治らない筋肉痛 危険な原因と安全な原因と対処を専門医解説

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治らない筋肉痛・・・本来的にはそんなものはなかなかないはずですが、筋肉痛の原因に思いを巡らすと、時に危険な筋肉痛があることがわかります。

放置してしまうと、時に命に関わる筋肉痛もあるということ。逆に、ほとんどの放置しても問題ない筋肉痛はなぜ起こるのか?という根本原因にまつわること。それらを時に基本から、時にマニアックに解説してみたいと思います。

整形外科専門医として、またスポーツコーチとして、個人的には「筋肉痛」についてはこの記事だけで十二分な情報じゃないかなと思っています。ぜひ参考にしてみてください。

筋肉痛の原因

原因がわかれば、治らない筋肉痛に対する対処法が見えてきます。様々な原因や対処法についてこれから述べていきますが、まずは一番よくある、「いわゆる誰もが経験して、大抵は数日で治る筋肉痛」です。この筋肉痛の原因は実はまだ完全には解明されていません。

しかし、状況証拠から僕の中ではほぼほぼ確かであろう原因はあります。昔から言われている筋肉痛の原因にメスを入れながら、本当の原因に迫ってみます。
肩の痛み

まず、昔から言われている筋損傷による痛み・・・という説ですが、これは一つの筋肉痛を構成する要素としては間違いなくあるでしょう。しかし、筋トレ熟練者がより強い負荷で筋損傷を起こした場合やプロアスリートが「単なる筋肉痛」で悩まされることが少なく、むしろ、運動初心者が急にスポーツをした時に必発する筋肉痛という性質を考えると・・・これだけでは説明がつきません。

また、筋疲労の原因の一つの「乳酸」(現代ではその解釈自体が間違いと言われています)が溜まると筋肉痛が起こるという説もありました。乳酸は酸ですから筋肉内のpHが下がって酸性に傾いて、痛みが出る。という説明ですが、それなら遅発性の筋肉痛の説明がつかないので却下です。

では、本当の筋肉痛の原因はなんなのか?

抽象度が高いレベルで言えば、それは「ホメオスタシスのフィードバック」だと言えます。脳も含めた身体全体の筋肉運動に対する反応ということです。

例えば、学生時代の仲間と10年ぶりに草野球を楽しんだ
28歳男性・・・
「お!意外と動けるじゃん俺!」と思いながら存分に楽しんだ週末。
しかし、翌朝起きたら、まさかの立ち上がれず・・・

「なんだ、この太もも・・・力入れるとめっちゃ痛い・・・」

この男性の筋肉で起こっているのは・・・

もちろん、筋損傷の起こっているでしょうし、乳酸も多少は溜まっているでしょう(もちろん、野球をやっている最中や直後のほうが溜まっているはずです)。しかし、それでこれほどの筋肉痛は・・・
学生時代にも経験ないほどの・・・

これをホメオスタシスという「すべての人間が持つ、恒常性維持機能=生命・存在を維持するためにあらゆる臓器が協力して働く機能」の立場に立って、擬人化してみます。

 

バッティングスキル
仲間から野球に誘われたとき・・・

ホメオスタシス「10年、まったく運動してないのにイキナリ草野球だと?馬鹿か?」

本人は野球を楽しんでいるが・・・

ホメオスタシス「ああ、ああ、アキレス腱が切れないか、心配だ・・・」

ケガせずに野球を楽しめたが・・・

ホメオスタシス「結構動けたつもりみたいだけど、やっぱり学生時代のパフォーマンスじゃないな。意外と筋損傷も少なく済んだ」

ホメオスタシス「とは言え、こんなイキナリ運動したら、肉離れも腱断裂も起こりかねない・・・サインを送っておこう」

この「サイン」が筋肉痛ということです。

ちょっと擬人化すると現実感がなくなって、おとぎ話のように思えるかも知れませんが、繰り返すと、

すべての人間の臓器・脳には「自らの生命・存在を守るために働くホメオスタシス」という機能がありますから、この擬人化したホメオスタシスのような意思が働くのは間違いありません。

