肘の骨折は骨折の中でも結構厄介な骨折で、特にリハビリテーションがなかなか順調にいかないことが多い骨折です。
間違ったリハビリをしてしまうと、逆に肘がカタくなってしまって、余計に曲がらなくなったり、伸びなくなったり、痛みが増したりしてしまいますので、大切なポイントを押さえながら、かつ、同じ曲げる、伸ばすでも様々なバリエーションで刺激を加えながらやっていくことがオススメです。
ということで、肘の骨折のリハビリの大切なポイントと曲がらない、伸びないという時のオススメリハビリ方法を複数お届けします。
さらに曲がらない、伸びない以外にも、リハビリがうまくいかなかったりすると様々な後遺症を残すことがありますので、注意喚起として後遺症の解説も行い、
最後に肘頭骨折(ちゅうとうこっせつ)という少し特殊ですが、よく起こる肘の骨折についてまとめて解説いたします。
こんにちは、スポーツ整形外科医の歌島です。本日も記事をご覧いただきありがとうございます。
それではいきましょう!
肘の骨折の基本をまず復習
まず肘の骨折の基本から入ります。
肘の骨は3つ!
まず基本中の基本ですが、
肘の骨は3つです。
上腕骨という
肘から肩にかけての骨と
前腕の骨、つまり肘から手首までの
橈骨と
尺骨です。
肘の骨の近くには手を支配する3つの神経が走る
- 正中神経
- 尺骨神経
- 橈骨神経
が肘の骨の周りを走っている
ということです。
肘の骨にはたくさんの筋肉が付着する
もう一つの特徴としては、
筋肉の付着部が多いと言えます。
例えば、肘頭は
肘を伸ばす上腕三頭筋が付着しています。
そういった付着部がたくさんあるため
剥離骨折の好発部位でもあります。
肘関節は安定した関節
肘関節はもともと
曲げて、伸ばして
という動きしかないと言ってもいいくらいに
動きのバリエーション、方向は少ないです。
そのため、
多方向に動く肩などと比べると、
非常に脱臼しにくい安定した関節と言えます。
肘の骨折の主な3つの種類
肘の骨折としては、
3つの骨、それぞれで起こりえます。
上腕骨遠位端骨折
まず上腕骨ですが、
肘側を遠位端とひとくくりで言ってしまえば、
上腕骨遠位端骨折ということになります。
ただ、実際は
上腕骨の肘部分は
内側上顆、外側上顆、
小頭、滑車
などと呼ばれるパートにわかれていて、
それぞれの部位の骨折が起こりえますし、
部位によって細かく治療法が変わります。
ここでは大まかな内容を
つかんでいただければと思いますので、
上腕骨の遠位、つまり肘の方は、
かなり複雑な構造をしている
それをひとくくりに言ってしまえば、
上腕骨遠位端骨折という
ということだけご理解いただければと思います。
橈骨頭骨折
橈骨の場合は
橈骨頭骨折か、
その少し根本よりである
橈骨頚部骨折
ということになります。
肘頭骨折
尺骨については肘頭骨折が
典型的な骨折として
頻度が高いですが、
他にも肘の前方側の突起である
鉤状突起骨折などもあります。
肘頭骨折についてはまとめて後半に解説します。
肘の骨折のリハビリテーションの開始時期はさまざま
肘の骨折後にリハビリテーションとして肘関節を動かしていく時期はさまざまです。
骨折の部位や手術のありなし、手術による骨折部の固定性などによってかわってきますが、要は骨折部が肘を動かしても大丈夫だろうと判断したときから肘を動かすリハビリが始まります。
手術をしてしっかり固定した場合は、手術をした直後から動かし出すこともありますし、逆に手術をしない場合は最初はシーネやギプスで固定していますから、それが外せる時期からのリハビリになります。
肘の場合はギプスなどの固定が3–4週以上になると、かなりの確率で拘縮になります。つまり、曲がらない、伸びないという状態です。
しかし、骨がくっついていない段階ではギプスを外せば骨折がズレてしまうので、肘の骨折の保存治療(手術をしない治療)は難しいです。
ただ、子どもの場合は拘縮が起こりにくく、かつ、骨がくっつくのも早いので手術をせずに治せることも多いです。
