今回は肩腱板損傷のトレーニングとリハビリ方法のポイント
ということで、
手術を行わない、行っていない保存療法におけるリハビリと
手術におけるリハビリテーションについてお伝えします。
さらに保存治療や手術、手術の必要性の考え方についても
後半に解説しておりますので、気になるところを読んでみてください。
肩腱板損傷というのは
肩の大切な筋肉が切れてしまっている状態で、
リハビリについても
どうすればいいのか?迷うところだと思います。
そこで、腱板が切れているときの
リハビリはどうすべきか、という考え方と
具体的なリハビリ動画のご紹介を
してまいります。
こんにちは、肩を専門とするスポーツ整形外科医の歌島です。
本日は記事をごらんいただきありがとうございます。
それではいきましょう!
肩腱板損傷(断裂)の治療期間をシミュレーション
まずは手術しない場合と手術した場合の肩腱板損傷の治療期間を
どういったことをやるのかに注目しながら、
ザッと解説していきますので全体像を掴んでください。
手術をせずに治療した場合
まず手術をせずに
腱板損傷の治療をした場合です。
腱板損傷自体は、
特に完全断裂は手術以外で
くっつけるのは難しいわけですが、
治療目標は腱板をくっつけること
ではなく、
スポーツ選手ならスポーツ復帰や
パフォーマンスアップや維持。
一般の方なら日常生活で痛みなく使える肩を作ること
と言えますので、
必ず手術というわけではありません。
最初の1−2ヶ月:炎症をおさえる
まず痛みが強い最初の1−2ヶ月は
炎症を抑えることを考えます。
それは
消炎鎮痛剤の内服や
肩へのステロイド注射などがあります。
ただ、この時期は過ぎて、
治療開始になることもあります。
次の3ヶ月:リハビリテーション
痛みがある程度落ち着いてきたら、
次にリハビリです。
腱板断裂部、その周囲の炎症が落ち着いても、
また、動きの中で、
負担がかかる動きがあれば、
痛みが再発することになりますし、
スポーツなどで元々の負荷が強い場合は、
周囲の筋肉を鍛えたり、
動きそのものを改善していく必要があります。
リハビリのポイントは
肩甲骨の動きの改善、
肩関節の可動域の改善、
インナーマッスルトレーニングなど
になります。
定期的な検査を
腱板損傷(断裂)において
手術をしなかった場合は、
腱板自体がくっついていることは少なく、
むしろ断裂が拡大してしまうことが多いです。
そのため、
半年や1年に1回 MRIなどでチェックする
ということをオススメしています。
スポーツ復帰は早くて2ヶ月、しっかりやって4ヶ月以上
スポーツへの復帰は
痛みの回復具合、
リハビリの進み具合で決まりますので、
一概には言えません。
ただ、一般的には2–4ヶ月、
時に半年以上かかることもある
と考えていいかと思います。
そういった流れの中で、
改善が得られなければ、
一度は回避した手術を考える
ということもあります。
関節鏡下腱板修復術を行った場合
次に腱板損傷(断裂)の一番一般的な手術である
関節鏡下腱板修復術を行った場合を考えます。
術後1-2ヶ月:日常生活では肩の徹底安静
まず手術したての1ヶ月
ここは、肩の安静が一番大切です。
装具を使って、ほぼ動かさない
ということも良く行われます。
術後すぐに、
無理して動かせば、
再断裂のリスクがありますし、
また、手術の炎症が残り、
痛みが強いままやることは
周りの筋肉も含めこわばらせることになるので、
最初は安静が基本です。
また、炎症を抑えることも大切ですので、
痛みによっては
積極的に消炎鎮痛剤の飲み薬などを処方します。
術後のリハビリの禁忌事項については
こちらで解説しております。
術後1-2ヶ月:肩の他動運動訓練
日常生活では安静にしながらも、リハビリとしては
肩を他動的(たどうてき)に動かす
ということを行っていきます。
他動的というのは、
誰かに、何かに動かしてもらう
ということです。
自分の力、筋力を使わないということですね。
自分1人でリハビリをやるときは、
手術していない側の手を使って、
腕を動かす
ということになります。
術後1.5ヶ月から6ヶ月まで:肩の自動運動訓練
いよいよ、
縫ったところがくっついてくる時期に
やっと自分の力で肩を動かす訓練が開始になります。
これが自動運動訓練ですね。
大きな腱板断裂の手術のあとは、
そう簡単には肩は挙がるようにはなりませんが、
あるときからスーッと挙がるようになる
という患者さんを多く拝見していますので、
地道ですが、リハビリを続けていくのが
大切と考えています。
腱板がくっついても、
その腱板筋群を効果的に使えるまでに
また、さらなる時間がかかる
ということだろうと解釈しています。
筋力訓練を段階的に
肩の自動運動訓練が進めば、
肩周りの筋力訓練となります。
まずは弱い負荷から
腱板筋群をより使えるような
トレーニング
それらが進めば、
アウターマッスルのトレーニング
と段階的に進めていきます。
運転は術後6週間以降で120°くらいの挙上ができるようになったら
いつになったら運転できますか?
