思いますので、一度は整形外科を受診していただくのをオススメします。僕の外来では可能であれば理学療法さんに一度、リハビリの方法を指導してもらっています。
次にリハビリ・ストレッチ以外の五十肩に対する治療法(注射、薬)について解説します。
五十肩に注射をする4つのケース
まず肩に注射をする4つのケースについてお伝えします。
それは
* 五十肩の痛みの原因となる炎症を抑えるため
* 肩の痛みの元にある神経を落ち着かせるため
* 肩の精密検査のため
* 肩に関係なく全身に届くための皮下注射、筋肉注射
これになるだろうと思います。
それぞれについて解説していきます。
1.五十肩の炎症を抑える注射
このケースが一番多いだろうと思います。
五十肩は肩関節周囲炎というくらいですから、痛みの原因の多くは、どこかに炎症が起こっていることですから、その炎症抑える薬を炎症が起こっているであろう部位に注射するということですね。
これは治療目的の他に、どこが痛みの原因かをはっきりさせるという意味もあります。
ステロイド注射
まず炎症を抑える代表的な薬である副腎皮質ステロイドです。
このステロイドは飲み薬や点滴などで全身に投与、それも長期わたって投与すると様々な副作用が出現します。
- 全身や顔のむくみ
- 菌やウイルスに弱くなる
- 血糖値が上がる
- 胃潰瘍
- 血栓ができやすくなる
などなど、挙げればもっとありますが、
肩の炎症を起こしている部位だけ(厳密にだけとは言い切れませんが、全身に回る量は微量です)に注射をする分には、これらの全身性の副作用は多くありません。
僕の経験では糖尿病の患者さんで、血糖値が上がってしまったということはあるので、そこは注意しています。
しかし、他の注射よりも炎症を抑える効果が高いので比較的積極的に行っています。
ただ、注射を打った場所にも繰り返していると副作用が危惧されます。
それは脂肪がかたくなってしまったり、近くの腱や軟骨、骨が弱くなってしまったりということが起こりえます。
そのため、僕の場合は3回を目安に、それ以上は次のヒアルロン酸などに切り替えたりというような方針でやっています。
ヒアルロン酸注射
ヒアルロン酸は美容領域でも潤い成分のような印象をお持ちの方もおられると思います。事実、軟骨がすり減った関節に注射をして潤滑油(油ではありませんが)のような役割を期待して注射が行われます。
ただ、そういった物理的な潤滑油のような効果よりも、シンプルに注射した部位の炎症を抑える効果があることがわかっています。
それはステロイドほど強くはありませんが、ステロイドのような副作用も少ないのでよく行われる注射です。
麻酔薬テスト注射(キシロカインテスト)
もう一つ使うのはキシロカイン、プロカインなど〇〇カインという名前が多い局所麻酔薬の注射です。
注射を打った場所の神経を麻痺させて痛みを感じなくさせる役割があります。
これを炎症部位に打つと、そこが痛みの原因であれば痛みが引きます。
しかし、これだけだと効果が数時間しか持ちませんので、本当の一時しのぎにになりますが、それでも、痛みの原因部位をはっきりさせることは有用です。
これをキシロカインテストと言ったりします。
実際にはキシロカインにステロイドやヒアルロン酸を混ぜて注射して、テストだけじゃなくて、ちゃんと治療にもなるような注射をすることが多いです。
さて、次はどこに注射をすることが多いか?という部位の話に移ります。
肩峰下滑液包注射
肩で多いのは肩峰下滑液包(けんぽうかかつえきほう)という部位への注射です。
腱板損傷や肩峰下インピンジメントでもまず最初にトライする注射です。
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実際は肩峰下滑液包と言っても、きれいに袋になっている場合と、滑膜という膜が増えて、中がもやもやしている場合があります。
注射するのも滑液包の中でも前の方だったり、後ろの方だったり、いろいろと打ち分けたりしています。
腱板粗部注射
腱板疎部というのも比較的炎症が起こりやすい場所です。
腱板というインナーマッスルの筋肉の間にある薄い場所で、薄いからこそ弱いので負担に過剰反応すると考えています。
