今回は鎖骨遠位端骨折(さこつえんいたんこっせつ)の基本から治療・手術まで解説いたします。
鎖骨遠位端骨折というのは鎖骨骨折の中でも少し特殊でリハビリも含めて肩関節の一つとして骨折部位を捉えて、治療、手術、リハビリをしていく必要があります。
ご自身が鎖骨骨折をしてしまって、それが肩寄りの場所だとしたら、鎖骨遠位端骨折の可能性がありますので、正確な病名を聞いてみましょう。
こちらでは鎖骨遠位端骨折とは?というところから、特有のリハビリポイント(禁忌など)、さらには手術などの治療法、骨折の分類や全治期間まで解説していきます。
こんにちは、肩を専門とするスポーツ整形外科医の歌島です。
本日も記事をご覧いただきありがとうございます。
それではいきましょう!
鎖骨遠位端骨折とは?
まず鎖骨遠位端骨折とは?ということです。
ご自身の鎖骨は触ることができると思いますが、それを肩の方にたどっていくと、かなり外側まで鎖骨があることがわかります。
途中で肩甲骨の一部である肩峰(けんぽう)が触れますが、この肩峰と鎖骨の間を肩鎖関節といい、その周辺の鎖骨を鎖骨遠位端といいます。
遠位というのは身体の中枢から「遠い位置」という意味です。
鎖骨遠位端骨折のリハビリポイント
この鎖骨遠位端骨折のリハビリテーションにおけるポイントを解説いたしますが、その前に鎖骨遠位端骨折の特徴を挙げておきます。
- 鎖骨遠位端は平べったい骨で骨癒合(くっつき)に時間がかかる
- 鎖骨遠位端骨折でズレてしまうと整復位置の固定が外からでは難しい
鎖骨の骨幹部(真ん中より)の骨折だと、鎖骨バンド(クラビクルバンド)というものである程度、整復位置をキープでき、かつ、非常に骨癒合がいいのが骨幹部なんですが、鎖骨遠位端はそのどちらもデメリットになってしまっています。
鎖骨遠位端骨折が癒合する前の不安定期
鎖骨遠位端骨折がくっつく前、癒合する前の特にまだ不安定な時期は骨がしっかりくっつく環境を整えることと、ズレないようにすることが大切です。
そういう意味では骨折部がズレてしまいかねない動き、リハビリが禁忌になります。
そして、もしズレがある程度大きかったり、大きくなってきてしまえば手術を検討します。
最初は肩の90°以上の挙上が禁忌
まず鎖骨遠位端は肩に近い位置の骨折なので、肩甲骨の動きがダイレクトに伝わります。
そのため初期は肩を90°以上挙げるような動きは肩甲骨が大きく動き出しますので禁忌にすることが多いです。
肩甲骨の過剰な動きは危険
同様に肩甲骨をいろんな方向に動かすことは、他の場所の骨折であればむしろ積極的にやりたいことですが、鎖骨遠位端骨折の場合は、最初は控えるべきです。
腕の重みを減らす必要あり
鎖骨遠位端骨折は主に上下にズレます。それは鎖骨の中枢側は首からの筋肉である僧帽筋で上に引っ張られ、逆に片側の骨は肩甲骨から腕の重みで下がります。
ここで僧帽筋の作用はどうしようもないので、腕の重みで下がってしまうのを防ぐ必要があります。
それには三角巾や装具などでしっかりと腕、特に肘の部分を上に持ち上げた状態をキープすること。リハビリの時も重力がダイレクトにかからないように寝た状態やることなどが勧められます。
鎖骨骨折部が短縮しているときは鎖骨バンド(クラビクルバンド)が必須
鎖骨が前後にずれているだけとか、ほとんどずれていないときは腕の重みをサポートしてあげる、三角巾などが重要と言いましたが、
鎖骨が短縮しているときは鎖骨を引っ張らないといけません。
骨折の基本は「牽引」です。シンプルな原理です。まっすぐの棒が曲がったら、引っ張れば、まっすぐに近づく。
そういうことです。
しかし、鎖骨を直接持って、引っ張るのは、手術以外では難しいので、
もうちょっと構造的に引っ張ります。
それは肩甲骨を広げることになります。それはもっとわかりやすい表現だと、胸を張るということになります。
なぜなら、鎖骨というのは体の中心の前にある胸骨と肩甲骨をつなげている骨だからですね。
肩甲骨を外に後ろに位置させる=胸を張れば、結果的に鎖骨を引っ張ることになる、牽引することになる。
ということになりますね。
ということで、鎖骨の骨幹部骨折と同様に鎖骨バンド、クラビクルバンドが重要な骨折形態もあります。
最初は三角巾内振子運動がオススメ
そういう意味で最初に取り入れるべきリハビリは三角巾で腕の重みを十分にリセットした状態で、振り子運動をするというリハビリです。
三角巾内振り子運動といいます。
おさらいで動画をご紹介した振り子運動を三角巾でつったままやるということですね。
鎖骨遠位端骨折が癒合してきた安定期は積極的に動かす
そして、鎖骨遠位端骨折がくっついてきて、ズレるリスクが減ったと判断すれば、積極的に動かします。
肩の周囲の骨折は肩関節がカタくなりやすい関節であるため、リハビリを積極的にやる必要があります。それは鎖骨遠位端骨折でも例外ではありません。
肩関節のリハビリについてはこちらの記事もご参照ください。
[st-card id=147 label=”” name=”” bgcolor=”” color=”” readmore=”on”]鎖骨遠位端骨折はレントゲンで癒合が確認できるまでは時間がかかる
そうは言っても、鎖骨遠位端骨折は骨のくっつき(骨癒合)に時間がかかると述べましたとおり、レントゲンで骨がくっついてきたなという所見が見えるのが遅いです。
ですから、それを待ってリハビリを開始するとなると、肩がカタくなってしまうリスクが高いです。
そういう意味では骨折部位の痛み、圧痛(押しての痛み)、動かしての痛みというようなものも総合的に判断して、リハビリの開始を決めていくことになります。
よくよく主治医と相談してリハビリをしていきましょう。
鎖骨遠位端骨折の治療は手術した方がいい?