ということはよくいただく質問ですが、これには社会的な責任がともないますので必ず主治医と相談してください。
僕の場合はスムーズに120°くらい肩を挙上できる状態を1つの目安としています。
これは術後6週間以降でないと達成できないことが多いと思いますし、もっと時間がかかることもあると思いますが、焦らずにリハビリをしていただければと思います。
スポーツ復帰は6ヶ月以降
このように肩腱板損傷の手術後は
ゆっくり時間をかけてリハビリをやっていきますので、
スポーツ復帰は半年以降になる
と考えた方がいいかと思っています。
ここまでが手術を行わない場合と行った場合のリハビリを含めた治療期間の流れです。
次に、それぞれのリハビリテーションのポイントについて解説します。
肩腱板損傷のリハビリ方法・トレーニングのポイント
まずは手術を行わず、
保存治療を行った場合の
リハビリのポイントを解説いたします。
手術後のリハビリの注意点については
こちらをご参照ください。
急性期は肩甲骨周囲のトレーニングを中心に
急性期というのは、
正確には腱板が切れてしまってから
しばらくの痛みが強い時期
という意味ですが、
実際には「いつ腱板が切れてしまったか?」
ということはわからないことが多いです。
そのため、
シンプルに痛みが強い時期
ということにしましょう。
この痛みが強い時期の
保存療法としては、
その痛みの原因である炎症を
抑えるということに主眼が置かれます。
リハビリということで、
無理にたくさん肩を動かすと、
炎症が強まって、痛みが強まりかねません。
そこで肩関節というよりは
肩甲骨をあらゆる方向に動かす。
ということをオススメします。
シンプルなリハビリ方法としては、
CATと呼ばれる
四つん這いで肩甲骨を広げて、寄せて
を繰り返すトレーニングや
肩すくめ運動によるリハビリがオススメです。
炎症が落ち着いたら肩の可動域トレーニング
炎症が落ち着いて
痛みがひいてきたら、いよいよリハビリとして
肩の関節そのものを動かし始めます。
肩腱板損傷の場合は、
肩関節がカタくなるケースは
あまり多くないのですが、
それでも、挙上、外転という
腕を上に上げていく範囲は徐々に
狭まってくることがあります。
また、自動可動域といって、
自分の力で挙げる
というときには
痛みが走ってしまい
挙がらない
後ろに腕を回せない
というケースはよくあります。
こういったときに、
特に腱板損傷では
アウターマッスルに力がより入ってしまい、
肩の動きがスムースでなくなってしまうことが
1つの原因ですので、
いかに無駄な力を入れずに
肩を動かしていくか
ということが大切です。
その感覚を一番養いつつ、
動かす範囲を広げていくのにオススメなのは
振子運動訓練と呼ばれる
リハビリトレーニングです。
力を抜いて、身体ごと、揺らすことで、
脱力した肩から先がが動かされる感覚で
動かしていきましょう。
インナーマッスル(腱板)トレーニングは弱い負荷でじんわりと
肩の腱板損傷においては、
傷んでいるんだから
腱板筋群であるインナーマッスルのトレーニングは
するべきではないのでは?
