肩の腱板損傷のリハビリテーション決定版をわかりやすく

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今回は肩の腱板損傷のリハビリテーションについて解説します。肩を専門とした外来をしていると、当然なんですが、肩腱板損傷の患者さんを多く診察します。

腱板損傷には程度があって、ちょっと傷んでいるかなという軽度のものから、部分断裂、完全断裂、大断裂、広範囲断裂、断裂の結果、軟骨がすり減ってしまった状態(腱板断裂性関節症)まで、様々です。

腱板は筋肉の先端のスジ(腱)です。そして、筋肉は自ら伸びることはなく、縮むことしかできません。すなわち、時間とともに縮んでいきます。特に断裂した筋肉は。

とすると、腱板断裂という、いわば腱板にあいた穴は徐々に広がってしまう(重症化してしまう)ことが多いというのは事実です。

そのため、活動性、年齢、重症度、症状を総合的に判断して、手術を推奨することも多いわけですが、しかし、当然、誰もが手術はできれば避けたいと思っておられます。

Shoulder arthroscopy

そんな中で手術をしないと決断された人から、よく質問されるのがリハビリテーションについてです。少なくとも断裂してしまった腱板をくっつけるようなリハビリテーションは理屈で考えてもありえませんので、どういう目的でどのように行えばいいのか、いまだ結論は出ていません。

しかし、「断裂はリハビリではくっつかないので、諦めてください・・・」というのではなく、

リハビリの意味と限界を理解して、 手術以外でできることをやりたい

というお気持ちに応えるような記事を目指して書いております。

腱板部分断裂で悩ましいリハビリ

冒頭でもお話ししたとおり、腱板損傷、腱板断裂には程度があります。重症度ですね。

腱板というのは肩を安定化させてくれるインナーマッスル4種類が上腕骨という腕の骨にくっつくときにスジ張って集まる部分のことを言っています。

要は肩を安定化させる筋肉のスジの集まりということです。

この腱板が損傷してしまうと言うのは、主に腱板が骨から剥がれて、穴が空いていくことを言います。

靴下に喩える先生もおられます。

靴下は長く履いていると、線維がボロボロになってきて、脆くなって、穴が空いてしまいますよね。その穴は自然と塞がることはなく、だんだん拡大していき、最終的には靴下としての機能を果たせなくなるということが、

まさに腱板でも起こります。

靴下は新調すればいいわけですが、腱板はそうはいきません。

そんな腱板損傷の中でも軽症の部類に入るのは腱板部分断裂です。腱板の表側だけが骨から剥がれてしまう、腱板の裏側だけが剥がれてしまう、腱板の表裏の間だけに穴が空いてしまう。 それぞれ、滑液包面断裂、関節包面断裂、腱内断裂と名前がついていますが、これらがすべて合わさって、完全断裂に重症化していきます。

腱板が靴下と違うのは新調できないというのもそうですが、もう一つは再生能力があるということです。 多くの腱板断裂は骨から剥がれてしまいますし、靴下と違って、腱板は筋肉ですから縮んでいくため、その再生能力を持ってしても、自然修復することよりもはるかに、重症化していってしまう(靴下の穴が拡大するように)ことが多いのが現状です。

しかし、部分断裂の場合はその中では比較的、自然修復する可能性が高めと考えられています。当然ですよね、まだ穴が小さいわけですから。

 

そのため、部分断裂の患者さんでご希望される場合は、手術をせずに自然修復されるかどうか、経過観察することがあります。だいたい半年から1年くらいで再検査して判断しています。

この間にリハビリテーションを積極的にするか、安静であまり使わない方向性でいくか、というのは意見が分かれます。

なぜなら、リハビリは筋肉の使い方をよくする、肩にとって「いい」動きを覚える、筋力を強くする、可動域を拡げる(柔らかくする)という目的、意義がありますが、腱板断裂部をくっつける方向に力を加えたりするようなことはできません。

あくまで自己治癒力の中で、くっついてくれるかどうか?ということにかかっているわけですから、余計なリハビリをせずに安静にしておくという考え方をする人がいてもおかしくありません。

腱板完全断裂だったら安静にする意味は!?

では、腱板の完全断裂で比較的大きめの穴が空いている場合はどうでしょう?

安静にする意味はどれだけあるか?ということです。 大きめの腱板断裂が自然修復される可能性はほとんどありません。僕の経験上は穴が小さくても完全断裂に至った患者さんで自然修復された患者さんはほとんど記憶にありません。部分断裂の場合は時々いらっしゃいますが。

とすれば、完全断裂の場合に安静にしても、では、いつまで安静にするんだ!?ということになります。自然修復が期待できないなら安静にする意味はあまりなさそうですよね。

安静にすると言って、肩周りの筋肉が萎縮していったり、肩が拘縮(カタくなる)してしまったりすると、余計に症状が強まってしまいますし、私の場合は腱板損傷で手術をされない場合は

「あまり負担をかけすぎてはいけませんが、日常生活で必要な分、肩はしっかり使ってあげてください」と言っています。

そういった方向性の中ではリハビリテーションはプラスに働く部分もありうると考えています。

リハビリで筋肉を鍛えると腱板断裂は拡大する!?

