肩のインピンジメント症候群の症状と治療を解説

  1. 肩の痛み
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今回は肩関節の痛みの1つの原因である
インピンジメント症候群について
解説いたします。

肩の腱板損傷との関連もあるのが
インピンジメント症候群です。

そこらへんも含めて
できるだけていねいに解説いたします。

 

こんにちは、肩を専門とするスポーツ整形外科医の歌島です。
本日は記事をごらんいただきありがとうございます。

それではいきましょう!

インピンジメントとは?

まずインピンジメントとは?
ということから入ります。

 

インピンジ【Impinge】

  1. 〔…に〕突き当たる,衝突する 〔on,upon,against〕.
  2. 〔人の権利・財産などを〕犯す,破る,侵害する 〔on,upon〕.
  3. 〔…に〕影響を及ぼす 〔on,upon〕.

ということで、
ある部位とある部位が衝突することを
言うわけですが、

そういう意味では
インピンジメント症候群と言っても、

肩だけに限りません。

 

もっと言うと、
肩だけでもいくつかあります。

  • 肩峰下インピンジメント症候群
  • 烏口下インピンジメント症候群
  • インターナルインピンジメント症候群

というようなものがあります。

ここでは、最も多い
肩峰下インピンジメント症候群について
解説いたします。

肩峰と肩腱板との関係について

そのためには
ご理解いただきたいキーワードが
4つあります。
それは、

  1. 肩峰(けんぽう)
  2. 烏口肩峰靱帯(うこうけんぽうじんたい)
  3. 肩腱板(かたけんばん)
  4. 上腕骨大結節(じょうわんこつだいけっせつ)

この4つです。

肩峰(けんぽう)

肩峰は肩の峰(みね)と書くように、

外から見ても、出っ張った、
いわゆる肩らしい部位です。

画像引用元:肩関節外科の要点と盲点 (整形外科Knack & Pitfalls)第1版 文光堂

画像引用元:肩関節外科の要点と盲点 (整形外科Knack & Pitfalls)第1版 文光堂

肩甲骨の一番外側に出っ張った部位のことで、
ここには

アウターマッスルの三角筋がついており、

さらに前には
次に述べる烏口肩峰靱帯がついています。

また、この肩峰のすぐ下にあるスペースを
肩峰下滑液包(けんぽうかかつえきほう)

と呼び、

ここに炎症が起こって痛みが起こるのが、
インピンジメント症候群の主病態です。

画像引用元:肩関節外科の要点と盲点 (整形外科Knack & Pitfalls)第1版 文光堂

肩を横から見た図 画像引用元:肩関節外科の要点と盲点 (整形外科Knack & Pitfalls)第1版 文光堂

烏口肩峰靱帯(うこうけんぽうじんたい)

烏口肩峰靱帯は、
さきほどの肩峰から
さらに内側前方にある烏口突起にむかって走る
靱帯のことです。

この靱帯の特徴は、

肩峰と烏口突起という、
どちらも肩甲骨という同じ骨の一部を
つないでいるという希有な靱帯です。

 

通常、靱帯というのは、
別の2つの骨を繋ぎます。

それゆえ、この2つの骨の位置関係が、
脱臼しそうになったときに
支えてくれるわけです。

 

しかし、同じ骨を繋ぐこの靱帯の
役割はなんなのでしょうか?

それはいくつか説がありますが、
一番は、

上腕骨が上に上がらないように
抑えているということです。

しかし、その役割を最も果たしているのが、

次に話す肩腱板であり、

むしろ、肩峰下インピンジメントの主因の1つ
と考えられています。

肩腱板(かたけんばん)

肩腱板は腱板損傷の記事をたくさん書いておりますので、
ご参照いただきたいのですが、

肩を安定的に動かすために
大切な役割を担っている
肩のインナーマッスルの腱になります。

位置関係としては、

肩峰や烏口肩峰靱帯の下にある、
肩峰下滑液包の
さらに下にあります。

上腕骨大結節(じょうわんこつだいけっせつ)

上腕骨大結節は、
上腕骨の一番外側、上側の出っ張りで、

さきほどの肩腱板が付着する部位です。

肩峰下インピンジメントとは?どんな症状?