という考えもあります。
ただ、肩のはたらき、仕組みを考えると、
むしろ、
腱板損傷の人こそ、
インナーマッスルのトレーニングが
リハビリにおいて必要と僕は考えています。
どういうことかというと、
肩というのはアウターマッスルと
インナーマッスルの共演で
動いています。
その中で、アウターマッスルは強い力、
インナーマッスルはその強い力の中でも、
不安定な肩を安定させる力、
という役割分担があります。
しかし、インナーマッスルが弱っている、
使えない状態があると、
アウターマッスルの強い力に
不安定な肩は振り回されます。
そうすると、傷んでいた腱板も、
余計に引っ張られたり、
インピンジメントを起こしたりします。
インピンジメントについては
こちらをご参照ください。
そういう意味で、
肩のインナーマッスルの中でも
完全には切れていない腱板を
効果的に使って、
肩を優しく使える
そんな状態をめざします。
ポイントは負荷は
「こんなんで意味あるの?」
という程度の弱い負荷で
トレーニング用のチューブは
段階的に張力があるモノが多いですが、
弱い張力のモノを使います。
腱板筋:棘上筋を鍛えるトレーニング
これは棘上筋という筋肉のトレーニングで、
トレーニング中に肩甲骨の上の方が
熱い感じになれば効いている証拠です。
棘下筋を鍛えるトレーニング
これは棘下筋という筋肉のトレーニングで、
トレーニング中に肩甲骨の真ん中あたりが
熱い感じになれば効いている証拠です。
肩甲下筋を鍛えるトレーニング
これは肩甲下筋という筋肉のトレーニングで、
トレーニング中に胸筋の奥の方が
熱い感じになれば効いている証拠です。
肩腱板損傷の保存療法:痛みに対する治療
手術をする場合もしない場合、
痛みに対する炎症を抑える治療というのが、
リハビリテーション・トレーニングと両輪として大切な役割を持ちます。
痛みに対する治療
腱板が切れてしまうと、
身体は当然、治そうとします。
その反応のひとつが
炎症反応です。
これは痛みを伴います。
ですから、いわゆる痛み止めは
消炎鎮痛剤と呼ばれるわけですね。
炎症を消して、痛みを鎮める
ということです。
これには湿布などの外用剤や
内服薬が使われます。
また、腱板損傷部周囲に、
炎症を強く抑える作用がある
ステロイド剤を注射することも
よく行われます。
これらの治療は、
損傷した腱板を治す
という目的ではありません。
ただ、痛みを抑えないと、
肩の動きに支障をきたします。
結果、肩がカタくなったり、
リハビリテーションが進まない
ということになりますので、
重要な治療のピースです。
肩腱板損傷のリハビリの禁忌からポイントに迫る
次に肩腱板損傷の術後、
特に関節鏡を使って腱板を修復する
という今主流の手術を行ったケースの
術後リハビリについて解説します。
手術からしばらくは縫った糸だけに頼っている状態
手術というのは、
肩腱板の断裂した端っこに
糸を通して、
その糸を引っ張った状態で、
骨に固定ています。
つまり、縫った糸だけで
腱板を固定しているわけですね。
そこから時間をかけて、
腱板と骨がくっついていくわけですが、
通常の筋肉と筋肉を縫ったときよりも
時間はかなりかかります。
そのため、その間、
糸だけで固定している
ということになります。
ということは、手術後に、
せっかく縫った腱板が、
また切れてしまう。
そういうリスクにさらされている
ということを理解しないといけません。
腱板の再断裂を防ぐには筋肉を緩めること
この再断裂を防ぐにはどうすればいいのか?
