今回は肩腱板損傷において、
テーピングは有効なのかどうか?
有効とすれば、方法は?
ということについて、
肩腱板損傷の基本をおさらいしながら、
丁寧に解説いたします。
こんにちは、肩を専門とするスポーツ整形外科医の歌島です。
本日は記事をごらんいただきありがとうございます。
それではいきましょう!
肩腱板損傷の基本とテーピング
肩腱板損傷の基本的な事柄についてのおさらいから入りましょう。
肩の腱板というのは伸び縮みする筋肉の先端の腱の集合体
肩の腱板(けんばん)というのは、
肩の大事な筋肉(インナーマッスル)の先端のスジ
すなわち、腱が集合している部分を言います。
たとえば、下腿三頭筋(腓腹筋+ヒラメ筋)という筋肉の先端には
アキレス腱というスジがあり、そのスジがかかとの骨(踵骨)にくっついています。
それと同様に、肩のインナーマッスルの中でも重要な4種類が腱となって、
それもそれぞれが合流して、1つの板状の膜(スジ)となって、
上腕骨(じょうわんこつ)の大結節と小結節に付着しています。
その重要な4種類のインナーマッスルである
- 肩甲下筋
- 棘上筋
- 棘下筋
- 小円筋
はrotator cuff muscles(回旋腱板筋群)と呼ばれております。
これらの腱板はつまり、
テーピングで使うテープ同様、伸び縮みする筋肉と腱という組織的な性質を持っていて、
それも複数の筋肉の腱の集合体であるということがポイントです。
肩腱板損傷は単なる筋損傷、筋断裂とは違う
この肩腱板の損傷ですが、
さきほど例で挙げたアキレス腱の損傷とは少し性質が異なります。
それはギプスなどの固定など、
いわゆる保存治療での自然治癒というものが期待できないという点です。
肩腱板断裂は保存治療による自然治癒が期待できない
その大きな理由は、
アキレス腱損傷はアキレス腱の腱と腱がちぎれるように切れてしまうので、
その同質の腱同士がくっついてくれればいい。
つまり、くっつきやすいという状態なのに対し、
肩腱板損傷は骨と腱板が離れる、剥がれる
というような損傷携帯をとるいうことです。
この異質な腱と骨がくっつくというのは
なかなかのハードルの高さであるということなんですね。
その結果として、ほとんどの腱板損傷は自然治癒を期待して経過を観察しても、
むしろ、徐々に重症化し、断裂幅が大きくなったり、筋肉が萎縮していきます。
腱板の筋肉の特徴を考えるとテーピングは簡単ではない
まず肩の腱板筋群は
インナーマッスルとも呼ばれます。
肩関節の深いところを走る筋肉です。
それゆえ、肩の安定性に非常に重要なわけです。
それに対して、
テーピングはある意味、
最もアウターな(外側にある)
サポートと言えます。
アウターマッスルよりも
皮下脂肪よりも、皮膚よりも
外側ですからね。
そういう意味で、
インナーマッスルをテーピングでサポートする
というのは無理があるといってもいいかもしれません。
腱板の特徴を考えると有効となり得るテーピング方法
もうひとつ腱板の特徴と言えば、
回旋腱板という名前もあるくらい、
腱板の筋群は
肩の回旋運動を担当します。
その機能は腱板に特徴的なモノですので、
回旋運動のサポートをするような
テーピングというのは
試してみる価値があります。
後方テーピング
まず後方のテーピングで
外旋筋群をサポートします。
この動画のうち、
緑色のテープはあえて使わない、貼らない
ということをオススメします。
この緑のテープは
回旋ではなく、
外転という上げる動きをサポートしてしまうので、
アウターマッスル優位の動きを誘発しがちです。
前方テーピング
次に前方のテーピングで
内旋筋群のサポートです。
これは、胸筋(大胸筋、小胸筋)という
アウターマッスルのサポートテーピングですが、
目的はそれではなく、
そのインナーマッスルのサポートなので、
より肩の回旋運動(内旋運動)に
効かせるために、
テープをこれより外側まで巻き込むように貼ることが
オススメです。
損傷している筋によって変える
どの腱板筋群が損傷しているかで
テーピングを使い分けるのがポイントです。
小円筋損傷は少ないので、
それ以外の3つの筋肉で行きましょう。
特に内旋と外旋という肩の動きのサポートがポイントになります。
棘上筋損傷
棘上筋は
主に外転(外から挙げる)を
サポートする筋肉ですが、
これを直接テーピングでサポートすると、
三角筋優位の動きになりがちなので、
間接的に、
前後両方のサポートテーピングを使用します。
つまり、後方テーピング + 前方テーピング
を使用するということですね。
棘下筋損傷
棘下筋は外旋を主に担う筋肉です。
そのためテーピングは後方テーピングを
使用します。
肩甲下筋損傷
肩甲下筋は内旋を主に担当します。
そのため、前方テーピングを使用します。
損傷している筋肉によって変えると言っても、
実際はどこが損傷しているのか?
