靭帯が伸びる(=靱帯損傷)ともう元には戻らない!?
これはある意味では正解で、ある意味では不正解です。
単なる捻挫かと思ったら、 「靭帯が伸びると戻らないよ」なんて言われてショックを受ける選手は結構多いです。
ですから、まず靭帯損傷とその治療過程に対する正しい知識は身につけておきたいですね。
ということで、靭帯損傷は完治するのか否か?ということについてスポーツ医学的な解説をできるだけわかりやすくお届けし、
そして、早く治すためのオススメの治療法をお伝えしたいと思います。
さらに、一見遠回りなギプス固定治療についても、後半で解説していきます。
こんにちは、整形外科医でスポーツメディカルコーチの歌島です。本日も記事をご覧いただきありがとうございます。
それではいきましょう!
「靭帯が伸びる≒靱帯損傷」とは
靭帯が伸びる≒靱帯損傷という状態について、基本をおさらいしておきましょう。
靱帯は関節が外れないように支えてくれているスジ
足首に限らず 靱帯(じんたい)の主な役割は
関節が外れないように、 グラグラしないように 想定外の方向や範囲の動きをストップしてくれる そんな支えとなっているスジ
と言っていいと思います。
それに対して、 筋肉は自ら収縮して、 関節を動かすことができるスジで
腱は、その筋肉の先端、 骨にくっつくところのカタいスジ (=筋肉の一部)
と言えます。
靭帯が伸びるとは?
「靭帯が伸びる」と言ったときに、実際に、靭帯がびよーんと伸びているのか?
というと、
そんなゴムみたいな組織ではありません。
実際には最低でも部分断裂が起こっている
おさらいしたように、関節が捻られたり無理な動きを強いられた時に、靭帯がピーンと張って、脱臼しないように踏ん張ってくれています。
しかし、強い力にはそれも耐えきれず、 いわゆる「捻挫」を起こしてしまいます。
これは靭帯でカバーできる力を越えたときに、一部、靭帯が切れてしまっている。要は部分損傷が起こっています。
時に重症なケースでは靭帯の完全断裂にまで至っていることがあります。
靱帯損傷が治っても元通りではない≒伸びる
部分断裂にしても、完全断裂にしても靭帯には自己修復能力(自然治癒力)があります。
その結果、靭帯が切れっぱなしで、関節がグラグラという状態にはならずに治ってくれるわけですが、
それでも、完全に元通りというのは難しいわけです。
もともと靭帯というのはキレイで多少の柔軟性とそう簡単には切れない強さを持っているわけですが、
損傷してしまったあとは、その損傷部はすこしいびつな線維である「瘢痕(はんこん)」と呼ばれるもので置き換わります。
この「瘢痕」はもとの靭帯よりも少し柔軟性も強さも劣ります。
そして、損傷の大きさによっては、
もとの靭帯+損傷部の置き換わった瘢痕
の長さが
もともとの靭帯の長さより長くなっていることが多いです。
そうです。これが「靭帯が伸びる」と表現される正体と言っていいかもしれません。
靭帯が伸びると切れるの違い
ここまでを整理いたしますと、
捻挫によって靭帯は多少なりとも「切れる」
その「切れた」部分は自己治癒力によって治るが完全ではなく、
弱くカタい瘢痕によって埋まる。
そして、その結果、靭帯+瘢痕の長さがもとの靭帯より長くなる
それを「伸びる」と表現する。
つまり、捻挫によって靭帯が切れた結果、伸びて治る
というのが正確な捉え方だと思います。
靭帯が伸びると完治するのか?
靭帯が伸びると完治するのかどうか?
ということですが、
伸びた靭帯が自然に縮むことはない
靱帯損傷の結果、伸びてしまった靭帯そのものは元には戻りません。
なぜなら、靱帯が伸びるというのは、損傷の治療完了時点で伸びているといことだからですね。そこから靭帯そのものの性質が変わることは基本ないわけです。
手術でもすれば別ですが。
ただ、靭帯が伸びたら完治を目指してすべて手術するなんてことはありません。むしろ手術が必要になることは少ないです。
靭帯が完治するのではなく関節の安定性を完治させること
ここで「完治」について考える必要があります。
靭帯を完治させたいのか?
関節の機能、はたらきを完治させいたいのか?