ということですが、
縫ったのは腱板という筋肉の先端ですね。
つまり、筋肉が収縮する=力が入る
ということで、縫った腱板が
再断裂する方向に引っ張られます。
そのため、手術後しばらくは・・・
だいたい、
2–3ヶ月くらいと
考えていいと思いますが、
そのくらい長い期間、
筋肉を緩めておくこと、
つまり、
力が入って、縫合部分を引っ張らないようにする。
ということが原則と言えます。
その原則から、
具体的に2つのリハビリ禁忌が考えられます。
腱板術後リハビリ禁忌1:術後早期からの自分の力で動かすこと
1つは手術後早期から、
つまり、まだ十分くっつく前から、
自分の力で肩を動かしてしまうことです。
これを防ぐために、
術後数週間は
肩関節装具を使用したり、
三角巾を使用したりします。
これを理解していないと、
装具をしているのに、
シャワーや着替えのときに、
平気で自分で肩を上げて外したり
というようなことをする人がいます。
自分で肩を動かさない・・・
あまり考えたことがない注意点だと思います。
こういうと、
肘から手首まで
全然動かせなくなっちゃう人もいます。
一番は重力などの
力に拮抗して肩を動かすのをやめたいので、
シンプルな言い方としては、
「脇を前後、左右に開かないでください」
と言っています。
肩を動かすという中で、
- 屈曲は前に脇を開く動き
- 伸展は後ろに脇を開く動き
- 外転は外側に脇を開く動き
- 内転は内側に脇を(開くとは言わないかもしれませんね)
ということになります。
これらをしないということは、
腕は常に装具や三角巾のなかか、
それらを外した後なら、
体幹の側面についていることになります。
腱板術後リハビリ禁忌2:激痛を我慢しての激しい可動域訓練
もうひとつの禁忌は、
痛みが強い中でも、我慢して、
激しく動かすということです。
「リハビリテーションというのは、
激痛を我慢して我慢して、
動かせるようにするモノだ」
というイメージを持っている人は多いです。
実際、
ある程度の我慢は必要なのですが、
激痛を我慢しながらやると言うことは、
反応的にめっちゃ力が入ってしまっています。
わかりますよね、
原則から逆行しています。
そのため、消炎鎮痛剤などを使いながら、
リハビリ中の痛みを抑え、
できるだけリラックスした状態でリハビリを行う。
ということが非常に重要です。
ここまで手術する場合としない場合のリハビリ方法・トレーニングについて解説してまいりましたが、次に手術ってそもそも何をやるの?、手術するかしないかはどう決めるの?ということについて解説を加えていきたいと思います。
肩腱板損傷の完全断裂と部分断裂(部分損傷)について
今回の腱板損傷の手術療法は部分損傷の手術法についてです。
ということで、完全損傷と部分損傷の違いについて説明します。
完全損傷と部分損傷の違いを正確に理解するには、
腱板にはある程度、厚みがあるということを知る必要があります。
そして、腱板はいくつかの層にわかれています。
肉眼レベルでザックリ言えば、
浅い層(浅層)と深い層(深層)の2層構造で考えます。
- 浅層=滑液包面
- 深層=関節包面
と呼んでいます。
腱板断裂において、この浅層と深層が両方とも断裂してしまうと、
関節の中と外が交通(つながって)してしまいます。
部分損傷は3種類あり
それに対して、部分損傷というのは、
浅層(滑液包面)、もしくは、深層(関節包面)、
もしくは、その間が切れてしまう
と考えてください。
浅層の断裂を滑液包面断裂
深層の断裂を関節面断裂
その間の断裂を腱内断裂
と呼びます。
もちろん、完全損傷より部分損傷の方が、
軽症です。
この部分損傷も放置すると徐々に重症化して
完全断裂に至ってしまうことが多いです。
肩腱板損傷 -部分損傷-の手術法
まずは部分損傷の手術方法について解説します。
【関節鏡下腱板修復術】内視鏡だから縫える
関節鏡下腱板修復術というものですが、
これはそのままシンプルです、
先ほども出てきた関節鏡を使って、
腱板の切れたところを修復するということです。
修復の方法は
細かく言えば、いろいろありますが、
大原則は、
骨に腱板の切れ端を縫い付ける
ということが必要になります。
腱板断裂は
骨から剥がれるように切れるのが特徴でしたね。
そのため、骨に糸を通すのは
難しいので、
一般にはアンカーという
糸付きのスクリューを骨の中に埋め込んで、
その糸を腱板に通して、
結ぶなどして固定します。
関節鏡でなければ縫えない
関節面断裂や腱内断裂は
関節鏡を使わないと縫えない
と言ってもいいでしょう。
昔は腱板断裂は、
皮膚を数cm切って、三角筋という
アウターマッスルをこじ開けて、
腱板に到達して、
直接観ながら縫っていました。
今もその方法で縫う先生もいますが、
関節面断裂や腱内断裂は
関節の中と外を行き来して、
縫合しないといけません。
しかし、部分断裂では、
腱板を完全に切らない限りは
関節の中は直視できません。
それはやりすぎですよね。
治してるのか、壊してるのかわかりません。
そういう意味では、
この部分損傷の治療においては、
特に関節鏡手術に優位性があると言えるでしょう。
クリーニング手術と修復術 使い分けは?