脳内イメージ 認知機能 イメージトレーニング

これは脳を司令塔とした身体全体のシステムとしての筋肉痛の原因であって、では筋肉の中でどういう物質やどういう神経信号がどのくらい影響して・・・みたいなミクロレベルでの原因はやはりまだ未解明です。

超回復と筋肉痛が遅く出現する理由

ここで筋肉痛の原因に関連したトピックとして、超回復と遅発性の筋肉痛について解説します。

超回復(ちょうかいふく)・・・これは筋トレを本格的にやっている人なら誰もが知っている筋肉が肥大する基本メカニズムです。

筋トレなど、筋肉に負荷をかけると微細なレベルで筋線維が損傷、切れます。この時点では筋トレ前より筋力や筋線維の太さは小さくなっているわけですが、しっかりと休養をとることで、それらが回復していきます。この回復が筋トレ前のレベルを追い越して回復するので超回復と言われ、その繰り返しで筋力アップや筋肥大が起こると考えられています。

この超回復の過程で筋肉痛が起こるのでは?という考え方もありますが、それも先ほど同様で、初心者に多い理由が説明つきません。

ですから、筋トレをやっていて、筋肉痛があれば良い筋トレで、かつ、筋肉痛がなくなるまで次の筋トレをしてはいけないというような説明をする人がいますが、それは間違いです。
筋トレの質と筋肉痛は関係ないですし、筋肉痛が超回復タイムを表しているわけでもないので、その間、しっかり休むという目安にもならないということです。

また、年をとると筋肉痛が出現するのが1日、2日と遅れてくるという説もよく聞くと思いますし、実感している人も多いでしょう。僕も少し実感してきました(笑)

これも原因が明確ではありませんが、でも、シンプルに年齢とともに代謝が遅くなるということで説明がつくとは思います。

ホメオスタシスという抽象度が高めの原因解説をしましたが、抽象度が低いミクロレベルでは乳酸ではないにしろ、何らかの代謝産物(物質)や神経伝達物質などが関連しているはずですから、これらの物質の代謝が遅ければ、筋肉痛の出現も遅くなるわけです。

筋肉痛の軽減と早く治すには?

では、さっそく実践的なお話に移ります。

筋肉痛がなかなか治らない・・・早く治したい、少しでも軽減したいという場合の対処法です。

安静

まずはシンプルに安静です。

ホメオスタシスのフィードバック・・・すなわち、身体が発するサインとして痛みを出しているのなら、それに従いましょうという方針です。

これはある程度は正解です。

筋肉痛が強いと動きもぎこちなくなりますし、パフォーマンスが落ちますから、無理をしないという選択肢はありです。

ストレッチ

次にストレッチです。


筋肉痛が出ている筋肉をストレッチするということは果たしてプラスなのか、マイナスなのか?

という議論がありますが、

僕は「イタ気持ちいい」程度ならプラスになり得る

と説明しています。

筋肉痛を筋線維の損傷と定義している人にとっては、その筋肉を伸ばせば、もっと損傷が拡大してしまうじゃないか!?いう結論になりかねませんが、

実際は大して損傷していないので、イタ気持ちいいレベルのストレッチであれば、筋肉の血流も促進してくれて、回復が早まる可能性が高いです。

アクティブレスト

特にオススメしたいのはこれです。

アクティブレスト・・・積極的休養とでも訳しましょうか。

スポーツ界では常識ですが、回復を早めるためにアスリートたちはプールで軽いエクササイズをしたり、グラウンドをジョグしたりというようなことをします。

これは屋内でひたすら横になっている完全休養以上に筋肉を中心とした組織の血流を促進して回復を早めることがわかっているからなんです。

そして、筋肉痛も同様です。代謝を速くしたら回復が早いのは当然です。ジョグとかプールでの体操、サイクリングなどがオススメですね。

食事・水分補給

食事と水分補給も大切なポイントです。

抽象度が低いレベルでのポイントは「代謝」ですから、脱水やビタミン、ミネラル、エネルギー(カロリー)が不足していれば「代謝」が滞って、筋肉痛は悪化して、長引いてしまいます。