リハビリも大事ですが、
そもそも手術をするのか?保存治療(手術以外で骨がくっつくのを待つ治療)をするのか?
という選択もとても大切なポイントです。
その選択において基本となる考え方をお伝えします。
鎖骨遠位端骨折は肩鎖関節脱臼に似ている
鎖骨遠位端骨折は鎖骨の肩よりの骨折と言いました。
厳密に言うと、肩鎖関節に近い部分の骨折です。
場所的にもそうですが、病態的にも治療の考え方的にも肩鎖関節脱臼に似ているポイントがあります。
それは烏口鎖骨靭帯という靭帯がキーポイントだと言うことです。
烏口鎖骨靱帯の役割
通常、鎖骨遠位端骨折が大きく転位しないのは、肩甲骨と鎖骨を繋いでいる靱帯が支えているからなんです。
しかし、鎖骨遠位端骨折がズレている時はこの靱帯が切れてしまっています。
特にその中でも重要な靱帯が
烏口鎖骨靱帯(うこうさこつじんたい)
という靱帯です。肩甲骨の烏口突起(うこうとっき)という部分と、鎖骨の遠位部部分を繋いでいる靱帯です。
これが完全に切れてしまうと、鎖骨と肩甲骨の烏口突起は離れて骨折部分で大きく転位してしまいます。
これは肩鎖関節脱臼でも大事なポイントです。
この烏口鎖骨靱帯が完全に切れていると、肩鎖関節脱臼の場合は完全脱臼になってしまいます。
手術法1:烏口鎖骨靱帯を最小侵襲で修復する
このように烏口鎖骨靱帯が切れているような鎖骨遠位端骨折では骨折部が不安定です。ですから、骨がくっつかなかったり、くっつくまでに時間がかかってしまうということが起こります。
そこで、一般的にも手術するしないの1つの判断基準として、
この靭帯が損傷しているかいないか?
ということを気にします。
損傷していると判断すれば、私の場合は、↓このように烏口鎖骨靱帯に沿って強固な糸(レントゲン上は写りません)を通して上下を金属ボタン(レントゲンで白く写っていますね)で固定してしっかり締結するという最小限の手術(関節鏡を使っています)で骨折部分の安定化を狙った治療を行っています。
手術法2:靭帯というより骨をくっつけることを重視した金属固定法
烏口鎖骨靱帯は完全には損傷していなさそうだけど、鎖骨遠位端骨折が縦にわれていて、上下にズレが大きい場合にはよく行われる治療法です。(私の場合はできるだけ最小の侵襲でやりたいので、あまり多くないです。)
これは骨折部のズレを小さくして骨と骨をしっかりと固定できればいいので、
金属プレート(穴が空いた板を骨に沿わせてスクリューを入れる)、
特に鎖骨遠位端骨折用に開発されたプレートを使うか、
柔らかめの針金を鎖骨を取り巻くように巻いて締め上げる固定(こっちの方がシンプルで侵襲は少ないですが、厳密な整復固定は難しいです。)を行います。
個人的な意見:フックプレートはあまりオススメしない
個人的な意見と前置きをしたいのですが、
この鎖骨遠位端骨折の手術としてよく使われる、フックプレートというものがあります。
さきほどの画像もフックプレートです。
このフックプレートは仕組みは
肩甲骨のそれも肩峰の下にフック状にプレートが引っかかるようになっていて、
その引っ掛かりによって、プレートが上に持ち上がらなくなっている。
プレートを強く固定できる、鎖骨骨折の大きい方の骨片(胸骨側の大きな骨片)は
常に僧帽筋の張力によって上に引っ張られますので、このフックによる制動は大きな意味があるわけです。
このフックがないプレートだと、
小さい方の骨片(肩鎖関節側の小さな骨片)に入れたスクリューでしっかり固定できなかったら、
結局、プレートが浮いてきてしまって、骨折がずれてしまいます。
ということで、よく使われるフックプレートなんですが、デメリットもあります。
それは、まさにフックが原因となるデメリットです。
1つ目は肩峰の骨融解です。肩峰が削れてきたり、弱くなって溶けるような変化を起こしてしまうんですね。
フックが常に肩峰の下から肩峰を押し上げるような力を加えるので、致し方ない変化かもしれません。
そして、それを防ごうと、骨がくっついてフックプレートを抜去するまでは
肩を90度以上は挙上しないという制限をすることが常套手段です。
これって、かなり大きなデメリットです。たいてい、骨がくっつくまで2−3ヶ月はかかりますので、
2−3ヶ月、90度以上上げてはいけないということになります。