じゃあ、どっちの手術がいいのか?
という疑問は当然出てきますよね。
これは、一言で言えば、
重症度です。
部分損傷の中でも完全損傷になりそうな
損傷の大きさであれば、修復しますし、
ほんのわずかの部分損傷であれば、
自然修復を期待して、
クリーニングにとどめます。
そこは最終的には
関節鏡でしっかり観察して決めることになります。
肩腱板損傷の手術は必須ではない
しかし、そもそも手術はした方がいいのかどうか?
ということについて、
考察していきたいと思います。
まず僕がいつも話すことです。
「肩の腱板損傷を放置したとして、
命に関わるモノではありません。
ですから、絶対に手術をしなくてはいけない
ということはありません。」
これは極論ですが、
どうしても、医師から「手術」と言われれば、
手術しなくてはいけないもの
と思ってしまう患者さんがいらっしゃるので、
お話ししています。
これは実際、事実で、
患者さん個人個人の
肩関節に対して求めるレベルと、
現状の肩関節の機能、はたらき、痛み
そして、
肩腱板損傷があるという中で、
今後の経過の予測
これらを総合的に判断して、
手術がオススメの場合はそれを提案しますし、
手術はやめておきましょうという
提案をすることもあります。
肩腱板損傷の手術は行わなくても放置はしない
手術をしない
という判断をした場合でも、
腱板損傷というのは、
多くは重症化していくモノです。
そして、その重症化が、
必ずしも
症状に表れず、
症状に表れたときには、
もう手遅れなくらいに
(腱板修復できないくらい)
重症化している
なんてことがあります。
そのため、保存治療の結果、
症状が改善したとしても、
1年に1回など、
間を置いて、
肩の超音波やMRIによる
腱板断裂の状態の評価をオススメしています。
肩腱板断裂の手術法
次に部分損傷から重症化した完全断裂の手術について
解説いたします。
こちらもシンプルに切れてしまった腱を
もともとの骨に縫い付ける、
ということが「腱板手術」もしくは
「腱板修復術」と言います。
この腱板手術には
直視下と関節鏡視下の2種類があります。
それぞれメリット、デメリットがありますので、
解説いたします。
【直視下腱板手術】直接傷をあけて縫う
直視下の場合は、
皮膚を5–6cm切って、
三角筋というアウターマッスルを
裂くようにして、一部、切って、
腱板断裂部を直接みえる状態で手術をします。
メリットは比較的簡便
メリットは手術時間が短いこと
手術する医師による技術の差が出にくいこと
が言われています。
デメリットは手術によるダメージや観察範囲の狭さ
しかし、手術創が大きいことや、
三角筋という損傷していないアウターマッスルに
ダメージが加わってしまうことは
デメリットと言えます。
そのため、術後の痛みや、可動域の回復が、
関節鏡手術より劣ると考える人も多いです。
また、直接見える範囲というのは、
限られていて、
特に関節の中は腱板の断裂の大きさによって、
多少見えることもあれば、
全然見えないこともあります。
これは関節鏡との大きな違いで、
より微細なレベルの関節内の異常
(腱板関節面断裂や関節唇損傷)などは
直視下手術では発見すらできないこともある
と言えます。
【関節鏡視下腱板手術】内視鏡で縫う
それに対して、
関節鏡視下腱板手術では、