肘の骨折のリハビリテーション開始時の注意点
この肘の骨折後のリハビリテーションを開始するときは、「もう絶対大丈夫!」という段階で開始するわけではないということが注意点です。
「もう絶対大丈夫!」という段階までリハビリ開始を待てば、肘が拘縮してしまうので、「かなりの確率で大丈夫だが、少しずつ慎重にやろう」という段階でリハビリを開始するのが一般的です。
ですから、リハビリ開始後は少しずつ痛みに応じて動かせる範囲を拡げていくイメージでやったほうがいいです。特に最初は、想像以上に肘が曲がらない、伸びないという状態かもしれませんが、そこで焦らないことも大切です。
肘の骨折後のリハビリは無理やりは行わない
肘の骨折後のリハビリ全般で注意したい大切なことは
無理やり曲げ伸ばしをしないということです。
リハビリではカタくなった関節を動かせるようにやわらかくしていくわけですから、多少は無理に痛みを伴いながらやるわけですが、
肘の場合は特に愛護的にやるべきと言われています。
無理矢理やると骨化性筋炎になりうる
肘のリハビリを無理矢理やってしまうと、カタくなった筋肉から出血するなどして、筋肉が一部骨化してしまう骨化性筋炎になってしまうことあります。
となると痛みを伴いますし、余計に関節はカタくなります。
いかに筋肉の緊張を落としながらやるか?
肘を曲げるときは肘を伸ばす筋肉である上腕三頭筋や肘筋がストレッチされます。
逆に、肘を伸ばすときは肘を曲げる筋肉である上腕二頭筋や上腕筋がストレッチされます。
このストレッチされる筋肉が緊張していると、当然、肘は曲がらないし伸びないわけですから、いかに緊張を落としながらリハビリを行うかというのも重要になります。
そこで肘の場合に特に重視されるのは、
自動運動リハビリです。
これは理学療法士、作業療法士、いわゆるリハビリ士に動かされるということではなく、自分の筋肉を使って、自分の力で肘関節を動かしていくリハビリです。
そうすることで、自分の想定を越えた、無理矢理の力は加えられませんし、また、自分の筋肉を使うことで、逆にストレッチされる筋肉の緊張は自然と落ちていきます(相反神経抑制)。
ただ、それだけだと、なかなか怖がって動かせない人も多いので、自動運動リハビリにリハビリ士が少しずつ力を加えるという、自動運動+アシストというリハビリもよく行われます。
このときも自分で曲げる、自分で伸ばすという力を緩めることなくリハビリをする必要があります。そうしないと、アシストしてくれている動きに逆に抵抗して、ストレッチされるべき筋肉が緊張してしまいます。
肘の骨折後に曲がらないときの曲げるリハビリ
それでは肘の骨折後に曲がらないときのリハビリの動画をいくつか、バリエーションを豊富にご紹介します。ここまで解説したことを踏まえつつ、やりやすいものを複数やってみるのをオススメします。
まずは基本の肘を固定して逆の手でアシストしながら曲げていくエクササイズです。
曲がるところまで自動運動のみで曲げて、その力は入れたまま、逆の手でアシストしてもう一歩曲げるという訓練です。手の平の向きを変えて(回内と回外)2種類やっています。
肘の骨折後に伸びないときの伸ばすリハビリ
つぎに肘の骨折後に伸びないときのリハビリの動画をいくつか、バリエーションを豊富にご紹介します。ここまで解説したことを踏まえつつ、やりやすいものを複数やってみるのをオススメします。
カベに肘を固定して伸ばしていくというのもやりやすい基本です。後半のチューブを巻き付けて、足で踏むエクササイズは強くやり過ぎると無理矢理に近づいてしまいますが、肘を伸ばすエクササイズにおいては無理矢理伸ばすというよりは、腕全体を引っ張りつつ、腕全体をリラックスするという方法もオススメですので、そういう意味合いで腕を下ろして下に引っ張るということは効果が期待できます。
https://youtu.be/B5RRCkwLluA
こちらは曲げ伸ばし両方に対する立体的な刺激です。