腱板疎部というのは烏口突起という肩甲骨の突起の奥に存在しています。
そのため、腱板疎部の注射はこの烏口突起をメルクマール(指標)にしながら前から打ちます。
肩関節内注射
関節の中に注射を打つことももちろんあります。
有効なのは関節の中に炎症が起こっている場合ですね。
それは関節唇が損傷している場合、四十肩や五十肩で関節を包む関節包が全体的に炎症している場合などが適応になります。
関節内への注射は前からか後ろから、どちらからでも可能です。
注射が痛い場合のその理由
注射を打つとすごく痛いケースとそうでもないケースに出くわします。
同じ部位に打っているのに患者さんの反応は同じではありません。
それにはいくつか要因があります。
1つは患者さんの要因。
痛みに強いか弱いか。注射が嫌いか、そうでもないか。
注射部位の炎症がそもそも強いかそうでないのか。
もう1つは注射そのものの要因。
針先が腱板や軟骨など通常、薬液がなかなか入らない場所にあるのに無理やり入れてしまうケース。これは完全にダメなやつで、注入するときの抵抗が高いときは針先の位置を変えるのが基本なので、実際にそれをやってしまう医師はほとんどいないはずです。
ただ、炎症を起こしている滑膜がかなりかたかったり、注射している部位の圧力が高い状態でさらに液体を注入することで圧力が高まって痛みが増すということは考えられます。
注射して数時間後や数日後も痛みが増しているケースは注意が必要です。
1つは痛みの原因でない場所への注射になっていた可能性
もう1つは注射の効果以上に刺すことのダメージの方が大きかった可能性
を考えます。
細い針ですから、後者は可能性としては低くて、前者をまず考えて、別の部位に注射を再トライすることも考えますが、注射への恐怖心が高まっている状態ではしばらく注射はやらないということもあります。
2.肩の神経をブロックする注射
肩の神経をブロックする注射も時々ですが行います。
五十肩の痛みの原因が実際は肩周りの神経にあることが頻度は高くないですがあるんですね。その神経の周りに局所麻酔とステロイドを混ぜた注射をして神経を休ませて、神経とその周りの炎症を抑えることで治療しようということですね。
肩甲上神経ブロック注射
肩甲上神経(けんこうじょうしんけい)とは、肩の近くに走る末梢神経の1つです。
肩から腕の運動や感覚を司る神経は首から出てきます。そして、肩甲上神経は肩の上あたりで枝分かれして、肩甲骨の凹み(肩甲切痕)を通って、筋肉や関節に入ります。
インナーマッスルを動かす神経
主に肩甲上神経は運動神経です。つまり、筋肉に信号を伝える働きがあり、これが働かなくなると、いわゆる「運動麻痺」が起こります。
この肩甲上神経が支配する筋肉は
- 棘上筋(きょくじょうきん)
- 棘下筋(きょっかきん)
の2つです。
肩の重要な腱板筋群(インナーマッスル)の2/4、つまり半分を支配していると言えますので大切ですね。
ただ、アウターマッスルである三角筋を支配するのは別の腋窩神経という神経ですので、肩甲上神経麻痺でも肩を挙げることができる場合もあります。
肩の後ろの感覚にも関係していると言われている
以前は、肩甲上神経には皮枝(皮膚感覚を支配する枝)は存在せず、純粋な運動神経と考えられていましたが、実際に肩甲上神経麻痺の患者さんを診察すると、かなりの頻度で、肩の後ろから外側の感覚低下(しびれや鈍い感じがする)という症状があることがちらほらと報告されています。
少なくとも関節には枝を出している
感覚を司る皮枝の存在は議論中ですが、解剖学的に関節の中に入る枝(感覚神経)は存在します。
関節とは肩鎖関節(けんさかんせつ)と肩関節です。
そのため、この神経ブロックはこれらの関節の痛みに対する効果が期待されます。
腋窩神経ブロック注射
次に腋窩神経という神経のブロック注射も時に有効です。
腋窩神経とは末梢神経のひとつ
腋窩神経の腋窩(えきか)ですが、これは要は脇の下(腋の下)のことですよね。
この腋窩部を走る末梢神経(まっしょうしんけい)の1つが腋窩神経です。
腋窩神経は肩に巻き付くように走る
腕に行く神経は首の骨の間から出て、鎖骨の下を通って、脇の下、すなわち腋窩部を通ります。
