今回は指の伸筋腱脱臼(しんきんけん)と呼ばれる外傷について解説いたします。
これは脱臼と言っても腱の脱臼なので関節脱臼ほど緊急で重症!ってわけではないですが、手術に至ることも多い外傷ですので注意が必要です。
こんにちは、スポーツ整形外科医の歌島です。本日も記事をご覧いただきありがとうございます。
それではいきましょう。
指の伸筋腱とは?
まず指の伸筋腱とは?ということから入ります。
指を伸ばすスジ
指を伸ばすのは当然、筋肉の働きによるわけですが、それを指の伸筋(しんきん)という筋肉が担っています。
手の場合は筋肉そのものは母指球や小指球という一部分にしか存在しなく、それ以外の筋肉はみんな腱(けん)という細いスジになっています。
こちらのイラストで言えば、白いスジはみな腱です。
実際に触れたり皮膚上に盛り上がって見えたり確認可能
この伸筋腱は指を伸ばす役割なので、手背(手の甲)側にあります。手の甲は皮膚も皮下脂肪も薄いので触ったり、スジの盛り上がりが見えたりします。
試しに手の甲を見てみましょう。
指をギューッと伸ばすと突っ張るスジがそれぞれの指に走っているのが見えるのではないでしょうか。小指は細くて見えにくいかもしれません。
指の伸筋腱脱臼の原因は?症状は?
この指の伸筋腱が脱臼してしまうとはどういうことか?
一番先っぽから3番目の関節であるMP関節(母指では2番目)ですが、このMP関節部分で外れてしまいます。
これは何かを殴ってしまったときなど、手の甲側に強い衝撃を受けたときに起こりやすいケガです。
手を握ったときに横に外れる
常に外れているわけではなく、多くは手を握ったときに横に外れます。そして、この外れる瞬間に痛みが走るというのが典型的な症状です。
MP関節部分で外れてしまうと言いましたが、具体的には握り込むときにMP関節が深く曲がり、腱がショートカットしようとして横にそれるというのがメカニズムです。
矢状索(しじょうさく):sagittal bandと呼ばれるスジの損傷
伸筋腱がなぜ外れてしまうのか?というと、外れないように支えてくれている膜が切れちゃったからなんですね。
この膜を矢状索(しじょうさく)とかsagittal bandといいます。
伸筋腱脱臼の治療は早期は固定、時間が経ったら手術
伸筋腱脱臼の治療としては、要は外れないようになればいいわけですね。そのために切れてしまった矢状索が修復される必要があります。
そのためにやるべきことは傷めてからどのくらい時間が経っているかで変わります。
1週間以内くらいなら指の固定で治せる可能性あり
1週間以内くらいであれば、自然に修復される見込みがまだありますので、脱臼しない状態に指を固定することが治療になります。
握りこむと外れるというのが典型的症状と述べましたが、治療はそのようにならないようにすることですから、MP関節を伸展した状態で固定することになります。
このような保存療法で治そうとした場合は1–1ヶ月半の固定期間が必要です。
ただ、脱臼の程度や固定期間の長さなどを考慮して、早期から手術をオススメするケースもあります。よく主治医と相談しましょう。
手術で矢状索を縫合する
実際は伸筋腱脱臼直後は腫れていて、脱臼には気付かず、時間が経ってから受診されるケースや、時間が経ってから診断に至るケースがあります。
そういった場合には固定だけでは修復は難しいので、手術が必要になります。
手術は矢状索を縫合するというのが基本です。矢状索はあまり強い膜ではなく、繊細な膜なので細い糸をたくさん使って、縫い合わせていきます。
局所麻酔で日帰り手術可能なものです。
一般的には術後3週間程度の固定で動かしはじめることができます。
まとめ
指の伸筋腱脱臼というものがあるということと、その治療法について解説いたしました。
まずはそういう病態があるということを知ること、MP関節部分の手背側が痛いときには、この可能性を考えて観察することが大切だと思います。
少しでも参考になりましたら幸いです。
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