そんな腱板損傷、腱板断裂がある中でのリハビリを考える上で、まず、リハビリをやることで腱板断裂が余計に悪くなる、重症化するということを避けたいと思うのは当然です。

しかし、リハビリテーションは肩を積極的に動かし、筋肉を使う活動である以上、筋肉の損傷である腱板断裂が重症化するリスクはないとは言えません。

腱板断裂が拡大する肩とは?

まず腱板断裂が拡大してしまう、重症化してしまうメカニズムを考えてみたいと思います。

外傷、急な力が加わった肩

まず典型的に、急激に腱板断裂が拡大してしまうのは、

  • 転倒してしまった
  • 肩を捻ってしまった
  • 転びそうになって何かを掴んだ瞬間
  • 重いものを上に持ち上げた瞬間

などなど、外傷や肩に急な力が加わったときです。

そりゃそうですよね。

アウターマッスルに振り回される肩

次に、アウターマッスルとの関係がポイントです。

腱板はアウター、インナーで言えば、インナーマッスルに分類されます。 それは役割で言えば、

  • アウターマッスル:強い力を生み出す
  • インナーマッスル:関節を安定化させる

という分担があり、

このバランスが取れていることが大事なんですが、

腱板断裂があるときは当然インナーマッスルが弱くなっていますので、バランスが崩れています。

この場合に肩を動かすと、肩の関節の安定性が落ちて、アウターマッスルの強い力に振り回されてしまっている状態になっていると言えます。

損傷があり、筋力も落ちているインナーマッスルが、それでも容赦なく肩を動かしてくるアウターマッスルのぶん回し行為に対して、頑張って耐えているとイメージしてください。

そりゃ、腱板断裂も拡大しますよね。

肩甲骨がサボった肩

肩を動かすというときに、どこが動いているかと言えば、

肩甲骨と上腕骨からなる肩関節だと考えると思います。

もちろん、それで正解なんですが、同時に根本にある肩甲骨もかなり動いているということがわかっています。 そこで肩甲骨は動かなかったとしたら、肩関節が過剰に動かないといけなくなって、それだけで無理がかかりますし、また、腱板損傷の1つの原因であるインピンジメントという現象が起こりやすくなってしまいます。

画像引用元:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器 第一版 医学書院

インピンジメントはいくつか種類がありますが、特に肩峰下インピンジメントというのは肩甲骨の屋根にあたる肩峰という部分と腱板が擦れるようになる現象で、肩甲骨がうまく動いて肩峰に擦れないように肩を動かせればいいのですが、そうでないとインピンジメントを繰り返し、腱板断裂が拡大する結果になり得ます。

そして、腱板というのは肩甲骨と上腕骨をつなぐ筋肉なので、その土台である肩甲骨の動きが悪いのはもちろん、周囲の筋肉が弱くて安定しなければ、腱板の負担が強まるということも腱板断裂拡大の一要素だと思います。

腱板断裂進行を遅らせ、症状改善するリハビリ

腱板断裂を拡大してしまう状態として外傷などは、なかなかリハビリで防ぐのは難しいとしても、アウターマッスルとのバランスの悪さや肩甲骨の動きの悪さ、安定性の低さはリハビリテーションで改善できますよね。

ですから、腱板断裂進行を遅らせて、症状を改善するためのリハビリテーションのコンセプトとしては

断裂腱板に過剰な負荷をかけないようにしつつも、腱板の筋肉を上手に使えるように(アウターマッスルとインナーマッスルのバランス是正)して、かつ、肩甲骨の動きと安定性を改善すること

になります。

肩甲骨周囲筋のトレーニング

では、まずは肩甲骨の動きをよくして、安定性を高めるトレーニングです。 要は肩甲骨と背骨(胸椎や頚椎)や肋骨を繋ぐ、いわゆる肩甲骨周囲筋を鍛えてきましょうということになります。

肩甲骨回し

肩関節を動かさずに肩甲骨だけを大きく回すエクササイズです。肩関節を動かさないので低負荷で肩甲骨周囲筋を働かせるのにいいエクササイズです。肩関節が痛くてもできることが多いので、まずはこれからやるのがいいでしょう。

このエクササイズは何ら難しくない、ただ肩甲骨を下から前、前から上、上から後、後から下と、全力で大きな円を肩甲骨で動くだけでいいので、やってみてください。

肩甲骨の動きを日常生活で意識することがないので、慣れるまでは違和感があるかもしれませんが、もし可能なら、1人で上半身を露出して、鏡の前で肩甲骨がこんなにも動くんだということを実感しながら、もっと動かしてみよう、もっと・・・という感じでやってみてください。