そんな中で腋窩神経はその腋窩部近くで太い神経から枝分かれして、腋の下を後ろから肩の外へ回り込みます。
腋窩神経の働き
神経の働きを考える上で大切なのは神経の走行(走る位置)です。
つまり、先ほど解説しましたが、腋窩部から肩の後ろから外へ回り込むという神経の走行から、
その神経の走行している領域(肩の外側)の皮膚感覚を支配して、その部位にある筋肉による運動を支配するというのが一般的です。
三角筋という大切な筋肉を支配
まず筋肉で言えば、三角筋を支配するということになります。
三角筋は肩の周りを後ろ、外、前と取り囲むように走る筋肉で、まさに位置としても腋窩神経が支配すべくして支配している筋肉です。
そして、三角筋の前側が働けば、腕が前から上がっていきます(前方挙上)。外側が働けば、外から上がっていきます(外転)。そして、後ろ側が働けば、腕が後ろに上がっていきます(伸展)。
多方向に腕を上げるということで、非常に重要な機能を担っているわけですね。
肩の外側の感覚を支配
そして、肩の外側の皮膚感覚を支配していますので、腋窩神経がダメージを受けると、肩の外側にしびれがでたり、痛みが走ったりします。
四辺形間隙症候群(Quadrilateral space syndrome)
この腋窩神経に障害が起こる1つの有名な病態として、四辺形間隙症候群(Quadrilateral space syndrome)という診断名があります。
QLSと略されることもある、この症候群についても簡潔に解説します。
四辺形間隙というのは4つの辺に取り囲まれる間隙=スペースのことで、その4つの辺というのは、
- 上腕三頭筋(じょうわんさんとうきん)
- 上腕骨(じょうわんこつ)
- 大円筋(だいえんきん)
- 小円筋(しょうえんきん)
という筋肉と骨のことです。これらに囲まれたスペースを腋窩神経が走るわけですが、
これら筋肉が凝り固まってしまったり、筋肉が肥大しすぎたりなどの原因で腋窩神経を圧迫してしまうことを四辺形間隙症候群と呼んでいます。
注射が痛い場合のその理由
これらの神経ブロック注射が痛い原因としては針先が神経に触れている可能性が一番高いです。それによる神経損傷のリスクもゼロではないので出来る限り細い針を使い、さらに超音波で神経を確認しながら注射をすることもあります。
ただ、多くの場合は、神経そのものをガッツリ刺してしまう前に強い痛みが出現するので超音波までは用いずに慎重に注射をしています。
3.肩の精密検査のため
他には肩の精密検査や特殊な治療のための注射というものもあります。
肩関節造影検査
肩の関節の中にレントゲンやMRIで映る液体を注入することで関節の中の構造をより精密に描出する検査です。
造影剤という液体(生理食塩水や空気を注入することもあります)を関節の中に注射します。そうすることで関節の中が膨らみ、いたんでいる場所がより明瞭に画像(レントゲンやCT,MRI)に写るという仕組みです。
Joint Distension
四十肩、五十肩で関節がカタくなってしまった人に行われる特殊な治療です。
関節がかたくなってしまっている人は関節包という膜が分厚くなっていたり、滑液包という場所がもともとは関節と交通しているのに、癒着によってその交通が遮断されてしまって、関節の中の圧が高まっている状態などが考えられています。
それを開放するために
関節の中に大量の生理食塩水(造影剤も混ぜることが多いです)を注入して癒着などを剥がしてしまおうという処置です。具体的には注射後にさらに肩を動かすことで剥がしていきます。
4.筋肉注射や皮下注射
肩の治療でないことが多いですが、全身への注射として肩の皮下脂肪や筋肉(三角筋)に注射をすることがあります。
一般的には予防接種の注射が一番身近かもしれません。
注射が痛い場合のその理由
これら皮下注射や筋肉注射はそもそもある程度は痛いものですが、強い痛みや肩や腕のしびれ、動かしにくさが続く場合はもしかすると神経に影響が出ている可能性もあります。
ご心配であればまず注射を受けた病院でご相談してみてください。一般的には整形外科の診察を勧められると思います。
次に飲み薬についてです。
あえて、五十肩に市販薬は本当に効果があるのか?