関節鏡という内視鏡を用います。
ペンよりも細い筒型のカメラを
関節の中や滑液包の中に挿入するわけですが、
胃や腸のように、
穴(口やお尻の穴)があるわけではありません。
そのため、小さく
1cmくらいは皮膚を切開して、
関節鏡や手術用の鉗子(はさみやメスなど)を
挿入して手術をします。
メリットは手術ダメージが少ない、観察範囲が広い
メリットは直視下腱板手術のデメリットが
そのままメリットと言えます。
三角筋という筋肉を大きく裂いたり、
切ったりする必要がないことでダメージが少ないこと。
また、関節内も含めて、
様々な方向から様々な部位を観察できることによる、
病態の把握ができ、見逃しが減ること。
これがメリットと言えるでしょう。
関節鏡の創は1cm程度と言いましたが、
実際はこれが4–6個くらい、
複数の創ができます。
それは様々な方向から観察したり、
鉗子を入れたりするためですが、
それなら、足せば直視下と変わらない
創の大きさになるという意見もあります。
しかし、足して同じ
というのは、単純計算というか、
安易というか・・・
創の目立ち具合も
明らかに直視下の5–6cmの創の方が目立ちますし、
なにより、
三角筋へのダメージは
直視下手術による
1カ所の創で患部がしっかり直視できるように
大きく裂くというのと、
関節鏡手術による
いくつかの場所から
細い鉗子や関節鏡を三角筋を貫いて操作する
というのでは、
全然違うというのが実感です。
デメリットは術者の習熟が必要
デメリットは、これまた直視下のメリットの裏返しです。
関節鏡を使うと、
直視下よりはどうしても少し時間がかかります。
僕自身も関節鏡手術を
毎週のように執刀させていただいておりますが、
手術時間は1–2時間くらいかかります。
しかし、直視下手術では30分くらいで
慣れれば縫合できます。
また、関節鏡手術で1–2時間と言いましたが、
経験の浅い医師になると、
3時間以上かかることもあります。
関節鏡手術の方が、
技術的には難しいと言えます。
そのため、手術する医師によって、
治療成績に差が出る可能性があります。
【人工肩関節手術】肩関節を金属に入れ替えてしまう
最後に人工肩関節手術ですが、
これは腱板が修復できないと
判断したときの選択肢です。
腱板断裂があまりに広範囲となれば、
その断裂部をもとの骨に引っ張ってくる
ことができません。
どうしても届かない・・・
ということが起こります。
それでも、太ももの筋膜を移植したり、
人工靱帯のようなもので補強したり、
という工夫をするのですが、
広範囲に切れてしまって、
時間が経って、筋肉としての機能を
失ってしまった腱板を
いくらむりやり修復しても
結局、肩の機能は回復しない。
ということが起こりえます。
それならば、肩関節自体を
人工の金属にして、
それも特殊な形状の人工関節を挿入すると、
インナーマッスルである腱板筋群がなくても、
肩を上げることができます。
人工関節ですので、
手術創も大きく、
身体に対する負担も大きな手術ですが、
最後の手段の手術として、
十分、期待を持てる手術法と言えます。
次に腱板を修復したにもかかわらず、再断裂してしまったときにどう考えるか?
ということもお話ししておきます。
腱板断裂の手術をしたのに再断裂ってどういうこと?原因は?
