今回は完全骨折と不全骨折という言葉の意味と違いについて解説しながら、不全骨折は注意が必要であるということについてお伝えしたいと思います。
この違いを理解しておくことは骨折全般の治療において大切なことだと思いますが、そんなに難しいことはないので押さえておきましょう。
こんにちは、スポーツ整形外科医の歌島です。 本日も記事をご覧いただきありがとうございます。
それではいきましょう!
骨の構造をおさらい
まず骨の構造自体をおさらいしておきましょう。
骨は外側の皮質骨(ひしつこつ)と内側の海綿骨(かいめんこつ)の二層構造をしています。
皮質骨 外側の硬い殻
外側の皮質骨ですが、これは一般的な骨のイメージ通り、カタい組織です。この皮質骨がカタいせいで骨は折れにくいわけですね。
ただ、このカタい皮質骨が中までギューッと詰まっているわけではないということが骨の構造において重要なポイントです。
ぎゅーっと詰まっていれば、強度は強いかもしれませんが、骨は成長もしなければ、骨折も治らないということになってしまうかもしれません。
海綿骨 内側の骨の中枢部
その理由は海綿骨という内側の層の役割が大切だということです。海綿骨は皮質骨に比べ、遥かに弱く、注射の針なんかも海綿骨ならズブズブ入っていってしまいます。(もちろん、普通は皮質骨に囲まれているので入りませんが)
なぜ弱いこの海綿骨が必要なのかと言うと、ここが骨全体の栄養のもとである血が巡る場所であり、もっというと骨髄という血液を作る機能すら持っているんですね。
この海綿骨の血流(血の巡り)があるからこそ、子どもは骨が成長するし、骨折からもくっついて治るということなんですね。
また、骨自体も新陳代謝を繰り返して強度を保ちますが、それも海綿骨が大事な働きを担っています。
骨折の定義とは?
それでは骨折の定義にうつりますが、それは骨の中でも皮質骨の連続性が失われた状態ということです。
つまり、皮質骨で全周性に覆われているから正常な骨なわけですが、どこかで骨が折れるということは、皮質骨の連続性が途絶えてしまったということを表しています。
完全骨折とは?
その中で完全骨折とは皮質骨の連続性が「完全に」失われた状態であり、骨折部分によって2つ以上の骨(骨片:こっぺんと言ったり、大きな主骨片と小さな副骨片と言ったりします)に分かれてしまっている状態です。
不全骨折とは?
それに対して、不全骨折とは皮質骨の連続性が一部だけ失われた状態、逆に言うと「一部だけ皮質骨の連続性が保たれている状態」と言えます。
そのため、骨は骨折部でもグラグラまではしていません。
不全骨折は完全骨折の軽傷型
この定義からして、完全骨折は骨が完全にわかれているので、不安定、ズレやすい(もしくはすでにズレている)という特徴がありますし、不全骨折はその逆ですね。
そう考えると、不全骨折はシンプルに完全骨折の軽症型と言っていいでしょう。
軽傷型なのに治りが悪いことがある
しかし軽症なのに治りが悪いことがあるというのが要注意です。
その要因は2つあって、どちらも一言で言えば油断です。
1つ目は打撲と勘違いして、診断が遅れてしまうということです。打撲の場合は患部の固定はほとんどすることはなく、安静具合も痛みに応じてというのが基本です。
しかし、不全骨折の場合は骨折ですから、安定しているとはいえ、ある程度の固定や徹底安静が必要になります。しかし診断が遅れれば、診断されるまでは少なくとも固定されることはなく、動かしている内に、不全骨折が完全骨折に悪化してしまったり、そこまででなくても、治りが悪くなることがあり得ます。
もう一つは、不全骨折とか「ひび」と言われて、安心してしまうということです。不全骨折でも骨折ですから、必要なレベルの固定や安静を提案しますが、どうしても患者さんの方で甘く見てしまう傾向があります。
その結果、いつの間にか固定を外してしまったり、いつの間にか走ったり、動かしたりしてしまっていて、痛くなってから再受診されるケースがあります。
そうなったときには不全骨折は治りが悪い状態か、完全骨折に悪化しているということがあり得ます。
まとめ
今回は完全骨折と不全骨折の意味と、違いについて解説いたしました。
そして、不全骨折は治りが悪くなることがあって要注意であること。不全骨折は打撲と間違いやすいこと、骨折は骨折だから甘く見ないことが注意点と言えます。
少しでも参考になりましたら幸いです。