ということについても掘り下げてみます。
よくありますよね「五十肩に効く薬」といううたい文句。
「これって五十肩だろうなぁ」
と思ったとき、こちらのホームページをご覧いただいている人は都合をつけて整形外科受診を検討されると思うのですが、人によっては
「五十肩くらいで会社を休めないな」となるかもしれません。
そこでちょっとドラッグストアに寄って、五十肩に効く!とされている薬を試そうと思うのは自然な流れです。
実際、病院での治療と市販薬を飲むのとではどう違うのでしょうか?
病院で出される五十肩に効く薬
まず大前提として、飲み薬は病院での治療の1つに過ぎません。病院ではまず痛みの原因に診察や画像検査で迫り、それに対して、飲み薬の他にも注射やリハビリ、時には手術などを行って治療していきます。
そういう意味で市販薬をとりあえず飲んでみる、というものとは全然違うというのは言うまでもないわけですが、
病院で五十肩に対して出される薬と市販薬は同じ飲み薬でも結構違います。
まず病院で出される薬は健康保険が利きます。
それは逆に言えば、国民の税金を使うわけですから、科学的に効果が実証されていることが条件ですし、また、その前に医師の診断があることが前提です。
消炎鎮痛剤 NSAIDs
まず炎症を抑え、痛みを減らす薬の代表格である非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)です。
ステロイドは炎症を強く抑える代わりに、様々な副作用のリスクがあり、使うには勇気がいる薬ですし、容量のコントロールも厳重です。
それに対して、効果は少し劣っても、副作用が少なく、市販薬にもなっているのがこのNSAIDsです。
ロキソニンやセレコックス、ボルタレンといった商品名ですね。
鎮痛剤 アセトアミノフェン
次に炎症を抑える効果はありませんが、痛みを減らす効果があり、さらに副作用がNSAIDsよりさらに少なく安全と考えられているのがアセトアミノフェンです。
カロナール、コカールという商品名が多いですね。
痛みを出している中枢にも効かす薬
うつ病やてんかんなど、脳などの中枢神経系に効く薬が、痛みのコントロールにも有用であることが近年わかってきており、関節痛に対してもこの中枢に作用する薬が続々と出てきています。
リリカ、トラムセット、トラマール、サインバルタなどの商品名です。
ただ、これらは慢性の痛みで特に変形性関節症のような、加齢性にある意味では根本治療が手術しかないような時に使う、奥の手のようなイメージですので、五十肩に使うことは少ないかもしれません。
市販されている五十肩に効く薬は?
これらの病院で保険が利く薬に対して、市販薬は保険は利きません。
それは費用面ではマイナスですが、気軽にドラッグストアで買えるというメリットはありますし、医師の処方が必要ないと言うことは用法用量を守れば安全性が高い薬であるとも言えます。
また、保険が利かない≒国民の税金による負担はない≒効くも効かぬも自己責任
のような発想をするとわかりやすいのですが、
五十肩の市販薬は飲んでみても「効いてんだか効いてないんだか、よくわからない」という感想を持つ人が多いです。
それは、効くかどうかわからないが、理屈の上では効果を出すだろうという栄養素が配合されたサプリメント的な意味合いも強いからなんですね。
リョウシンJV 富山常備薬グループ
例えば、富士常備薬グループさんのリョウシンJVですが、
ひざ・腰・肩などの関節痛、神経痛の緩和に飲んで効くおくすり
というキャッチフレーズで紹介されています。
主な配合成分を見ると、ビタミンが多いのがわかります。まさにサプリメント!って感じもしますよね。
リョウシンJVの主な配合成分
- ガンマリザノール:自律神経のバランスを整える働き
- トコフェロール(ビタミンE):強い抗酸化作用、抗炎症作用や血行促進の作用あり。
- ピリドキシン(ビタミンB6):タンパク質代謝の主役のビタミンです。筋肉に貯蔵されているグリコーゲンからのエネルギー生産にも関与している。
- シアノコバラミン(ビタミンB12) :細胞の分裂や分化に欠かせない遺伝子を構成する「核酸」の合成に関与。
シジラック錠 小林製薬
また、小林製薬さんから出ているシジラックは
痛くて腕が上がらない 四十肩、五十肩に
というコピーです。
シジラックの主な配合成分
- ペオニフロリン(シャクヤクに含まれる)筋弛緩作用
- エフェドリン(マオウ)身体を温める
というような漢方に含まれる成分が中心です。
市販薬はサプリメント的に使うのがいい?