シンプルにいつもよりも少し多めの水分と少し多めのバランスのいい食事。

これを意識するだけで十分です。

あえて、ビタミンCが大切、とか、ビタミンB1が大切とか細かいことはここでは言わずに、バランス良くだけでいいと思っていますが、

でも、一応、医学的にわかっているポイントをお伝えしておきます。

まず第一にエネルギーが足りないと疲労回復する材料が不足することになるので、しっかりカロリーを摂取しましょう。これは運動直後から必要量が跳ね上がるので、筋肉痛になる前から意識すべき栄養素です。主には炭水化物と脂質ですね。

さらに筋肉そのものの材料であるタンパク質もある程度は必要です。もし、筋トレを激しくやっているようなら、体重1kgあたり2gくらいのタンパク質が目安になりますが、たまにやった運動による筋肉痛なら、そこまでは必要ありません。

また、疲労回復に重要でエネルギーの活用に大事なビタミンB1は豚肉やホウレンソウが代表的な補給源ですから意識してみてください。ビタミンは他にもビタミンA(サツマイモ、ニンジンなど)、ビタミンB6(豆、シーフードなど)、ビタミンC(キャベツ、トマト、イチゴなど)などが重要と言われています。

それ以外にも、

エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、γ-リノレン酸(GLA)など良質な脂肪に含まれる脂肪酸は炎症を抑える作用があります。筋肉痛の抽象度が低いレベルでのメカニズムに炎症がある可能性は大ですから、魚やmクルミ油や亜麻仁油などを摂ってみましょう。

ミネラルで言うと、亜鉛というものがあります。これは傷や炎症が治るときに必要な栄養素です。亜鉛はヨーグルト、豆類、ミルク、ホウレンソウなどに多く含まれます。

薬(内服鎮痛剤、外用剤)

薬は筋肉痛の治りを早めることは基本ありません。
しかし、軽減することはできます。
痛み止めですね。

NSAIDsと呼ばれる消炎鎮痛剤を飲んだり、貼ったり、塗ったりすれば炎症を抑えつつ、痛みそのものを鎮めてくれるはずです。
これはロキソニンやセレコックスなどが代表的な薬です。

また、アセトアミノフェン(商品名 カロナールやコカール)は炎症を抑えるチカラはありませんが、痛みを鎮める作用がありますので、これもオススメです。

筋肉痛も程度が強ければ、パフォーマンス、仕事、スポーツに悪影響を及ぼしますから、必要に応じて使っても良いでしょう。

NSAIDsの喘息発作、腎障害、胃腸障害という副作用や、アセトアミノフェンの肝障害という副作用が代表的な注意すべきものですから、もともと既往症としてお持ちの場合は注意してください。

治らない筋肉痛で危険な原因は病院直行

筋肉痛と思ったらなかなか治らないという場合に注意してほしい病気をいくつか列挙します。思い当たる節があれば、必ず病院を受診してください。

肉離れ

まずありがちなのは、本格的に筋線維が損傷してしまっている場合です。肉離れですね。

ただ、この場合の多くはスポーツや運動の真っ最中に痛みが出ます。瞬間的に筋肉に強い負荷がかかって、筋線維がちぎれてしまうのが肉離れですから。

しかし、気付かぬうちに肉離れしていたというケースもなくはないので、そのほかの特徴を意識してみてください。

一つは形状の変化です。肉離れは筋肉が部分的に損傷しているので、その場所がよーく触ると凹んでいたり、逆にそこが出血しているので、よーく触ると膨らんでいたり、腫れていたりします。

筋肉痛ではそういった変化はあまり起こりません。

腱損傷

腱損傷は筋肉の先端のスジである腱が損傷することを意味します。筋肉の先端はどこかと言えば、骨に近いところになりますから、筋肉痛と思ったら、なぜか骨に近いところが痛い・・・となったら、注意が必要です。