では、これらを理解いただいた上で、

肩峰下インピンジメントを解説いたします。

それは、肩峰、
もしくは、烏口肩峰靱帯と、
その下に位置する、
肩腱板、もしくは大結節が
衝突するような現象です。

 

肩を挙上、外転(外から上げる)
ような動きの時に
起こります。

実際には衝突と言うより、
こすれるという感じです。

この繰り返しによって、
炎症が起こり、
肩の痛みに発展する。

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

この状態から肩を上げていくと、大結節、腱板が肩峰の下に潜り込む。そのときに、インピンジが起こります。 画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

そうなると肩峰下インピンジメント症候群となります。

 

インピンジメントテストの
Hawkinsテストはというものがありますが、

これは肩峰下インピンジメントを意図的に起こして、
痛みがでるかどうか判別するテストと言えます。

 

具体的にはこのイラストの右肩のような肢位で痛みが出る状態です。
要は肩を前方に挙上して、腕を内向きに捻る(内旋)という動作ですね。

これが典型的な症状です。

 

そして、この炎症を放置、
もしくはインピンジメントを繰り返していると、

肩腱板損傷に繋がると考えられています。

それはそうですよね。
物理的にこすられ続ければ、
いずれ切れてしまう・・・

当然の理屈です。

 

さて、この肩峰下インピンジメントで最悪、腱板損傷に繋がると述べましたが、
その前に必ず痛みなどの症状の原因となっているのが、
肩峰下滑液包炎(けんぽうかかつえきほうえん)という状態です。

肩峰(けんぽう)という部位

肩峰(けんぽう)という骨の一部分について、
あらためて、もう少し掘り下げます。

肩峰(けんぽう)とは?

肩峰=肩の峰・・・

峰というのは、こういう部分ですね。

要は山の高くなっているところです。

 

ということは、肩峰は肩の高くなっているところということですね。

 

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

実際はこのイラストのように、肩の外側、上に出っ張った骨の部分のことで、
肩甲骨の一部になります。

この肩峰が外側に高く飛び出しているのには主に2つの意味があります。

三角筋の付着部という役割

1つめは三角筋(さんかくきん)という肩を動かすメインの筋肉が
この肩峰にほとんどくっついているということです。

つまり、三角筋の付着部としての役割が大きな1つです。

画像引用元:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器 第一版 医学書院

三角筋というのは腕を前方から、外側から、内側から、後から、
最終的には上げる(挙上)筋肉です。

この三角筋の力学的な高率を高めるためには、
付着部が外側に出っ張っていることが必要だったんですね。

肩峰の下=肩峰下腔(けんぽうかくう)には腱板がいる

繰り返しになりますが、もう一つの肩峰の役割は、
腱板(棘上筋、棘下筋)の傘になっているということです。

肩峰という出っ張った骨の下には肩峰下腔(けんぽうかくう)があります。
その名の通り、肩峰の下の腔(スペース)ということですが、

ここに肩峰下滑液包いう、今回のテーマである部分があり、
そのすぐ下に腱板(棘上筋、棘下筋)があるという構造です。

 

滑液包とは?

次に滑液包(かつえきほう)というものについてですが、この言葉はさらに2つにわけます。

滑液と包の2つですが、

まず滑液・・・これは、「滑らせる液体」のことだと思ってください。骨が出っ張っているようなところは、その上に筋肉や脂肪などの軟部組織があっても摩擦が起こってしまいます。

その結果、炎症が起こり痛みが出て、しまいには切れてしまう。なんてことにならないように滑らせる液体を身体は生み出せるようになっています。

そして、その液体を「包む」場所が滑液包だと言うことです。

骨の出っ張りなどにある、摩擦や衝突を和らげるクッションだと思っていただくといいと思います。

肩峰下滑液包とは?

肩峰と滑液包をご説明いたしましたが、それを合わせれば肩峰下滑液包がわかります。

肩峰の下にあるスペース、ここは、腱板という大事な筋肉が走っていると言いました。つまり、この腱板という筋肉と肩峰の摩擦や衝突を和らげるクッションが肩峰下滑液包であると言えます。

画像引用元:肩関節外科の要点と盲点 (整形外科Knack & Pitfalls)第1版 文光堂

滑液包に負担がかかると炎症が起こり、症状に繋がる

ただ、そんなクッションも、負担がかかりすぎれば炎症が起こります。この炎症自体が身体の防御反応です。

このクッションがなければダイレクトに大事な腱板筋群に炎症が起こり、容易に切れてしまうかもしれません。

具体的には滑膜が増えて水が溜まる

そうならないようにこのクッションが防御しつつ、負荷が強いとなれば、クッションが肥大します。それは滑液という液体が増えたり、滑膜という膜が分厚くなったりすることを表しています。