ということです。
靭帯がなんのためにあるかと言えば、関節の機能のためです。もっと言うと、関節がグラグラしたり、脱臼したりしないように、つまり安定性のためです。
とすれば、靭帯が伸びたまんまでも、関節が安定していれば問題ないわけです。
そして、関節を安定させているのは、靭帯だけではありません。
関節を構成している
- 骨・軟骨
- 神経と筋肉の連携
も大切ですし、
さらに全身のバランスも安定していれば結果的に関節の安定性が保たれます。
ですから、これらを鍛え上げれば、靭帯が伸びるといっても、関節の安定性は高められて、結果的に「完治」と言える状態に持っていける可能性があるわけです。
関節の安定性を回復させる治療法≒早く治す治療法
捻挫などで靭帯を損傷したとして、靭帯の治療とともに関節全体の安定性を考えて、関節の安定性の完治を目指すべきということを解説いたしましたが、
そのためのオススメの治療法をお伝えします。
これは結果的には早く治すことにも繋がります。
靭帯の伸びる程度を最小限に抑える急性期治療
まずは急性期治療です。捻挫などの外傷があったときの最初の数週間です。
ここでは靭帯が損傷したあとにどの程度しっかり靭帯そのものを治せるか、元通りに近づけられるか?
ということです。
ここでの治療がうまくいかないと、損傷の結果、靭帯が伸びることになります。
その伸びる程度を最小限にするための基本は
- 最初の1週間くらいの腫れを最小限にする
- 1週間以降は関節を安定化しながら、むしろよく動かす
ということです。
この「1週間」というのは重症度や関節、靭帯によってケースバイケースです。
この急性期治療はRICE療法やギプスなどの固定、そして、サポーターによる安定化がキーワードになります。
関節まわりの筋肉と神経の働きを高める
関節の安定性を高めて完治させる
という意味で言えば、これは非常に重要です。
靭帯が伸びていても、もし、関節が捻られたり、外れそうな動きの瞬間に神経が感知して筋肉に信号を送って、その危ない動きを回避しようと筋肉が働いてくれます。
この神経の感度と筋肉の反応性、強さを鍛え上げることが安定性を高めることになります。
足首の靭帯が伸びる場合であれば、特に捻られる動きをコントロールする後脛骨筋と腓骨筋を鍛えること、
後脛骨筋トレーニング
腓骨筋トレーニング
そして、足の裏の神経筋センサーを高めるトレーニングをすることが推奨されています。
https://youtu.be/BPMEj-jeH9w
全身のバランスや可動性を高める
次に全身のバランス能力や可動性を高めることが大切です。
たとえば、足首の靭帯が伸びる場合は、 全身のバランスということで、股関節回りや体幹の安定性を高めるトレーニングを行います。
体幹から股関節の安定性アップ
様々なトレーニングが開発されていますが、要は骨盤を含む体幹を安定化させた状態で股関節から先を大きく動かせる能力を鍛えるということになります。
※常に体幹の安定に大事なドローインというお腹を凹ませる動作を意識しながらやっていきましょう。
ハンドニー
これは四つん這い状態で腕と脚をゆっくり伸ばしていく動きです。手足の対角線上の動きはキック動作でも基本になります。
https://youtu.be/A18LE0sntBo
サイドプランクから股関節運動
これは股関節周囲、骨盤の安定性に関わる股関節外転筋群を鍛えるのにも有効なトレーニングです。
手首や肘の場合は肩甲骨がカギ
手首や肘の靭帯の場合は肩や肩甲骨の安定性と、ちょっと矛盾するようですが可動性を高めることもカギとなります。
上肢の場合は中枢(肩、肩甲骨)の動きが悪い結果、末梢(手首や肘)にしわ寄せが来て、靭帯に負担をかけることが多いので、肩甲骨がいかに動くか?ということも大切です。
靱帯損傷を早く治すために、一見、遠回りのようなギプス固定が
実は近道だったりすることもあります。
捻挫(≒靱帯損傷)でギプス固定をしますと言われたらどうでしょうか?