腱損傷の典型はアキレス腱損傷や肩の腱板損傷です。

線維筋痛症

MSDマニュアルによると、線維筋痛症は

維筋痛症はよくみられる原因不明の関節以外の疾患であり,全身性疼痛(ときに重度);筋肉,腱付着部周囲,および隣接する軟部組織の広範囲の圧痛;筋硬直;疲労;意識障害;睡眠障害;ならびに他の様々な身体症状を特徴とする。診断は臨床的に行う。治療法としては,運動,局所の加温,ストレス管理,睡眠を改善する薬剤,非オピオイド鎮痛薬などがある。

とされています。

要は原因がわかっていない、全身が痛くなる病気で、リウマチなどと違って、その痛い場所が「関節以外」だということに特徴があります。

ですから、筋肉痛に似てるといえば似てますが、運動とは無関係に痛みが出る、慢性的なものですから間違えるようなものではないかもしれません。しかし、思い込みとはこわいもので、実際に長く筋肉痛と思って悩んでいる人もいらっしゃいます。

筋肉痛が運動と関係なく出現したり、何週間にもわたって治らない時は必ず病院を受診してください。

心筋梗塞など命に関わる問題も

線維筋痛症は命に関わることはほぼありませんが、筋肉痛と思って放置すると命に関わるこわい病気もあります。

代表的なのは心筋梗塞です。心筋梗塞は胸の痛みがほとんどなわけですが、関連痛と言って、意外と離れた場所に痛みがくることがあります。

そういう意味では心臓がある左側は要注意です。左の背中が痛い、左の肩が痛い、なんていうのが心筋梗塞の初発症状だったりします。

また、横紋筋融解症と言う、怖い病態があります。
これはザックリ言えば、筋肉が溶けて様々な老廃物が一気に腎臓に押し寄せて、腎不全になってしまいます。
この横紋筋融解症の原因の一番は筋肉の長時間の圧迫です。よく災害現場でものに挟まれて長時間経った後に救出された時に、一気に老廃物が腎臓に流れ込んで、命に関わるクラッシュシンドロームと呼ばれる状態が横紋筋融解症の一番急激な怖い病態です。
他にも、アルコール飲みすぎや、過度な運動、熱中症も原因になり得ます。

治らない筋肉痛でもいずれ治る筋肉痛のタイプ

放置したら危険な、怖い筋肉痛の原因を先に解説しましたが、ほとんどの筋肉痛は放置して、勝手に治ります。

治らないと思っていても、実際はいずれは治るような筋肉痛はどういうものか?

その特徴を押さえておくと、安心材料になります。

まずは年齢です。遅発性の筋肉痛の話をしましたが、やはり代謝が遅れてくれば、治りも遅れます。下手したら1週間くらい痛かったりします。

ただ、徐々には痛みが引いてくるはずなので、それがない場合は早めに危険な原因がないか注意してください。

さらには、放置して良い筋肉痛は腫れたりしてないことが多いです。脚や手であれば左右を比べてみましょう。比べないと腫れてるかどうかわからないことは多々あります。

あとは当然ですが、筋肉痛になる原因となる運動など、思い当たる節があることです。原因不明の筋肉痛は危険です。

筋肉痛は予防できる?

最後に筋肉痛は予防できるか?

ということについて言えば、
まず、原因に立ち返ります。

ホメオスタシスのフィードバックでしたね。

と言うことは、自分の身体のホメオスタシスに危険と思わせない運動ができれば筋肉痛は予防できることになります。

そのためのポイントはたった1つ、

心配性なくらいに段階的に運動負荷を上げていくことです。
うん年ぶりの運動の予定が入ったなら、予定が入ってから、少しずつ運動を開始して負荷を上げていきます。準備運動は数日前から始まっているということですね。

これはホメオスタシスの手なづけ方の基本中の基本です。
ホメオスタシスは急激な変化を危険信号として認識します。それが良い変化だとしてもです。

ですから、常に変化は小さなことから始めるというのが基本です。

まとめ

治らない筋肉痛でお悩みの人向けに、筋肉痛の基本と原因についてマニアックなことも含めて説明しました。

たかが筋肉痛、されど筋肉痛

というのが少し伝わったら嬉しく思います。

ホメオスタシスという視点で筋肉痛を捉えていただくと、だいぶスッキリすると思います。

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