滑液包に負担がかかる原因:インピンジメント

滑液包に負担がかかる原因の多くは、インピンジメント症候群という状態です。こちらで詳しく解説しておりますが、

肩峰や、そこに付着している烏口肩峰靱帯(うこうけんぽうじんたい)という靱帯と腱板筋群が肩を挙げたり回したりする動きの中で摩擦や衝突が起こることです。

この中で間にあるクッションである滑液包が板挟みのような状態になるわけですね。

肩峰下インピンジメント症候群の治療

肩峰下インピンジメント症候群の場合の対処法は、まずは腱板(インナーマッスル)をより働かせて肩を動かせるように、

インナーマッスルのトレーニングが基本です。

このトレーニングでインナーマッスルが使えるようになると肩を動かす時に肩の回りがよくなって、安定的に動くので摩擦が起こりにくくなります。

インナーマッスルの基本チューブトレーニング

インナーマッスルというのは、
大きな力を発揮するモノではないので、
強い負荷をかけても効率が下がるばかりで、
トレーニングになりません。

そのため、弱めの負荷でトレーニングします。

イメージとしては、
弱めの負荷でも肩を安定的にゆっくり動かす。
もしくは、リズミカルに動かすことで、

肩の動作中に
よりインナーマッスルを使う

ということを脳に覚え込ませる。
そんなイメージです。

また、肩は消耗品と呼ばれる中で、
このインナーマッスルトレーニングを
「貯筋」トレーニングと呼ぶ人もいます。

では、このインナーマッスルトレーニングの
基本3つを紹介いたします。
動画をそれぞれご参照ください。

棘上筋を鍛えるトレーニング

これは棘上筋という筋肉のトレーニングで、
トレーニング中に肩甲骨の上の方
熱い感じになれば効いている証拠です。

https://youtu.be/DLhXKly2IZk

棘下筋を鍛えるトレーニング

これは棘下筋という筋肉のトレーニングで、
トレーニング中に肩甲骨の真ん中あたり
熱い感じになれば効いている証拠です。

https://youtu.be/7OgblVRTmCE

肩甲下筋を鍛えるトレーニング

これは肩甲下筋という筋肉のトレーニングで、
トレーニング中に胸筋の奥の方
熱い感じになれば効いている証拠です。

https://youtu.be/utbLSjMDqmw

 

さらに、肩峰下のスペースにステロイドやヒアルロン酸の注射を打って炎症を抑えること

内視鏡を使った手術として、肩峰の下や靭帯を削る、いわゆるクリーニング手術も有効です。

arthroscope surgery

肩のインピンジメント症候群の手術治療

【関節鏡下肩峰下除圧術】いわゆるクリーニング手術

まずは通称、クリーニング手術というものです。

正確には関節鏡下肩峰下除圧術という
小難しい名前がついています。

この手術は滑液包面断裂に対して、特に効果的であり、
また、完全断裂においても腱を縫う前に行われます。

 

クリーニング手術というのは痛みや症状の原因となっている部分を
お掃除する(専門的にはデブリードマンと言います)手術です。

 

つまり、クリーニング手術は通称であり、
また、広い概念を表します。

要は「お掃除手術」なわけですから、
痛みの原因となっているようなものを
お掃除するということ全般を指します。

 

そのクリーニング手術の1つに
関節鏡下肩峰下除圧術がある
と捉えていただくと正確です。

関節鏡下肩峰下除圧術とは?

では、実際にはどういうことを行うのか?

というと、

 

かなりシンプルです。

まず、関節鏡という内視鏡を用います。
ペンよりも細い筒型のカメラを
関節の中や滑液包の中に挿入するわけですが、

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

胃や腸のように、
穴(口やお尻の穴)があるわけではありません。

そのため、小さく
1–1.5cmくらいは皮膚を切開して、
関節鏡や手術用の鉗子(はさみやメスなど)を
挿入して手術をします。

そして、インピンジメントの原因となる、

肩峰の下側を
薄くします。

これは骨を削ると言うことです。

特に、肩峰の下側でかつ、前の方は、
骨棘(こつきょく)と呼ばれる、
増殖した骨の棘があります。

これは特に痛みの原因となるので、
しっかりと削ります。

 

それに加え、
烏口肩峰靱帯(うこうけんぽうじんたい)
という靱帯を切ってしまいます。

靱帯を切ってしまって大丈夫なのか?

という心配は当然あると思います。

すべての人において大丈夫!
とは言いませんが、

多くの人においては大丈夫です。

それはなぜかといえば、

この烏口肩峰靱帯はその名の通り、

烏口突起(うこうとっき)と
肩峰をつなぐ靱帯です。

しかし、この2つ・・・

どちらも肩甲骨の一部なんですね。

つまり、同じ骨の異なる部位を繋ぐ靱帯なんです。

靱帯の役割は、
骨と骨を繋いで、
その骨と骨が関節において不安定にならないように、
脱臼しないように張って支えることです。

しかし、この烏口肩峰靱帯は
同じ骨を繋いでいるので、
不安定も何もありません。

そういう意味で大丈夫と言えます。

まとめ

今回は肩のインピンジメント症候群について解説いたしました。

解剖学的な特徴から、症状、治療としてのリハビリや手術まで一通り解説しましたので、少しでも参考になりましたら幸いです。

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