リョウシンJV、シジラックと、よく広告でも見かける2つをご紹介いたしましたが、どちらもサプリメント的な要素が強いことがわかります。
直接炎症を抑えるというような効果がある成分はあまりみられないので、即効性はないと考えていいと思います。
そのため、とりあえず、ちょっと痛いかなってときに飲んでみて、やっぱり痛みが増してくる、良くならないというときには早めに整形外科を受診するのが基本だと思います。
ただ、飲んで悪いモノではなく、まったくの無意味というものでもないのかなと思いますので、これに頼り切ることさえなければ、使ってみてもいいかもしれません。
最後に、五十肩のなれの果て、「カタくなってしまった」状態である凍結肩について詳しく解説します。
凍結肩とは?
先ほども述べたとおり凍結肩とは、五十肩の結果として肩が凍ってしまったかのように動かせなくなる状態のことを言います。
肩が動かせなくなるというと、2つの状態があって
- 自分の力で動かせない
- 他人の力でも動かせない
前者の他人の力で動かしてもらえば、肩は動くということであれば、肩はカタくなっているのではなく、筋肉が働いていない状態ですので、神経の麻痺という重篤なモノか、筋肉の断裂(腱板断裂が多い)か、ということで凍結肩とは違います。
凍結肩の動かないは、自分でも他人でもカタくなって動かせないという状態です。
肩関節周囲炎から始まることがほとんど
この凍結肩も最初は、痛みが中心の五十肩(肩関節周囲炎)という状態から始まることがほとんどです。
前半で紹介したような様々なメカニズムで肩関節の周りに炎症が起こり、肩の痛みが出現する。これが凍結肩のスタートと言っていいかと思います。
身体は自らを守ろうと頑な(かたくな)になる性質がある
肩関節の周りに炎症が起こり、それが長引いてくると、肩をより守ろうと身体は反応していきます。
肩に限らず、自らを守ろうとした結果はカタくなるのが身体の反応です。例えば、同じ場所を何回も切ったり、擦り傷を負ったりすれば、そこの皮膚は硬くなっちゃいますよね。
肩の関節包がどんどん分厚く、カタくなる
肩の場合に硬くなるというのは、肩をとりまく関節包(かんせつほう)という膜です。この関節包がどんどん分厚くなって、硬く、伸びなくなってしまう結果、肩が凍ったかのように動かなくなっちゃうわけですね。
凍結肩の治療の基本は炎症を抑えながらのリハビリテーション
この凍結肩の治療ですが、痛みが強い場合は炎症を抑えることも大切です。それは消炎鎮痛剤という薬の飲み薬や外用剤(湿布、塗り薬)、時に注射などを行っていきます。これは、カタくなる前に特に重要ですが、カタくなった後も痛みが強ければ積極的に炎症を抑えていく必要があります。
そして、カタくなった肩を改善するにはリハビリテーションが基本中の基本です。地道に肩を動かしていくことで、分厚く、カタく、癒着した組織を緩めていく、剥がしていくという作業になります。
リハビリについては前半で解説いたしましたね。
凍結肩の手術は必要か?
凍結肩の治療の基本は炎症を抑えながらのリハビリテーションということになりますが、実際は手術を行うこともあります。
遅かれ早かれ、ある程度は肩の痛みが引いて、上がるし回るという状態になるのが五十肩から凍結肩になってしまった人です。それが何十年経っても痛いし、上がらない・・・というようなときは五十肩以外に凍結肩の原因があると考えるべきです。
それは腱板損傷なのかもしれないし、
[st-card id=46 label=”” name=”” bgcolor=”” color=”” readmore=”on”]肩周囲の外傷が原因なのかもしれません。
そういった何らかの原因があっての凍結肩であれば、その原因も含めて治療を考える必要があります。
ただ、五十肩からの凍結肩に対して、リハビリテーションを頑張っても、注射をしても、どうしても肩の可動域が上がらない、肩が挙げられない、肩を回せないという状態になってしまう人はいらっしゃいます。
それはおそらく一生ものではなくて、さらに数ヶ月、数年!?経てば、上がるようになるとは思われます。
しかし、凍結肩が改善するまでに時間がかかればかかるほど、最終的な症状(肩の痛み、可動域)が不十分で、何らかの痛みや可動域制限(肩の上がりが悪い、回りが悪い)が残る可能性が高くなってくるというデータの報告があります。
そして、そもそもあと何ヶ月待てば、へたしたら何年待てばいいのかわからない凍結肩に対して、漫然とリハビリテーションを続けることの是非自体が手術も検討する意味です。
つまり、凍結肩で手術するかどうか?