腱板と骨がくっつくという難しさ
冒頭でも述べましたが、
腱板断裂の手術は腱というスジと骨がくっつかないといけません。
スジとスジ、骨と骨がくっつくのは比較的容易ですが、スジと骨という違うものがくっつくというのは簡単ではありません。
そのため、くっつくまでに時間がかかります。
骨折は1.5ヶ月くらいでかなりくっついてくれますが、腱板と骨ということで言えば、1.5ヶ月くらいでくっつき「始める」くらいのイメージです。そして、3ヶ月くらいで筋肉に負荷をかけても大丈夫と言えるくらいのくっつきになります。
それまでは縫った糸でしっかりと骨にスジを固定しておかないといけませんが、その過程で、腱板(スジ)がちぎれてしまったり、糸が切れてしまったりすることがあります。
この結果、再断裂という状態になります。
腱板断裂の手術ですべて完璧に縫えているとは限らない
また、もともと最初の手術において、完璧に腱板を骨に固定できないこともあります。
これは腱板断裂が重症で、腱板をいくら引っ張っても元々くっついていた骨まで届かないことがあります。
その場合は部分修復という状態になります。
(太ももの筋膜を移植したり、人工の靭帯のようなモノを使うこともあります。)
一部は切れた状態だが、一部は縫えた状態ですね。
この状態で術後にMRIを撮ってみると、当然、一部は腱板断裂の所見が見られます。これは再断裂とは言わないかもしれませんが、こういった部分修復になってしまいそうな重症の腱板断裂の再断裂の確率は高いと言われています。
腱板が再断裂した場合は必ず再手術か?
では腱板が再断裂してしまった場合は再手術をしないといけないのか?というお話に移ります。
再断裂と言っても、どの程度の再断裂かしっかり把握する
まず再断裂の程度を評価するということですが、
部分修復になった場合は特にそうですが、手術前と手術後のMRIを丁寧に比べる必要があります。これは主治医の仕事ですが、
- 手術前よりも大きく再断裂してしまった場合
- 手術前と同じレベルに完全に戻ってしまった場合
- 手術前よりはくっついている部分がある場合
と少なくとも3段階の評価をします。
肩のはたらき(筋力、可動域など)や痛みの回復を評価
さらに肩のはたらきとして、筋力や可動域(動かせる範囲)や痛みの回復具合を調べます。
また日常生活やスポーツ動作などにおいてできることとできないことをハッキリさせます。
再手術は一般的には厳しい戦いになる
このように画像と実際の肩のはたらき、症状を総合的に判断して、再手術が必要と考えれば、主治医から提案があるでしょう。
しかし、最初の手術でもできうるベストな手術をしたはずですから、それで再断裂してしまったということは、腱板の状態としてはなかなか厳しい状態であると考えられます。
それをもう1度手術して、次はくっつくのか?というと、それは難しいかもしれません。
そこで、太ももの筋膜を移植したり、人工の靭帯などで補強したり・・・
それどころか腱板の修復は断念して、人工関節を入れる手術に切り替えたりと、大変な手術になる可能性もあります。
実際に再断裂はときに起こっているが、再手術は少ない
ですから、再断裂が起こってしまったら、即イコール再手術とはならず、むしろ、再断裂していても、症状は手術前より改善しているから、リハビリテーションを中心に手術せずに治療していきましょうというケースのが方が多いです。
次に、少しマニアックに細かい話に移ります。
それは肩甲下筋腱という肩の前方の腱板損傷に関連するお話です。
肩甲下筋を痛めたらしい・・・それ本当ですか?
ときどき解剖学を学んだ選手や筋トレ愛好家の人が、
「肩甲下筋を痛めたみたいです」
といって受診していただくことがあります。
診察してみると、たいてい痛みの原因は肩甲下筋じゃないんです。
野球などのスポーツやトレーニングで肩甲下筋を痛める?