ポールを使用した内外転エクササイズ

ポールの上に仰向けになると、両肩甲骨が浮く状態になりますので、そこから、肩甲骨を引き寄せていったり、逆に上に(前方に)持ち上げていったりという動きをゆっくり10秒くらいずつ時間をかけて動かしていくトレーニングです。

肩甲骨を大きく、ゆっくり動かすイメージでやりましょう。

腱板の負荷を減らした腱板筋トレーニング

腱板の負荷を減らした状態での腱板筋のトレーニングです。 トレーニングは、すなわち腱板に負荷をかけるものですから、矛盾しているような表現ですし、実際、それが少し難しくしています。

しかし、腱板断裂部の負荷を減らしながら、鍛える工夫はいくつかあります。

断裂していない腱板を中心に鍛える

例えば、棘上筋腱だけが部分損傷している場合などであれば、棘上筋のメインの働きである、肩の外転(上げる動作)ではなく、外旋(棘下筋、小円筋)や内旋(肩甲下筋)という旋回動作を中心に腱板を鍛えるという方法です。

つまり、損傷している腱板筋のトレーニングは最小限にして、それ以外の筋肉を鍛えていくということです。

結局、腱板というのは集合して、繋がるので、一部を鍛えても、全体に効果が及ぶという性質があります。 しかし、同時に他の腱板筋が働いても、全体の腱板に負荷がかかるとも言えますから、絶対に安全というわけではありません。痛みがあるようならやめておきましょう。(これはすべてのリハビリに言えることです)

ここで各腱板筋の代表的な動きを整理しておきます。

  • 肩甲下筋:内旋運動
  • 棘上筋:外転・挙上運動
  • 棘下筋・小円筋:外旋運動

となります。

腱板が引っ張られない状態で鍛える

腱板断裂拡大のリスクが高まる、一番の腱板筋の動き方は

遠心性収縮(えんしんせいしゅうしゅく)になります。

これはどんな筋肉でもそうで、 引っ張られながらも筋肉自体に力が入る状態。要は、踏ん張るような状態です。

アキレス腱の筋肉である腓腹筋、ヒラメ筋だったら、通常はつま先立ち、つまり足首の底屈運動で働くわけですが、アキレス腱断裂が起こるのは、ほとんどは、足首が底屈の逆、背屈されながら、踏ん張ったようなときや、つま先で蹴ろうとしたときになります。

また、アウターマッスルに振り回されている腱板筋も踏ん張ってくれているので、主に遠心性収縮になっていると考えられます。

つまり、この遠心性収縮 ≒ 筋肉が伸ばされながら収縮する 状態を避けてトレーニングすればいいわけですね。

そのために例えば、この動画の2番、3番のようなisometricトレーニングというものがあります。

これは日本語では等尺性収縮のトレーニングということになります。要は関節を動かさないで抵抗する力と同じ力でトレーニングするということです。

これは遠心性収縮にならないので、安全性は高まります。

 

さらに、全体的には腱板は腕を下ろした状態(下垂状態)でストレッチされるような筋肉の走行をしているので、通常の腱板筋トレーニングとして紹介される、以下のようなトレーニングはやりかたにもよりますが、ストレッチされながらのトレーニングとして、いささか不安が残ります。

https://youtu.be/utbLSjMDqmw

https://youtu.be/DLhXKly2IZk

https://youtu.be/7OgblVRTmCE

ですから、工夫が必要なのですが、次にお示しする動画のように曲げた膝の上に肘を乗せると、肩は軽度の外転位(下垂ではなく少し上がった状態)になります。

この状態で肩の外旋や内旋運動に抵抗を加えて(先ほどの動画のようにチューブなどで)いくことで、安全性が上がります。さらに遠心性収縮を避けるために、チューブを引っ張った状態から戻すときは逆の手でサポートしてあげると、さらに安全性が上がります。

ただし、間違っても、お示しした↓この動画のように、かなりの重りを使って、強烈な力を加えるトレーニングはやめましょう。これではアウターマッスルがどんどん参加してきて、結局、腱板筋群は振り回されることになってしまいます。 動きだけ参考にしてください。

肩の拘縮がある場合

最後に肩関節がカタくなってしまっている、拘縮している場合のリハビリテーションですが、これについては、ここまで解説したことに加えて、シンプルに柔らかくする、可動域を拡げるリハビリテーションも必要になります。

こちらの記事をご参照ください。

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まとめ

今回は腱板損傷の、それも保存療法という手術をしなかった場合のリハビリテーションについて解説いたしました。 なかなか悩ましい問題があること。 しかし、しっかり意味と限界を理解していただくことで、腱板断裂の重症化させないように症状を改善させる可能性を高めることができると思います。

参考になれば幸いです。

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