ということについては、
- どのくらい現在困っているか?
- どのくらい改善を急いでいるか?
- 凍結肩になってからどのくらい経っているか?
というのが考えるべき要素になります。
私の場合は、3-6ヶ月間、リハビリテーションをしても改善しない場合に手術もご提案しています。
注射して徒手授動術
ということで、手術のお話ですが、まずは「切らない」手術です。
切らない手術というものもあるんですね。保険診療上の定義ですが、関節脱臼を整復するのも整復術と言いますから、そういう意味での手「術」です。
徒手授動術(としゅじゅどうじゅつ)と言います。
これは言い方は悪いですが、術者(医師)がある程度、無理矢理肩を動かして、分厚くなってしまった関節包をベリベリっと剥がしていく手術です。
剥がすというと聞こえはいいですが、実際に肩の中で起こっているのは「ちぎる」に近いです。
実際は腕を持って動かしていくだけですから、リハビリに似ていますが、その強度が違います。
この一度の授動術で一気に動かせるようになるようにやるので、当然、激痛ですし、リスクも伴います。
そのため、まず痛みを抑えるために神経ブロック注射(神経ブロック下に授動術をするのをサイレントマニピュレーションと言います。)などを行ったり、また、肩関節内に多くの生理食塩水を注入した上で、肩を動かしていきます(Joint distensionと言います)。
この徒手授動術は無理矢理、肩を動かして関節包をちぎりますから、時に骨が弱い人の場合は骨折を起こしてしまうなんて恐ろしい合併症の報告もあります。
また、逆にそれが怖いので、どうしても授動術が不十分になってしまうということも起こりえます。
そのため、僕はあまりこの方法はやりません。
次に述べる関節鏡手術の方が、実は逆に肩にとってはやさしい、丁寧な方法と考えています。これは個人的な意見ですが。
手術 関節鏡下授動術
そして、それでもなかなか厳しいというときには手術も選択肢に入ります。
分厚く癒着してしまっている関節包を関節鏡手術で切開、剥がすという処置をした上で、肩をマニピュレーション(授動術)といって、ある程度、力を加えて動かしてあげると、肩が全然挙がらなかった状態からバンザイの状態まで、速やかにもっていくことができます。
電気メスで焼きながら切り開いているのが関節包ですが、かなり赤く充血しているように見えると思います。これが炎症した関節包の特徴です。この炎症部分もクリーニングできるというメリットもあります。
これは習熟した肩専門の医師が行えば30分もかからないで行える手術です。しかし、実際は神経(腋窩神経)が近くを走っており、さらに関節内のスペースが拘縮肩の人は狭いので、慣れない医師がやると神経障害のリスクやうまく手術が行えないリスクなども高くなるかと思います。
まとめ
このように肩関節周囲炎・五十肩(凍結肩)のリハビリの流れとしては炎症の強さ、肩の拘縮(カタくなってしまう状態)の強さによってやるべきことを変えて、常に適切なリハビリを選択していく必要があります。
病院でのリハビリを受ける場合は、主治医や理学療法士が適切に指示をしてくれると思いますが、通院の時間がとれずにセルフでリハビリをする場合は、このような基本的な考え方を押さえてやっていっていただくと効果的だと思います。
特に炎症期を越えた痛みが強くない五十肩は「痛いところまでのストレッチ」というのがポイントになるわけですね。さらに、最後には凍結肩の治療として関節鏡手術が行われていることもご紹介いたしました。
少しでも参考になりましたら幸いです。
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