そもそも腱板損傷があるのかということが判定できないと厳しいですよね。
ということで、次に腱板損傷の診断テストをご紹介していきます。
肩腱板損傷の代表的診察テスト
それでは肩の腱板損傷に関する診察テストについて
解説していきます。
インピンジメントテスト
インピンジメントというのは
衝突するというような意味合いですが、
実際には
摩擦、擦れるというような状況に近いかもしれません。
次に紹介するHawkinsテストやNeerテストというのは、
肩関節の上、もしくは、
腱板の上に位置する、
肩峰(けんぽう)という肩甲骨の一部や、
そこから出ている靱帯(烏口肩峰靱帯)と
腱板や腱板の付着部である
大結節(だいけっせつ)が
近づいて、擦れるような状況です。
これを肩峰下インピンジメントと言い、腱板損傷の中でも棘上筋・棘下筋腱損傷の原因となり得ますし、損傷があるとよりインピンジメントが強まりやすいという特徴があります。
Hawkinsテスト(ホーキンステスト)
Hawkinsテストは、
インピンジメントテストの代表的なモノで、
肩を前方に上げた状態(前ならえ)で、
肘を90°に曲げて、
肩を回旋させて手を身体の内側の方へ持っていく
この動きを医師にやられたときに
痛みが走るのが
Hawkinsテスト陽性です。
ときに引っかかりや、コキっと音がします。
Neerテスト(ニアーテスト)
インピンジメントテストのもう一つはNeerテストと呼ばれます。
こちらは肩をあらかじめ内旋位にした状態で腕を前方挙上していく動きの中で痛みが走るかどうか?
というチェックです。
結局、腕を挙上した状態で内旋するか(Hawkinsテスト)、
肩を内旋した状態で挙上するか(Neerテスト)、
という違いで肩の中では同じようなことが起こっていると考えていいと思います。
これらインピンジメントテストはかなり多くの人で陽性になります。
特に腱板損傷があれば、
そこで摩擦、衝突を起こすテストで
陽性になりやすいですが、
腱板損傷がなくても、
かなりの確率で陽性になるので、
これだけで判断することはありません。
外転テスト
これは肩を外転、
つまり、外から上に上げていく動き
この中で痛みがでるか
力が入るか?入らないか?