本当に必要なのか?と思う人もいれば、当然だよなと思う人もいるかもしれません。
では、ギプス固定の期間はいかがでしょうか?外すタイミングですね。
骨折では骨がくっつくまで1ヶ月以上固定することが多いですが、捻挫はそこまで長く固定することは少ないです。
ということで、捻挫の時のギプス固定の必要性といつまで固定しないといけないのか?ということについて解説していきたいと思います。
靱帯損傷におけるギプス固定の必要性
まず捻挫(=靱帯損傷)の場合にギプスが必要なのか否かというところから解説します。
結論から言うと、ひとくちに捻挫と言っても、部位や重症度でギプス固定が必要なケースと必要ないケースがあるということです。
靱帯損傷ではギプス固定をしないほうがいいケースもある
骨折は骨が損傷しているのに対し、捻挫は主に靭帯が損傷しています。
靭帯は骨と違って、ある程度の柔軟性を持ったスジですから、骨折のようにパズルをぴったり合わせて動かないように固定するような厳密さは必要ありません。
むしろ、固定することによって、本来は動きの中で働く靭帯が、その働きを忘れてしまうように、治癒がイマイチ進まないことがあります。
そのため、靱帯損傷でも痛みや腫れが少ない軽症ではギプス固定は最初からしないということも良くあります。
靱帯損傷でギプス固定が必要なケース
逆にそういった捻挫でもギプス固定が必要なケースはどういったケースかと言うと、
一言で言うと「重症な捻挫」です。
重症な捻挫は靭帯の損傷具合も大きく、また、靭帯の周りの筋肉や関節包などなどの損傷や出血、腫れも大きいです。
そうなるとギプス固定をせずに動かす、負荷をかけるということは損傷を強めてしまったり、炎症を強めてしまう結果になりかねません。
そういう意味で、捻挫したての最初はギプス固定が必要ということになります。
靱帯損傷でギプス固定を外す期間の決め方
次に捻挫でギプス固定をした場合、いつまで装着していないといけないのか?ということです、つまりギプス固定期間ですね。
レントゲンなどで治り具合がわかるわけではない
まず骨折と違うのは、レントゲンなどでは靭帯の治り具合がわかるわけではないということです。
なら、MRIはどうか?と言うと、靭帯は描出されますが、靱帯損傷の程度によってMRI画像は全然異なりますし、治ってきたサインのようなものがMRIで見えてくるのは、実際に治ってくるのより遅れて出てきます。
さらにMRIは予約制の検査で、かつ費用も安くありません。
そのため、画像検査での判断は非現実的で難しいと言えますが、
「超音波(エコー)」は判断材料になり得ます。
超音波で靭帯の損傷部とその周囲の腫れ具合を経時的に見ていって、回復傾向があればギプスを外すということはやってみてもいいかもしれません。
見て触って決める?
画像よりも大切なのは見て、触って決めるということです。
腫れ具合や痛み具合の回復傾向をみながら、強い炎症状態は脱したと判断したらギプスを外すということですね。
多くは1–2週間程度と時期を決め打ち
ただ、捻挫におけるギプスはもともとそんなに長い期間固定するものではありません。
靭帯がくっついてきたからギプスを外す・・・ということではなく、
炎症がおさまってきたからギプスを外すという考え方になりますので、受傷時の炎症具合で必要なギプス期間はある程度決まってしまいます。
その期間はだいたい1週間程度、かなりの重症例で2週間程度で、ギプスを外すということになります。
靱帯損傷におけるギプス固定の注意点
捻挫におけるギプス固定中の注意点を解説します。
脚の捻挫では歩くのが許可されているか確認
足首が多いと思いますが、体重がかかる脚の捻挫でギプス固定を要した場合は体重をかけていいか、歩いていいかの確認をしましょう。
松葉杖での歩行を勧められることも多いと思いますが、松葉杖を使って完全に片脚で歩くくらいの徹底が必要なのか、多少は痛みに応じて体重をかけていいのかを確認しておくことは大切です。
骨折とは違うので絶対体重をかけてはいけないというケースは少ないです。
ただ、部位によっては炎症が強ければ体重をかけるという負荷がより炎症を強めかねないので、その判断を主治医にしてもらいましょう。
一般的には「体重をかけたときの痛みが強くなければいいですよ」ということが多いです。
ギプス一般の注意点 濡らさないなど
また、捻挫に限らずギプス固定全般の注意点もリストアップしておきます。
- 濡らさないこと
- ギプスの中で当たって痛みがあれば早めに申告すること
- 腫れが増したために指や趾が動かしにくい、痛いなどがあれば急いで相談すること
- シーネ+包帯のような固定で固定が緩んだ場合はまき直すか巻き直しのために受診する
まとめ
今回は靭帯が伸びる(靱帯損傷)と完治するのか、早く治すには?ということについて
- 靭帯そのものは完治しなくても
- 関節の安定性を高めれば完治したと同然
ということを解説いたしました。
そして、完治を目指し、早く治すためのオススメの治療法として、
- 靭帯の伸びる程度を最小限に抑える急性期治療
- 関節まわりの筋肉と神経の働きを高める
- 全身のバランスや可動性を高める
ということをお伝えいたしました。
さらに、
捻挫のときのギプス固定の必要性といつまで固定しているか?ということについて解説いたしました。
捻挫とはなんなのか? ギプス固定の意味はなんなのか?
という基本に立ち返って理解し、治療していくことが大切だと考えていますので、参考にしていただければと思います。
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