リラックスした自動運動ということで効果が期待できます。どうしても肘が動かないので肩甲骨を動かしたり体幹を動かしてしまうので、そこは固定して動かないように意識します。
次に、肘の骨折の後遺症のお話です。
肘の骨折は特に後遺症については
注意したい骨折です。
それは肘の骨やその周囲の特徴から
後遺症が起こりやすかったり、
治療が難渋しやすいわけです。
こちらでは注意すべき後遺症について
それぞれ解説していきますが、
子どもと大人では大きく性質が異なりますので、
注意すべき後遺症も異なります。
肘の骨折の後遺症(子供)
さて、それでは注意すべき
後遺症のお話ですが、
まずは子どもからです。
子どもの肘の骨折の後遺症を語る上では、
子どもが成長中である
ということが大きな要素となっています。
肘の変形(内反肘 外反肘)
子どもの成長において、
肘は複雑な発達を遂げます。
肘には3つの骨があり、
さらに様々なパートにわかれますが、
それぞれのパートで、
決められたスケジュールで
成長が進んでいき、
ある程度まっすぐな肘ができあがります。
しかし、骨折において、
その決められたスケジュールが狂います。
特に骨折のズレが大きいときが顕著です。
通常の子どもの骨折であれば、
少しずつ元の形に戻る
自家矯正力が働きますが、
肘の複雑な成長過程では、
そうはいかず、
成長のアンバランスによって
むしろ、変形が強くなってしまう
ということが起こりえます。
そして、
肘におけるO脚(がに股)のような変形である内反肘
その逆の
X脚(内股)のような変形である外反肘
そういった変形が起こりえます。
痺れる、手の指が麻痺する (神経障害)
さきほどの内反肘、外反肘という変形にともなって、
その周りを走る神経の走行も変わります。
主に
内反肘では正中神経という神経、
外反肘では尺骨神経という神経の走行が
影響を受けて、
それぞれの神経障害が出現します。
それは主に神経支配領域のしびれ
正中神経であれば手のひら側のしびれ、
尺骨神経であれば小指側のしびれ、
さらに、指を動かす運動神経の障害もでれば、
指の動きにも影響が起きて、
最悪、麻痺や手指の拘縮が起こってしまいます。
子どもの肘の骨折では、
この骨折のズレ→変形→神経障害
という流れの後遺症を防ぐ
というのが大切なポイントなります。
肘の骨折の後遺症(大人)
子どもに対して、
大人の後遺症はまったく違います。
大人でも
成長とは関係なく、
変形して骨がくっついたり、
その結果、神経障害が出現する。
もしくは、骨折時の神経損傷、
手術時、手術後の神経障害もあり得ますが、
子どものように、
将来的に変形が進み、
神経障害がのちのち起こってくる
というようなケースは稀です。
しかし、大人の場合は、
別の注意点があります。
肘がカタくなる(肘関節拘縮)
まず大人の肘は
非常にカタくなりやすいです。
1ヶ月くらいシーネなどで固定していれば、
おどろくほど動かない肘に気付くかもしれません。
特に骨折などの外傷後は顕著です。
そういった意味では
手術でできるだけ早めに
可動域訓練を行える状態にして、
しっかりリハビリをする。
これが大切になります。
軟骨がすり減る(変形性関節症)
もう一つは、
関節面に及ぶ骨折の場合は、
ズレがある状態で骨がくっついたときに、
将来的にそこを起点に
どんどん軟骨がすり減ってしまう
という状態が起こりえます。
これを変形性関節症と言います。
すり減った軟骨は
現代の医療ではまだ再生できませんので、
唯一の根本的治療手段として、
人工関節に換えてしまう
という手術があります。
これを根本的と言っていいかはわかりませんが、
すり減りが強く痛みや可動域制限が強い肘関節の
最初で最後の手段であることが多いです。
そして肘頭骨折のお話です。
これも肘の骨折の1つですが、
比較的頻度が高く、時に治療が難渋することがある骨折です。
この肘頭骨折の基本から、
治療、手術、リハビリまでを
専門医の視点から
できるだけわかりやすくお伝えします。
肘頭骨折とは?