というようなことを判断します。
腱板の中では
棘上筋を中心に、
肩の回旋角度によっては棘下筋も
外転運動を担います。
これらの腱板の損傷を疑って
テストします。
empty canテスト
手に持った缶の水を
空にするような手の向きで
肩を外転していく動きに対して、
抵抗力をかけるテストです。
特に棘下筋に負荷をかけた外転と言えます。
full canテスト
empty canに対して、
full ですから、缶に水を満たすような
手の向きでやります。
こちらは棘上筋に特に負荷がかかります。
drop armテスト (ドロップアームサイン)
これは医師が腕を他動的に上げあげて、
自分でゆっくり下げてきてもらう
それが90°くらいでできずに
落ちてしまうとか、
強い痛みを訴える
という状態はドロップアームサイン陽性です。
腱板筋群のはたらきが悪いと、
肩を安定的に動かすことが出来ず
このような状態になります。
肩外旋筋力テスト
肩の外旋筋力は
棘下筋が切れていると
かなり低下します。
左右で比べるとわかりやすいです。
内旋筋力テスト
内旋筋力は肩甲下筋の損傷で
低下します。
ただ、大胸筋などのアウターマッスルの
はたらきで筋力低下が目立たないことがあり、
特殊なテストで判断します。
lift offテスト(リフトオフテスト)
手を腰に持っていって、
腰から手を離すような位置で
保持できるかどうか
ということです。
内旋筋力が落ちていると、
保持できずに、また腰に手が触れてしまいます。
belly press テスト(ベリープレステスト)
これは手のひらでお腹を押す動作をするときに、
通常であれば肩の内旋という動きを使って、
肘がわずかに前に出るか、
そのままの位置でお腹を押せるわけですが、
内旋筋力が落ちていると、
肘が後ろに動いてしまいます。
ドロップアームテスト陽性は腱板損傷の可能性:大
これら診察テストには感度・特異度というパラメーターがあります。
シンプルにお伝えすると
- 感度が高いと腱板損傷を見逃さないテストである
- 特異度が高いと腱板損傷じゃないのに腱板損傷だと勘違いしにくいテストである
ということです。
逆に言うと
- 感度が低いと腱板損傷なのにそのテストが陽性にならないことも結構ある
- 特異度が低いとそのテストが陽性でも腱板損傷じゃないことも結構ある
ということです。
そんな感度、特異度の性質から言うと、ドロップアームテストは感度は低いが、特異度が高いというデータが出ています。
ということは、もしドロップアームサインが陽性であれば腱板損傷の可能性が高いということです。(逆に陰性でも腱板損傷じゃないとは言えないということも押さえる必要があります)
NeerテストやHawkinsテストは逆に陽性でも腱板断裂じゃないことも
逆に感度は比較的高めでも、特異度が低いNeerテストなどは、
テストが陽性でも腱板損傷でないことも多いです。
実際、肩関節周囲炎でも腱板炎でも陽性になることが多いという印象があります。ただ、逆に感度は高めなので、これらインピンジメントテストが陰性だとすれば、腱板損傷はないんじゃないかなあと考えていいとも言えます。
次に、肩腱板損傷の典型的な症状についても押さえておきましょう。
肩腱板損傷の特徴的な症状
この肩腱板損傷の症状ですが、
まずは当然、肩の痛みが典型的です。
しかし、それだけでは
五十肩や肩関節周囲炎など、
他と区別がつきません。
そういう意味では
腱板損傷のときに特徴的な症状を
理解しておきたいところです。
腕を捻ったときの痛み
まず腕を捻ったときの痛みです。
時にはドアノブを回したり、
扉の開閉をしたり
というような、小さめの動作でも痛い
ということがあります。
これは肩腱板筋群が
英語ではrotator cuff
つまり、回旋腱板と呼ばれるように
肩の回旋運動を担当するということが
1つの理由です。
自分ではあまり上がらないが、やってもらうと上がる
もう1つは、
肩が上がらない
という、多くの人が悩まされる肩の症状の中でも
自分の力では上げられなくて、
他の人や、
自分の逆側の手で腕を持って、
上げ「られる」と、
結構、上まで上げられる
という症状も特徴です。
筋肉が痩せている
腱板損傷では、
損傷した筋肉は使えなくなってくるので、
筋肉が萎縮します。
そうすると、裸になって、
両肩甲骨を比べてみると、
筋肉が痩せていることがあります。
肩腱板損傷は症状だけでは判別できない
最後に元も子もないような話ですが、
こういった特徴はあるモノの、
多くの肩腱板損傷の患者さんを拝見してきますと、
まったく肩が上げられない人や、
痛くて眠れない人もいらっしゃれば、
ちょっと痛い程度の人、
時には痛みが全然ない人までいます。
そういった経験から
僕は肩が専門だからこそ、
症状だけでは肩腱板が損傷しているか否かを
判断できないと考えています。
そのため、症状の経過や
患者さんの求めるレベルと肩の現状の機能のギャップ
などを判断して、
必要があれば、積極的にMRIや超音波などで
肩腱板損傷の有無をチェックしています。
まとめ
今回は肩腱板損傷において、
有効性を示す可能性があるテーピングと
腱板損傷の判定テスト・症状について
基本的な考え方とともに解説いたしました。
少しでも参考になりましたら幸いです。
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