結果として、プレートを抜いたあとも肩がかたくて上がらないということもあれば、
上がるようになるまでのリハビリがさらに追加で必要になることがあります。
最近では、そういった90度制限をしても結局、骨融解は起こるので、
制限なしに動かすという方針にする先生もいます。
骨融解というと、すごく一大事に思えますが、
それを放置して、ずーっとプレートを入れていたら、いずれ、
骨を突き破ってしまうかもしれませんが、
基本的には、「抜去したあと、骨融解した肩峰が常に痛い」ということはほとんどないので、
それが許容されているというのが現状です。
しかし、もう一つデメリットがあります。
腱板損傷です。
肩峰の下には腱板という肩にとって大切なインナーマッスルが走行しています。
そして、肩を挙上するなどの肩の動作において、
フックプレートと腱板がこすれるような状態になります。
結果として、ある報告によっては腱板の部分損傷が17%に起こっていたというくらいに、
(整形外科 Surgical Technique vol.7 no.4 2017)
意外と起こってしまっているわけですね。
これらのデメリットを考えても、
さらに、フックプレートを使ったら、鎖骨遠位端骨折は必ずと言っていいほどくっつく!
というほどの効果があるわけでもない(実際、偽関節になってしまう症例はときどき目にします)ので、
あまり使いたくなるケースがないというのが私の実感です。
鎖骨遠位端骨折の分類を理解して重症度を把握する
こういった手術が必要な鎖骨遠位端骨折と、手術はせずに保存治療ができる鎖骨遠位端骨折を判定する上でも、また、次に述べる完治までの期間を予測する上でも重症度がどのくらいの骨折なのか?を知ることは大切です。
その重症度を判断するのに有用なのが骨折の分類です。
鎖骨遠位端骨折の場合はCraig分類という分類をよく使います。
この分類で特に重症で手術も考えたいのはType 1,3 以外ということになります。
ここまで述べたような烏口肩峰靱帯の損傷があるケースや烏口肩峰靱帯より鎖骨の真ん中(骨幹部)に近いケースでは骨折はズレてしまうので手術が必要になってくるケースが多いです。
鎖骨遠位端骨折の全治期間の目安
この鎖骨遠位端骨折の全治、完治までの期間ですが、当然、個人差が多々あります。
そういう意味では目安になりますが、重症度や治療法によって全治期間というのが予想できます。
- 鎖骨遠位端は平べったい骨で骨癒合(くっつき)に時間がかかる
ということを解説しましたが、この骨癒合までの期間はどんな治療でも大きな違いはありません。
そういう意味では骨癒合にかかる期間は多くは2-3ヶ月くらいじゃないかと思います。
他の部位の骨折は1.5ヶ月くらいが多いので、時間がかかりますよね。
ただ、骨癒合が得られても、肩関節の動き(可動域や筋力)の回復をもって完治となるはずですから、そういう意味では重症度や治療法によってその全治期間は変わります。
手術をするほどの重症な骨折は骨折部以外にもダメージが及んでいますので、リハビリテーションにも時間がかかることもあります。しかし、手術をすることで早めに肩を動かすことができますので、完治期間を短縮することも期待できます。
ですので、手術をする、しない・・・ということについて言えば、全治期間に関わる要素は一長一短であると言えます。
そのため、結局、骨癒合までの2-3ヶ月というのが一般的な全治期間としてザックリの目安をお伝えするしかないということが多いのが現状です。
ただ、例えば、手術で肩鎖関節を固定するような(フックプレートによる手術など)手術をした場合はそのプレートを抜去後にさらに肩を動かすリハビリテーションが必要なので、自ずと3ヶ月以上のリハビリテーション期間が必要で一般に完治まで4ヶ月くらいはみたほうがいいと言えます。
そういうこともあって、僕の場合はプレートによる治療よりも靭帯の治療を優先して行っていますが、それも重症度や骨折のタイプによって変わります。
よく主治医とも相談して決めていただければと思います。
まとめ
今回は鎖骨遠位端骨折のリハビリテーションのポイントを中心に、基本から治療法(手術法)についてまでを解説いたしました。
少しでも参考になりましたら幸いです。
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