肘頭骨折とは
肘の骨折のうち、尺骨の
肘頭という部位の骨折になります。
肘頭という骨の特徴
肘頭という骨は、
まさに肘の頭に位置する骨の部位です。
上腕三頭筋の付着部
まず大事なポイントは、
この肘頭に上腕三頭筋が付着する
ということです。
そのため、肘頭が折れてしまうと、
上腕三頭筋に引っ張られて、
ズレが大きくなりやすい
ということになります。
関節軟骨を含む部位
もう一つは、
関節を形成するパートでもありますので、
関節軟骨が含まれます。
それは、つまり、
骨折のズレが
そのまま肘関節の動きに悪影響を及ぼすということです。
肘頭骨折の症状とは?
肘頭骨折の症状としては、
まず当然ですが、肘の頭の部分の痛みです。
また、その周囲が腫れます。
肘の頭はすぐに骨が触れるくらいに
皮膚も、皮下脂肪も薄く、
筋肉もほとんどない場所ですから、
腫れや内出血が目立ちますし、
骨片がズレれば、
肘の頭のいつも骨が触れる部分に
骨が触れない
なんてこともありますが、
そんなときは痛すぎて触れようとも思わないでしょう。
肘頭骨折の治療と完治までの期間の目安は?
この肘頭骨折の治療ですが、
ほぼズレがないケース以外は、
原則手術です。
それは前半で述べた肘頭の特徴が関係しています。
まず上腕三頭筋の付着部なので、
どんどんずれる方向に力が加わってしまうこと、
そして、関節軟骨を含む骨折のため、
可能な限りズレは矯正したい
ということで、手術が原則となるわけです。
肘頭骨折の手術方法
手術方法は、
針金による固定と
プレートによる固定が主に行われています。
プレートの方が強固に固定できますが、
皮下組織、皮膚が薄いため、
プレートが出っ張って、あまりスマートではありません。
そのため、針金で十分固定できる
と判断すれば、
針金が第一選択です。
正確には、
キルシュナー鋼線という針金を使って、
テンションバンドワイヤリングという方法で
上腕三頭筋の張力にも負けない固定を目指します。
肘頭骨折のリハビリのポイント
そして、骨折部が固定できたら、
次にリハビリの出番です。
肘はカタくなりやすい
まず肘の厄介な特徴として、
外傷後にはカタくなりやすい
という特徴があります。
そのため、
骨がくっついてから動かす
というのでは遅く、
可能であれば手術後2週間くらいで
動かし始めたい
というのが本音です。
それが可能かどうかは、
骨折の重症度と
手術でどれだけ強固に固定できたか
に懸かっています。
基本は自動可動域訓練
そういった意味で、
可能な限り早めに積極的に
肘の曲げ伸ばしのリハビリをやりたいのですが、
もう一つ厄介な特徴として、
無理矢理リハビリをすると、
肘周りの筋肉が骨化してしまう、
骨化性筋炎というものが
時に起こってしまいます。
そのため、
可能な限りの早めのリハビリと
無理のないリハビリ
をするということがポイントです。
その無理のないというのは、
肘の場合、
自分の力で肘を曲げ伸ばしする
自動可動域訓練
というものが基本になります。
それに対して、
他動可動域訓練というのは、
誰か他の人や、
自分の逆側の手で
曲げ伸ばしを強制する
という方法で、
多少、アシストする程度はヨシとしても、
無理矢理、曲げ伸ばし
というのは避けるべきです。
そのため、毎日少しずつでも
曲げ伸ばしの角度が伸びていく
それを目指して、
地道に自動可動域訓練を
やっていく
ということがリハビリのポイントになります。
まとめ
今回は肘の骨折後に曲がらない、伸びないなどのときのリハビリを方法をお伝えいたしました。
さらに、
肘の骨折において、
子どもと大人で異なる注意すべき後遺症について解説いたしました。
子どもでは
- 成長に伴う変形進行
- 変形による神経障害
大人では
- 肘がカタくなること
- 変形性関節症
という後遺症に注意が必要というお話でした。
そして、肘頭骨折についての基本から、
治療、リハビリのポイントについて
解説いたしました。
少しでも参考になりましたら幸いです。