野球では肩のインナーマッスルの重要性がだいぶ認識されてきています。
ですから、肩の前が痛いとなると、肩甲下筋だと思っているケースが少なくありません。
投球障害において腱板損傷というのは注意すべきモノですが、その多くは棘下筋か棘上筋です。肩の前側の痛みであれば、上腕二頭筋長頭腱炎や腱板疎部損傷のほうが多いです。
こちらの記事もご参照ください。
他には、ウエイトトレーニングで肩の内旋を使う種目(ベンチプレスなど)で肩の前が痛くなって、肩甲下筋の痛みと判断されることがあります。
これもかなり可能性は低いと言わざるを得ません。
たいていのウエイトトレーニングでは肩甲下筋への負荷以上に大胸筋などのアウターマッスルに強い負荷がかかっていますので、肩甲下筋が痛むことは多くはありません。
腱板断裂としての肩甲下筋腱断裂
とはいえ、もちろん肩甲下筋が痛んでしまうことはあります。
肩甲下筋はご存じの通り、肩のインナーマッスルの集合体である回旋腱板(かいせんけんばん)の1つです。
その回旋腱板の損傷である腱板断裂として肩甲下筋腱断裂が起こることはあります。
これはある程度大きめの外力が加わることで断裂してしまう外傷と、年齢+オーバーユースという慢性的な要因が二大原因です。
肩甲下筋がしっかり働いているかチェックする
肩甲下筋腱が切れてしまう、肩甲下筋腱断裂ですが、
これは超音波検査やMRI検査などの精密検査で見つけることができます。ただ、微細な断裂は関節鏡という実際の手術のときにはじめてわかることもあります。
ただ、最初に確認したいのは
肩甲下筋がしっかり働いているか否か?
そして、肩甲下筋を働かせたときに痛みが出ないか?
ということです。
その判別方法をご紹介します。
Supine Napoleon test 仰向けでのナポレオンテスト
これはナポレオンテストやベリープレステスト(belly press test)と言われています。
仰向けに寝た状態で、お腹に手の平を当てて、そこから肩に手を当てて肩を前に出さないようにしながら、肘だけ前に動かすことができるかというテストです。
肩甲下筋が働かないと肘が前に(仰向けに寝ているので上と言えますが)出てきません。
また、このリフトオフテストやナポレオンテストで力を入れようとしたら、肩の前が痛いというのも肩甲下筋が切れてないまでも少し痛んでいるサインかもしれません。
肩甲下筋を痛めたときの治療法
それでは肩甲下筋を痛めてしまったときの治療法についてお伝えします。
本当に肩甲下筋が痛みの原因かをはっきりさせる
すごく大切なのはここまで述べたように本当に肩甲下筋が肩の痛みの原因なのか?
ということです。
意外と違うことも多いということを解説しましたし、
さらに肩甲下筋のはたらきをみるテストも解説いたしました。
これらの知識を元に、やはり肩甲下筋が怪しいと思ったときには整形外科での精密検査に進みます。
超音波やMRIですね。
そこで肩甲下筋の損傷があったり、肩を専門とする整形外科医の診断で肩甲下筋が原因となれば、その治療に移ります。
肩甲下筋腱断裂の場合は手術が原則
肩甲下筋腱断裂があれば、手術を積極的に考えます。
もちろん、肩甲下筋腱断裂があればなんでもかんでも手術というわけではありませんが、肩甲下筋腱断裂に限らず腱板断裂は自然治癒が難しいことや、肩甲下筋腱は肩の前を走る唯一のインナーマッスルとして重要なので可能なかぎり手術で治療したいというのが僕の意見です。
肩甲下筋腱が切れていなければリハビリが原則
もし精密検査の結果、肩甲下筋腱断裂がなさそうとなれば、まずはリハビリなどで治癒を目指します。
そのときに重要なのは、なぜ肩甲下筋が痛んでしまったのか?ということです。
スポーツ動作の繰り返しであれば、フォームに問題はないか?ということや、肩のインナーマッスルが使えていないのではないか?とか、肩甲骨の動きが足りないのではないか?というようなことをチェックしていき、その結果に従って適切なリハビリを行っていくことになります。
まとめ
今回は動画もご紹介しながら、
肩腱板損傷のときの手術しないケース(保存治療)と手術するケースの
- 治療期間の流れ
- リハビリ・トレーニングのポイント
- 手術するべきか否か
- 手術方法
について解説いたしました。
少しでも参考になりましたら幸いです。
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